道路上にはみ出した木の枝に関する規制(道路法43条・44条・44条の2の規定について)
(※2020年9月3日追記)
道路沿いの私有地にある樹木から枝が伸びて、道路上にはみ出している場合には、行政はどのような対応ができるのでしょうか。
道路については、道路の整備や維持管理について定めている道路法において、さまざまな管理権限が規定されています。
ここでは、上記のような問題に対して、道路管理者(その道路が市道であれば市、都道府県道であれば都道府県、国道(指定区間)であれば国土交通大臣、など)としてどのような対応ができるのか、道路法43条・44条・44条の2の規定について詳しく解説します。
目次
道路法43条
規定の内容
まずは、道路に関する禁止行為を定めた道路法43条について。
以下のとおり定められています。
第43条(道路に関する禁止行為)
何人も道路に関し、左に掲げる行為をしてはならない。
① みだりに道路を損傷し、又は汚損すること。
② みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞(※おそれ)のある行為をすること。
なお、「みだりに」とは一般に「正当な理由なく」の意味で解釈されています。
43条2号違反といえるか?
道路に樹木の枝がはみ出しているというケースでは、この43条2号が適用できる可能性があります。
ただし、確立した裁判例がなく、また規定の文言や他の規定との兼ね合いから、問題なく43条2号を適用できると言い切れるかは微妙なところです(争いがあり得ます)。
・適用できるという考え方
道路沿いの土地にある樹木の枝が伸び放題になっていて、車に当たるほどの高さで道路にはみ出していれば、交通に支障を及ぼすのは明らかです。
そこで、樹木を管理する者(その土地の所有者など)が、枝を適切に剪定せずに伸び放題にさせていることが「道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為」に当たると考えれば、このようなケースに43条2号を適用することができます。
・適用できないという考え方
これに対し、逆の考え方、つまり43条2号は適用できないという考え方も次のように成り立ち得ます。
43条で禁止されている具体的な行為を見ると、1号では道路そのものを損傷などする行為、2号では道路上に土石などを堆積、つまり積み上げる行為が挙げられています。
このように、43条が禁止しているのはあくまで道路敷地内での行為に限ると解釈すれば、2号の「道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為」も限定的に解されることとなり、道路沿いの土地から道路の上空に枝をはみ出させる行為はその範囲外と考えることもできます。
また、道路沿いの土地における行為に関しては、後述の44条がまさに規定していることも、上記のように43条を限定的に解釈する根拠となります。
・現時点ではどちらともいえない
この43条の解釈について判断した裁判例は(私が探した限り)見当たりませんでしたので、道路上に樹木の枝をはみ出させる行為が43条に違反するかどうかは、現時点では争いがあり得るところです。
43条2号に違反した場合(刑事罰・措置命令)
仮に、樹木の枝をはみ出させる行為が道路法43条2号に違反するとされた場合、刑事罰として、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます(102条3号)。
また、道路管理者(市や都道府県や国)は、71条1項に基づき、その樹木の管理者(土地の所有者など)に対して、枝を切除するなどの措置命令を行うことができます。
以下のとおり、71条1項では、「道路管理者は、次の各号のいずれかに該当する者に対して、……道路……に存する工作物その他の物件の改築、移転、除却若しくは当該工作物その他の物件により生ずべき損害を予防するために必要な施設をすること……を命ずることができる。」とあり、同項1号では「この法律……に違反している者」とあります。
第71条(道路管理者等の監督処分)
1 道路管理者は、次の各号のいずれかに該当する者に対して、この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定によつて与えた許可、承認若しくは認定(以下この条及び第七十二条の二第一項において「許可等」という。)を取り消し、その効力を停止し、若しくはその条件を変更し、又は行為若しくは工事の中止、道路(連結許可等に係る自動車専用道路と連結する施設を含む。以下この項において同じ。)に存する工作物その他の物件の改築、移転、除却若しくは当該工作物その他の物件により生ずべき損害を予防するために必要な施設をすること若しくは道路を原状に回復することを命ずることができる。
