不動産の管理 不動産登記

解決のための法的手段――土地の「所有者不明」問題③

投稿日:2017年9月29日


前々回(「所有者不明の土地」という問題① なぜ所有者が不明になるのか)、前回(「所有者不明の土地」という問題② どのような問題が起きるのか)と、所有者不明の土地が生じる経緯やそれによって生じる問題を考察してきました。

これらの問題に対応するため、行政・立法においても対策が検討されていますが、現時点では根本的な解決策はありません。
解決策となる法律の制定・改正が行われるのはまだまだ先になるでしょう。

所有者不明の土地問題、年内に方向性 国交省有識者会議(日経新聞・2017年9月12日)

所有者不明の土地 調査へ 登記制度見直し 法務省が研究会(毎日新聞・)

では、現時点の法律による対応策としては、どのようなものが考えられるのでしょうか。

大きく、財産管理人制度(不在者財産管理人・相続財産管理人)を用いる方法と、訴訟手続を用いる方法に分かれます。

不在者財産管理人

不在者財産管理人とは、行方不明者に代わってその財産を管理する者のことです。
家庭裁判所によって選任され、裁判所の監督を受けながら行方不明者の財産の管理などを行います。

所有者不明土地の問題の本質は、「所有者がいないため、誰もその土地を管理・処分(売却)できない」という点にあります。
そこで、誰かがその土地を管理・処分できるようになれば、この問題が解決するわけです。

もともとこの制度が予定しているのは、ある人が失踪してしまったようなケースですが、現実には「登記簿上に載っている人が生きてるんだか死んでるんだか分からない」というケースで利用されることが多いように思います。

例えば、以前に挙げた例ですが、登記簿上の所有者が

原 因 明治40年○月○日売買
所有者 埼玉県●●郡●●
 △ 田 □ 衛 門
順位☆番の登記を移記

となっていれば、多分この人は亡くなっているだろうとは思われます。
しかし、この人の戸籍類が一切取れなかった場合は、亡くなったことの証明もできなません。
そのため、この人がどこにいるのかだけでなく、生きているのか死んでいるのかすらも分からないことになります。

このような場合に、不在者財産管理人制度が用いられます。

また、「所有者が亡くなったことは分かったので相続人を探し出したが、どうも一人だけ行方不明の人間がいるので手続が進められない」というケースでも用いられます。

所有者の代わりになって手続を行ってくれる人が就いてくれるわけですから、便利な制度ではあります。

ただし、
・利害関係を有する者でないと申し立てられないこと(実は結構ハードルが高い)
・事前に対象者が不在者であることの調査を行う必要があること(数か月かかります)
・場合によっては申し立てる側が管理人の報酬(数十万円~)を立て替える必要があること
などのデメリットはあります。

また、売却などには家庭裁判所の許可が必要ですので、管理人は、申し立てた側の言いなりに処分してくれるわけではありません。

もっとも、実際に我々が手続を行う際には、処分する土地の内容や価額のほか、管理人の報酬についていくらを立て替えるべきなのか、などについて申立の時点で事前調整を行います。

※なお、自治体がこの手続を利用した実例はこちら。

【空き家問題】区が不在者管理人制度を利用し、費用負担なしで空き家の解体に成功した事例

相続財産管理人

この制度も、所有者(として記載されている人)に代わって財産を管理する人間を選任する点では同じです。
ただし、所有者がすでに亡くなっていることが判明している場合にはこちらの制度が利用されます。

具体的には、
・亡くなっていることは明らかだが、他の戸籍類が取れないため相続人がいるのかいないのかが分からない
・戸籍類を調べたところ、法定相続人がいないことが判明した
・法定相続人はいるが、全員相続放棄をした
という場合に用いられいます。

前述の不在者財産管理人と同様、相続財産管理人も家庭裁判所によって選任され、その監督を受けます。

また、不在者財産管理人の場合と同じデメリットがあります。
(事前の調査期間は短くなりますが)

なお、相続財産管理人は、その不動産の処分以外にも行う業務の量が多い(全部終わるまで1年ほどかかります)ため、申し立てる側が立て替える費用が高額(100万円程度)になります。
もちろん前記と同様、申立の時点で事前調整を行いますが。

訴訟手続(特別代理人・公示送達)

上記の財産管理人制度(不在者財産管理人・相続財産管理人)ではなく、訴訟手続を利用して解決することもできます。
後述のとおり、これが一番早くて安いため、私はまず訴訟によって解決できないかを考えています。

