隣の空き家が倒壊しそう/倒壊してしまった場合の法的措置・法的責任について

空き家

「空き家状態となっている隣の家が、いつ倒壊するか心配」「こないだの大風で隣の屋根が一部崩れ、うちの外壁を傷つけてしまった」といった話はよくあります。

放置される空き家の数は年々増加しており、環境や治安への影響という点からも問題となっていますが、やはり重要なのは周囲への危険という点です。

では、そのような空き家が隣にある場合、法的な対処法としてはどのようなものがあるのでしょうか。
また、所有者はどのような法的責任を負うのでしょうか。

以下、補強工事や解体の請求、損害賠償請求のほか、空家対策特別措置法に基づき行政が行うことができる手段について解説します。
また、空き家の所有者が不明の場合についても触れます。

まずは所有者に連絡を

隣の空き家が今にも倒壊しそうなのであれば、まずは自らが避難すべきなのはいうまでもありません。

そのうえで、まずは空き家の所有者に連絡をして、補修や解体などをしてもらいましょう。

※ただし、所有者が不明となってしまっている場合には、別途考慮が必要です(後述)。

なお、勝手にこちらが解体してしまうことは許されません。
不法行為(民法709条)として民事上の損害賠償責任を負うことになるほか、建造物損壊罪(刑法260条)として刑事責任を負うことになります。

 

補修工事・解体工事の請求

所有者にお願いをしても補修や解体に応じない場合には、裁判手続によることになります。

自分の所有する財産に危険が差し迫っている場合には、そのような危険を排除するための請求権が認められています(「所有権に基づく妨害予防請求権」といいます)。
これは最高裁の判例でも認められている権利です。

この妨害予防請求権に基づき、倒壊を防止するための措置(補修や解体)を請求することができるのです。

誰に請求できる?

通常はその空き家の所有者です。

ただし、ほかに管理する者がいれば、そちらに請求することになります。

何を請求できる?

こちらに生じる危険を防止する措置、具体的には、これ以上傾いたり倒壊したりするのを防止するよう補修工事などを行うことを請求できますが、いきなり解体まで求めるのは難しいでしょう。

ただし、今まさに倒壊しそうな状態であり、かつ解体以外に手段がない(補修が不可能)と考えられる場合には、解体工事の請求も認められる可能性は十分にあります。

請求の方法は?

訴訟を起こして請求するのが基本です。
こちらの請求が認められれば、判決により強制執行を行うことも可能です。こちら側で強制的に補修などをして、後にその費用を相手から回収することになります。

ただし、判決が出るには短くても半年程度はかかります。
そこで、訴訟の判決を待っていては手遅れになってしまうような緊急の場合には、仮処分の申立てにより1か月程度の審理期間で上記のような決定を得ることも可能です。

法的手段のデメリット

最終的には上記のような強制手段がありますが、時間・費用という2つの問題があります。

まずは時間については、上記のとおり仮処分でも1か月程度、訴訟であれば最低半年はかかります。

次に費用については、弁護士費用(原則として相手方には請求できない)のほか、工事費用の一時立替えという問題があります。

仮に補修工事の請求が認められたとしても、まず工事費用をこちらで立て替えなければなりません。
もちろん、後に相手方から取り立てることは可能なのですが、仮に相手方に資産がなく回収不能となった場合には、完全にこちらの持ち出しとなってしまいます。

そのため、法的手段を検討する際には、これらのリスクを十分に考慮する必要があります。

 

損害賠償請求(倒壊してしまった場合)

補修などが間に合わず倒壊してしまったり、屋根の一部が崩れてこちらの家の外壁が損傷してしまったりした場合、その空き家の所有者に対して損害賠償請求をすることができます。

土地工作物責任

既に当ブログで何度も出ていますが、建物の占有者・所有者はその建物を安全な状態に保つ義務があり、それをおこたった結果他人に損害を発生させてしまった場合には、占有者・所有者は損害賠償責任を負います。
民法717条に規定されているこの責任を「土地工作物責任」といいます。

民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
(以下略)

賃借人のような占有者がいる場合には、まずは占有者が損害賠償責任を負います(占有者に過失がなかった場合には所有者の責任となります)。
空き家のようにそもそも占有者がいない状態の場合は、所有者が責任を負います。
この場合、所有者は過失がなくとも損害賠償責任を免れません

場合によっては刑事責任も

建物を管理する責任者が、その管理をおこたって(過失により)人を死傷させてしまった場合には、過失致死傷罪(刑法209条、210条)が成立する場合があります(ビル看板の落下事故に関する店舗管理者の刑事責任を参照)。

これは空き家の場合でも同様です。
例えば、所有者が管理する空き家が崩れ始めていて、かつ、その状態を所有者が知っていて直ちに修理や周りへの警告ができる状態であったにもかかわらず、何もせずに放置した結果として隣家の住人や通行人を死傷させてしまったような場合であれば、過失致死傷罪が成立し得ます。

 