① この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反している者
(以下略)
※ちなみに、1項に「道路……に存する工作物その他の物件の」とあるとおり、この規定の典型的な対象は道路上にある工作物であり、この点からも、道路沿いの土地にある樹木の枝を対象とするのは難しいとも考えられます。
措置命令に従わなかった場合にも刑事罰があり、100万円以下の罰金が科される(104条4号)ことにはなっていますが、では、その場合に枝の切除はどうするのでしょうか。
その場合、最終的には行政代執行法に基づき行政代執行として市などが強制的に枝の切除などを行うことになるのが原則です。
もっとも、行政代執行は、義務違反があれば必ずできるというわけではなく、また、手続上様々な制約があります(※)。
※行政代執行は、そもそも「他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反する」場合でなければできず、また、原則として期限を定めた戒告を事前に行わなければなりません。
そこで登場するのが次の44条の2の規定です。
道路法44条の2(違法放置等物件に対する措置)
43条2号の規定に違反していることが前提ですが、この場合には前記の行政代執行によらずとも、44条の2により、もっと簡単に強制手段をとることができます。
44条の2では、43条2号の規定に違反して道路に放置または設置された物件(違法放置等物件といいます)に関し、
- 占有者等が前記の71条1項の措置命令に従わない場合
- 占有者等が現場にいないため(不明の場合も含むと解されています)に措置命令を行うことができない場合
には、強制的に枝の切除などを行うことができるようになります。
行政代執行のような手続上の制約はありません。
第44条の2(違法放置等物件に対する措置)
1 道路管理者は、第四十三条第二号の規定に違反して、道路を通行している車両から落下して道路に放置された当該車両の積載物、道路に設置された看板その他の道路に放置され、又は設置された物件(以下この条において「違法放置等物件」という。)が、道路の構造に損害を及ぼし、若しくは交通に危険を及ぼし、又はそれらのおそれがあると認められる場合であつて、次の各号のいずれかに該当するときは、当該違法放置等物件を自ら除去し、又はその命じた者若しくは委任した者に除去させることができる。
一 当該違法放置等物件の占有者、所有者その他当該違法放置等物件について権原を有する者(以下この条において「違法放置等物件の占有者等」という。)に対し第七十一条第一項の規定により必要な措置をとることを命じた場合において、当該措置をとることを命ぜられた者が当該措置をとらないとき。
二 当該違法放置等物件の占有者等が現場にいないために、第七十一条第一項の規定により必要な措置をとることを命ずることができないとき。
便利な規定であり、徳島県阿波市では実際にこの規定を適用して枝の伐採を行ったケースがあるそうですが、
徳島 道路に大木はみ出し…強制伐採 | Nスタ 2019/10/16(水)15:49のニュース | TVでた蔵
上記のとおりこの規定を適用するには43条2号に違反していることが前提となっており、前述したようにこの前提自体に争いがあり得るという点には注意が必要です。
(つまり、後に土地所有者から「枝のはみ出し事例は43条2号に当たらない」として訴訟を起こされる可能性は残ります。)
道路法44条
条文の順序は前後しますが、続いては44条について。
規定の内容
こちらは、道路沿いの土地やそこにある樹木などが、道路の構造や交通に危険を及ぼしているような場合の規定です。
樹木の枝が道路にはみ出しているようなケースでは、まさにこの規定が適用されることが想定されています。
第44条(沿道区域における土地等の管理者の損害予防義務)
1 道路管理者は、道路の構造に及ぼすべき損害を予防し、又は道路の交通に及ぼすべき危険を防止するため、道路に接続する区域を、条例(指定区間内の国道にあつては、政令)で定める基準に従い、沿道区域として指定することができる。但し、道路の各一側について幅二十メートルをこえる区域を沿道区域として指定することはできない。
2 前項の規定により沿道区域を指定した場合においては、道路管理者は、遅滞なくその区域を公示しなければならない。
3 沿道区域内にある土地、竹木又は工作物の管理者は、その土地、竹木又は工作物が道路の構造に損害を及ぼし、又は交通に危険を及ぼすおそれがあると認められる場合においては、その損害又は危険を防止するための施設を設け、その他その損害又は危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