ただし、利用できる場面が限られます。
当然ながら、訴訟を起こすからには何らかの権利がある場合でなければなりません

所有者不明土地がらみの問題で一番多いのは、時効(取得時効)が成立しているケースです。
取得時効により自分が土地の所有権を得たので、登記を自分に変えてくれ、という訴訟を起こすわけです。

例えば、物心ついた時から住んでいる・利用している土地が、ある日登記簿を見たら実は他人の土地で、所有者欄が

原 因 明治40年○月○日売買
所有者 埼玉県●●郡●●
 △ 田 □ 衛 門
順位☆番の登記を移記

となっていたような場合です。

もちろん、この場合でもこの方について不在者財産管理人・相続財産管理人を選任しなければならないケースもありますが、訴訟であれば「特別代理人」を選任することができます。

特別代理人は、財産管理人と同様に所有者(として記載されている人)の代わりを務めるのですが、財産管理人と違うのは「この訴訟だけの代理人」という点です。

そのため、選任手続が早く(1か月程度)、また立て替える報酬も低額(10万円~20万円程度)です。
「その土地の移転登記をしたい」という限られた目的を達成するだけであれば、財産管理人を選任するのに比べて便利な制度です。

また、訴訟手続においては「公示送達」という手段も使えます。

訴訟の相手が行方不明というだけであれば、財産管理人や特別代理人を選任してもらわなくとも、この方法で訴訟手続を進めるのが最も早いです。追加費用は特にかかりません。

ただし、公示送達を行うためには、住民票・戸籍類だけではなく、実際に現地で現況調査や聞込調査を行うなど、事前にしっかりとした調査を行う必要があります。
単に「行方不明だから公示送達で」とはなりませんので注意が必要です。
(公示送達につては別稿で解説します)

このように、訴訟手続においては特別代理人や公示送達といった手段が使え、より早く・安く目的を達成することができます。
もちろん、そもそも訴訟で解決できるケース自体が限られていますが、このように便利な制度もありますので、私はいつも、まずは訴訟による解決ができないかどうかを考えています。

望ましい法制度

現状の法制度においては以上のような対応策がありますが、それでも放置される土地は増え続けるでしょう。

なぜなら、これらの対応策があること自体が十分に知られていませんし、田舎の荒れ地のように、そもそも手続にかかる手間・費用と土地の価値が見合わないことが多いからです。
また、土地の所有権という私法上の権利に関する問題ですので、公的機関が主導権を持って手続を行えるわけではなく、あくまで関係者(相続人など)が自発的に手続を行う必要があることも、手続が進まない原因になっています。

そこで第一に、所有者不明土地問題への対策としては、手続のハードル(特に費用)を下げる必要があります。
現状では、前記の財産管理人制度を利用する場合、まずは申し立てる側が数十万~100万円程度の費用(管理人の報酬)を納めなければなりません。財産管理人は、不在者・死亡者の財産全般を管理する必要があるため、管理人の任務はある程度広範になるからです。
しかし、必要なのはあくまで特定の土地の処分を行う権限だけなのですから、財産管理人の任務をこれに限ることができれば、必要な費用(報酬)も少なくなります。

また、そもそも所有者不明土地問題の大元は、所有者が亡くなった時に必要な相続登記手続が行われなかったことにあります。
登記手続に際しては、司法書士費用のほかに土地の価額に応じた登録免許税という費用がかかるため、土地の価値に見合わないとして放置されてしまうのです。
そこで、相続登記に関しては登録免許税の金額を下げることが必要ですし、争いがない場合は相続登記手続はそんなに難しいものではないので、司法書士に頼まなくても本人が手続できるよう、法務局の方で積極的に相談に応じて登記手続を促すことも必要です。

第二に、公的機関(法務局)が主導権を持って手続を行えるような制度を作る必要があります。
法務局は戸籍事務を管轄していますので、市町村に届けられた死亡情報を得ています。
そのため、土地の登記情報と照らし合わせれば、土地の所有者が亡くなったという情報は得られるはずです。
そこで、この情報をもとに、他の管轄法務局とも連携して相続人に手続を促すことができれば、相続登記の放置に歯止めをかけられます。

とにかく、所有者不明土地問題は、長引けば長引くほど解決が難しくなっていきますので、直ちに手を打つべきです。

(なお、以上紹介した法的手続については、国交省が市町村向けに作成したガイドライン(所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン)に詳しく解説されています。もっとも、これは主に、市町村が公共事業などのための用地買収を行うことを前提に作成されたものであり、民間人・民間企業にとってはあまり現実的ではない部分がありますので、注意が必要です)


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