「こんな家は相続していない、知らない」は通じません

以上のように、空き家の所有者は、補修や解体あるいは損害賠償といった責任を負うことがあります。

一般に、建物の所有者は、これらのように重い責任を負っているのです。
自分が全く利用していなくとも、責任の重さは変わりません。

また、所有者となった経緯は関係ありません
売買や贈与によって自分が所有者となったのであればともかく、相続によって知らぬ間に自分が所有者となっている場合であっても責任の重さは変わりませんので要注意です。

例えば、自分の知らないところに親が建物を持っていて、そのまま親が亡くなってしまったようなケース。
この場合、相続放棄などをしなければ、その建物は自動的に自分の所有物となります。
上記のとおり「知らなかった」は通じませんので、親が亡くなった場合などは、相続放棄ができる3か月の間にしっかり調査を行いましょう。

万一、知らない空き家を相続していたことが判明した場合、早々に現場を確認し、倒壊被害が出そうなら直ちに補修または解体などの対応を行いましょう。

 

行政による解決手段

以上は個人どうしの民事的な解決手段ですが、行政による解決手段としては空家対策特措法などによる措置があります。

空家対策特別措置法

増加する空き家問題への対策として、2014年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家対策特措法)が成立しました(2015年5月に完全施行)。

この法律により、危険な状態の空き家(この法律で「特定空家等」と呼ばれます)に対して、行政が強制的な手段によって補修や解体など必要な措置をとることができるようになりました。
以下、概略を説明します。

「特定空家等」とは

空家対策特措法による「特定空家等」とは、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」とされています(同法2条2項)。

例えば、既に建物が大きく傾いていたり、基礎や主要な柱が大きく破損していたりする場合には、倒壊のおそれありとして「特定空家等」に認定されます。

手続の流れ

「特定空家等」に認定されると、市町村は、所有者や管理者に対して建物の状態を是正するよう指導や勧告を行うことが可能になります。

それに従わなければ、次にその旨の命令をすることができ、さらに命令にも従わない場合には、行政代執行として強制的に補修や解体などを行うことができます。
工事費用は、後ほど所有者などから徴収することになります

※なお、後述のとおり所有者が不明の場合にも、代執行を行うことは可能です。

その他の法律

以上の空家対策特措法による措置のほか、建築基準法や消防法、道路法などの法律により倒壊防止の強制措置を行うことも可能です。

さまざなな法的手段がありますので、隣の空き家が危険な状態にある場合には、まずは役所に相談してみましょう。

 

空き家の所有者が不明の場合

所有者が不明であり、連絡すらできない場合にはどうすればよいのでしょうか。

その場合でも法的措置をとることは可能です。

「所有者不明」の2つのパターン

「所有者不明」といっても次の2つのパターンがあります。

  1. 現在の所有者が誰だかわからない場合(特定不能)
  2. 所有者とされている人がどこにいるか分からない場合(所在不明)

それぞれのパターンに応じて対応は異なります。

特定不能の場合

例えば、登記簿に記載されている所有者が既に亡くなっており誰かが相続していると考えられるが、それが誰だか分からない、という場合です。
数十年以上前から登記がそのままになっているというケースでは、このような事態になることがよくあります。

戸籍をたどって調査すれば現在の所有者が判明することも多いので、まずは専門家に対応を依頼するのがよいでしょう。
(判明したが所在不明、という場合には次項の対応となります。)

相続人がどうしても分からない、あるいは全ての相続人が相続放棄をしていて「所有者がいない」という場合には、相続財産管理人の選任申立てを行います。
そのうえで、管理人と協議の上、建物の解体などを行ってもらいます。

※相続財産管理人制度についてはこちら(解決のための法的手段――土地の「所有者不明」問題③)を参照ください。

所在不明の場合

例えば、登記簿上の所有者はまだ生きていそうだがどこに住んでいるのか分からず行方不明という場合です。

この場合には、不在者管理人の選任申立てを行い、管理人と協議の上、建物の解体などを行ってもらいます。

※不在者管理人制度についてもこちら(解決のための法的手段――土地の「所有者不明」問題③)を参照ください。
 また、以下の記事では、この制度で区が解体を行った例を紹介しています(【空き家問題】区が不在者管理人制度を利用し、費用負担なしで空き家の解体に成功した事例)。

また、所有者を相手に訴訟を起こし強制執行を行うという方法もあります。
相手が行方不明でも、公示送達という方法により訴訟を起こすことができます。こちらの記事(行方不明の相手に訴訟を起こすには? 公示送達について)を参照ください。

空家対策特措法による代執行

さらに、上記いずれの場合にも、前述の空家対策特措法による措置を行うことができるようになっています。
これを略式代執行といいます。

 

早めの対応を

以上のように、隣の空き家が倒壊しそうな場合や、倒壊してしまった場合にはさまざまな法的手段が考えられます。

もっとも、やはり倒壊を未然に防ぐことが一番ですから、隣の空き家が危ないという状況に気づいたら、すぐに行動をとる必要があります。
まずは役所や法律の専門家に相談しましょう。

一方、自分が空き家を所有している方も、以上のような法的責任を念頭にすぐに対応しなければなりません。
異常気象が多発している昨今、いつ強風や大雨などで倒壊するか分かりませんので。
空き家の解体などには行政による補助(助成金)が出る場合もありますので、一度確認してみることをお勧めします。