4 道路管理者は、前項に規定する損害又は危険を防止するため特に必要があると認める場合においては、当該土地、竹木又は工作物の管理者に対して、同項に規定する施設を設け、その他その損害又は危険を防止するため必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
(以下略)
1項では、道路管理者(市など)は、条例などで定める基準に従い、道路沿いの土地を「沿道区域」として指定することができるとされています(なお、これを「沿道指定」ということがあります)。
沿道指定がなされると、道路沿いの土地やそこにある樹木や工作物の管理者は、それらが道路の構造に損害を及ぼすおそれや、道路の交通に危険を及ぼすおそれがある場合には、その危険を防止する措置を講ずる義務が生じます(3項)。
つまり、沿道区域となった土地においては、例えば、道路沿いの崖や斜面が崩れそうになっていたり、道路沿いにある建物が倒れかかっていたり、樹木の枝が道路にはみ出していたりする場合には、それらによって道路に損害が生じないようにしたり、交通の危険が生じないようにしたりするための措置を講じなければなりません。
さらに、上記のような損害や危険を防止するため特に必要がある場合(例えば樹木の枝により現実に交通の危険が生じているような場合)には、道路管理者(市など)は、土地などの管理者に対して、危険を防止する措置(上の例では枝の切除など)を命じることができるようになります(措置命令。4項)。
この措置命令に従わなかった場合にも刑事罰があり、30万円以下の罰金が科されます(106条1号)。
また、前述の43条の場合と同様、措置命令に従わなかった場合、最終的には行政代執行法に基づき行政代執行として市などが強制的に枝の切除などを行うことが可能になります。
以上のように、44条は、道路沿いの土地での問題について規定しており、枝が道路にはみ出しているようなケースではまさにその典型例です。
43条の場合とは異なり、問題なく適用できるでしょう。
※なお、これらの規定を使いやすくするなどの目的で、2018年(平成30年)に道路法が改正され、損失補償の規定が加わりました。
適用上のネック(沿道指定のための条例等の必要性)
ただし、一つ重要な前提があります。
44条を適用する前提として、沿道指定の基準をまず条例(国が管理する国道では政令)で定めていなければならないのです。
自治体にそのような条例がなければ沿道指定もできず、したがってその自治体ではそもそも44条を適用することができません。
東京都の23区においてはおおよそ沿道指定基準を定める条例が制定されており、また、その条例に基づき区道全域が指定されていますが(都が管理する都道についても、都の条例が定められています)、東京都の市部や、他府県では条例が定められていない自治体も多いようです(ざっと調べてみた限りですが)。
道路沿いの土地の所有者が高齢となって管理ができなくなったり、相続が繰り返され所有者が不明となってしまったり(後述)して樹木の枝が伸び放題になり、道路上にはみ出して交通の危険が生じるようなケースは今後も増えそうです。
このようなケースに対応しやすくするため、道路を管理する自治体としては、早期に沿道指定基準の条例を定めておく必要があります。
所有者が不明となってしまった場合はどうする?
さて、近年問題が拡大しつつある所有者不明土地問題ですが、道路管理への影響という場面でもやはり問題となります。
前述した道路法43条や44条の規定では、道路沿いの土地の所有者などに対し、枝の切除などを求める措置命令を発し、また、場合によっては行政代執行で強制的に切除などをすることができるわけですが、土地の所有者が分からなくなってしまっている場合はどうすればよいのでしょうか?
実は、道路法にはそのような場合を想定した規定があり、これにより市などが(勝手に)枝の切除などをすることが可能です。
先ほど紹介した71条ですが、3項には以下のような規定があります。
71条(道路管理者等の監督処分)
3 第四十四条第四項又は前二項の規定により必要な措置をとることを命じようとする場合において、過失がなくて当該措置を命ずべき者を確知することができないときは、道路管理者は、その者の負担において、当該措置を自ら行い、又はその命じた者若しくは委任した者にこれを行わせることができる。この場合においては、相当の期限を定めて、当該措置を行うべき旨及びその期限までに当該措置を行わないときは、道路管理者又はその命じた者若しくは委任した者が当該措置を行う旨を、あらかじめ公告しなければならない。
この規定があるため、所有者が不明でも対応することが可能なのです。
この規定は、(43条違反を前提とした)71条1項の措置命令の場合でも、44条4項の措置命令の場合でも適用できます。
また、44条の2を適用する場合には、この71条3項の規定によることなく、1項2号の「当該違法放置等物件の占有者等が現場にいない」に当たるとして直ちに切除などを行うことが可能です。