不動産の管理

がけ崩れ(斜面崩落)の責任は誰が負う? 土地所有者が負う法的リスクについて


2020年2月5日、神奈川県逗子市で斜面が崩落し、下を通行中の高校生が犠牲になるという痛ましい事故が起きてしまいました。

この斜面は特に工事中ということでもなく、突然崩落したようです。

なお、3月2日から、市による応急工事が始まり、工事費用約2500万円の負担については、今後、市と所有者である管理組合との間で協議するとのことです(逗子市の土砂崩れ現場を応急工事 費用はのちに協議:テレ朝news(2020年3月2日))。

また、3月2日、国土交通省国土技術政策総合研究所により、「崩落は水による流動・崩壊ではなく、乾湿、低温等による風化を主因とした崩落」との最終報告が公表されました(土砂災害研究室の災害情報)。

では、がけや斜面が崩落し第三者に損害を及ぼした場合、誰が、どのような場合に、どのような法的責任を負うのでしょうか。

斜面やがけ地に関しては、宅地造成法(宅地造成等規制法)や建築基準法、急傾斜地法(急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律)、土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)、地すべり等防止法のほか、各都道府県のいわゆる「がけ条例」など、さまざまな法令による規制がなされているところですが、ここでは民法上の損害賠償責任などに限って解説します。

多くの場合は所有者の責任

斜面の崩落により、下層地の建物や通行人に損害を及ぼした場合には、誰がその損害賠償責任を負うのでしょうか。

以下に述べるとおり、多くの場合は、その斜面の部分所有者です。

※ちなみに、「土地の境界がはっきりしないため斜面部分の所有者がどちらか分からない」というケースの場合、基本的には上側の人の所有とされることが多いです。

擁壁に問題があった場合

例えば、斜面に設置された擁壁に構造上の問題があり崩落したような場合には、その土地の占有者(賃借人など)が損害賠償責任を負います。
ただし、占有者に管理上の過失がなかった場合には、所有者が(過失がなくとも)責任を負うことになります(民法717条1項)。

賃借人など単なる占有者は、擁壁の管理義務を負わないことが通常ですので、多くの場合には所有者の責任となると考えられます。

擁壁の問題ではない場合

これに対し、自然の状態の斜面やがけが崩落した場合はどうでしょうか。

前記の民法717条は土地そのものの問題の場合には適用できないため、一般原則に戻り、所有者・占有者ともに管理に過失がある場合に限り責任を負うことになります(後述)。

もっとも、前記と同様、賃借人など単なる占有者は、擁壁の管理義務を負わないことが通常ですので、多くの場合には所有者の責任となると考えられます。

 

どのような場合に責任を負うのか

斜面に設置してある擁壁が崩落してしまった場合であれば、その構造が客観的に安全性を満たしていなかった場合に責任が生じます。
前述のとおり、所有者は、擁壁の管理について過失がなかったとしても責任を負います

ただし、築造当時に(その当時の)建築基準を満たしているとの確認(工作物確認)を受けている場合には、たとえ現在の法令の基準では安全性を満たしていなかったとしても、免責される余地があります。

これに対し、自然の状態の斜面やがけについては、所有者に過失がなければ責任を負いません
過失が認められる場合とは、例えば、崩壊の具体的危険(既に少しずつ崩れていたりするなど、崩壊の予兆があること)を現実的に認識していたのに、何らの対策もせずに放置した場合などです。
急傾斜地指定を受け、また危険な状態であることを認識していたのに特段の理由なく長年放置して対策を全く行っていなかった、というような場合も、過失が認められる可能性があります。

なお、自ら盛り土を行ったような場合であれば、上記の擁壁の場合に準じて判断されるでしょう。

 

どのような責任を負うか

損害賠償責任

崩落した土砂などにより、隣地の建物を損壊させてしまった場合には、その補修費用などの損害を賠償しなければなりません。
道路わきの斜面が崩落して、通行人にけがを負わせてしまった場合は、治療費や慰謝料などの損害を賠償することになります。冒頭の件のように被害者が亡くなってしまったケースも同様です(この件では損害賠償額は8000万円前後になるでしょう)。

損害予防措置をとる義務

なお、上記は崩落してしまった場合の責任ですが、場合によっては崩落する前にも責任を負うことがあります。

例えば、斜面を挟んで隣り合った敷地同士で、間の擁壁や斜面が、劣化などにより今にも崩れそうになっているような場合には、擁壁や斜面部分の所有者は、その補修工事を行う責任があります。
また、上記の場合で、やむを得ず相手方が補修工事を行った場合には、所有者はその費用を賠償しなければなりません。

 

所有者の重い責任

斜面の崩落やがけ崩れは、発生すると大きな被害をもたらします。
そのため、所有者が負う責任もそれだけ重いものとなります。

※今回は取り上げませんでしたが、場合によっては過失致死傷罪などが成立し刑事責任を問われることもあります。

所有者としては、そのような重い責任を負っているということを念頭に置く必要があります。
自らそのような土地を選んで買った所有者はもちろんですが、自らの意思とは関係なく親から相続してしまった土地であっても、所有者はこの責任を免れることはありません。
崩落を防ぐためにきちんとした工事を行っておく必要があります。

とはいえ、多くの場合、対策工事には多額の費用がかかりますので、すぐに行うのは難しいかもしれません。
自治体では、このような対策工事に助成金を出していることが多いので、一度確認してみてはいかがでしょうか。

 

行政の対応

ちなみに、以上の民法上の話とは異なり、行政側でも斜面の崩落に対してさまざまな対策を行っています。

法令上、自治体が危険な個所を指定して開発行為の制限や禁止行為などを定めることができます。

また、例えば、急傾斜地法の「急傾斜地崩壊危険区域」に指定されれば、何もされていないがけ(自然がけ)については自治体が公費で工事を行うことも可能です。
(なお、冒頭の件のように、擁壁が設置されている場合は「人工がけ」に当たり対象外となってしまいます。)

道路沿いの斜面に関しては、以前の記事(道路上にはみ出した木の枝に関する規制(道路法43条・44条の規定について))にあるように、道路沿いの敷地の所有者に対して対策工事を命ずることもできます。

ただ、斜面やがけに関する法令の規制は、正直言って非常に分かりにくいです。
冒頭に述べたように複数の法律の規制がなされており、例えば、「土砂災害警戒区域」「急傾斜地崩壊危険箇所」「急傾斜地崩壊危険区域」「地すべり防止区域」といった指定の種類がありますが、これらは全て異なる法律・通達に基づくものです。

それぞれの法令がそれぞれの観点から規制を行っているのですが、この辺りはぜひ一本化してほしいところです。


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