不動産の管理

土地の所有権は放棄できません!

投稿日:2017年10月3日


3回にわたり所有者不明の土地の問題を考察してきましたが、この問題と関連して、不動産の放棄はできるのか?という問題があります。
(過去記事へのリンクはこちら)
 ・なぜ土地の所有者が不明になるのか――土地の「所有者不明」問題①
 ・所有者不明土地が引き起こす問題――土地の「所有者不明」問題②
 ・解決のための法的手段――土地の「所有者不明」問題③

親から土地を相続したものの、土地に価値がなく、それどころか負担が大きいために土地を手放してしまいたい。
しかし、そんな土地なので買い手が付かずに売れません。

そこで、いならくなった物を捨ててしまうように、土地も放棄することができないか?と考える方も多いかと思います。

土地を持っていることの負担――「負動産」と呼ばれる土地

大きな流れで見れば、ここ20年以上地価は下落し続けています。

とはいえ、不動産、とりわけ土地は昔から価値のある資産と考えられてきました。
土地はなくなることがありませんし、また土地全体(国土)の面積は限られているからです。

にもかかわらず、価値が低くなったとはいえそんな土地を手放したいという人がいるのはなぜでしょうか。

それは、土地の価値よりも、土地を所有していることの負担の方が大きくなる場合があるからです。
では、土地の所有者にはどのような負担があるのでしょうか。

1.固定資産税

まずは固定資産税ですね。
当然ながら、使っていない土地であっても固定資産税は払い続けなければなりません。

使いみちのない田舎の土地であっても、それなりに広ければ固定資産税の金額はバカになりません。

また、その土地が農地であれば税額は比較的安くすみますが、耕作を続けていなければ耕作放棄地として税額が2倍近くになってしまうこともあります。
さらに、耕作を放棄しすぎて農地として使えなくなってしまえば、雑種地として認定されてしまう可能性もあります。

これを避けるためには、使わない畑でも耕し続けなければなりません。
親の代であれば、近所の人に貸したり管理を頼んだりすることもできたでしょうが、子どもの代では付き合いがないことが多いので難しいかもしれませんね。

2.損害賠償の負担

がけ地など、危険性のある土地の場合は、所有者が負う損害賠償責任が問題になります。

こちらでも紹介しましたが、がけ地の擁壁などを適正に管理していなかったためがけ崩れなどが生じ、下の土地に損害を生じさせた場合には、所有者は損害賠償責任を負います。

これは、民法717条に規定される「土地工作物責任」といわれるもので、土地の工作物に欠陥があり、これによって他人に損害を生じさせた場合には、所有者が損害賠償責任を負うというものです。

民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第1項 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

土地上の廃屋が朽ち果てて倒壊し、隣の建物を損傷してしまった場合も、所有者の責任です。

そのほか、土地に古い井戸や池・沼などがある場合も、この対象になります。
転落防止のためのフタや柵などを設置しない状態で放置し、子どもがそこで遊んで転落してケガをしてしまった場合には、所有者が損害賠償責任を負うことがあります。
この場合、所有者は過失がなくとも責任を負います。

そのため、所有者は、土地や土地にある物が危険な状態にならないよう、常に管理を行う必要があるのです。

3.その他管理上の負担

さらに、土地を放置して雑草が伸び放題であれば、周りの土地の所有者からクレームが来ることもあります。
市町村によっては、条例により雑草の除去が義務付けられている場合もあり、放置すると雑草の除去費用を請求されることもあります。

土地の放棄はできないか?

というわけで、利用価値がなく負担ばかりの土地については「いらないから捨ててしまおう」と思いたくもなります。
しかし、法律上は、不動産を捨てる(=所有権を放棄する)ことはできないのです。

(なお、不動産でも建物の場合は、放棄はできなくとも壊してしまえば解決します。問題は土地の場合ですので、以下、土地に限って話を進めます)

1.動産のように「捨てる」ことはできない

この点について、よくある誤解で、民法の以下の規定

民法第239条
第2項 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。 

により、「いらない不動産は、所有権を放棄すれば国のものになる」と考える方もいます。

しかし、この規定は「もともと所有者のいない不動産」をどうするかについて定めたものにすぎません。実は、民法その他の法律には、所有者が不動産の所有権を放棄するという規定はないのです(不動産と違い、動産の場合は放棄できます)。

なお、所有権の「放棄」はなくても「消滅」ということはあり得ます。所有の対象となる物が滅失してしまえば所有権も消滅します。
ただし、建物であれば解体・崩壊すれば滅失といえますが、土地が滅失したといえるのは、温暖化で海水面が上昇して埋まったしまったり、隕石が落ちたりしたような限られた場合になるでしょう。

2.消滅時効は?

なお、所有権をほったらかしにしておけば、いつか時効で消滅すると思われる方もいるかもしれません。

確かに、財産権は、法律で定める期間行使しなければ時効で消滅します。しかし、財産権のうち所有権だけは時効で消滅することがありません(民法第167条2項)。

3.市にお願いするのは?

市町村にお願いして、無償でいいから引き取ってもらうことはできないのか?という相談もあります。

しかし、これは基本的に受け付けてもらえません。

市町村が土地の寄付を受けるという制度はありますが、一般的に条例・要綱でその条件が定められており、何でもかんでももらってくれるわけではありません。
市町村にとってメリットがなければ、無償といえども引き取ってはくれないのです。

そもそも引き取って欲しい土地というのは、買い手が付かないような使いみちのない土地や、安全上の問題があり管理に手間・費用がかかるような土地です。
そのため、ただでさえ財政が厳しい自治体が、そのようなマイナスの資産を引き取ることはないのです。

4.相続放棄はOK

ところで、放棄といえば「相続放棄」を思い浮かべる方もいるでしょう。

人が亡くなると、その人の財産は自動的に相続人に移転します。
ただし、相続人の側で、財産を受け取る権利を放棄することができます。これが相続放棄です。

亡くなった人が土地を持っていたが、相続人がその土地を相続したくない場合には、相続放棄をすればその土地を受け継がなくて済むことになります。
前述したように、所有者が土地を放棄することはできませんが、相続人が相続放棄をして、土地を受け取らないことは可能です。

なお、相続人が全員相続放棄をしてしまった場合、その土地はどうなるのでしょうか。

この場合、

民法第959条(残余財産の国庫への帰属)
 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。

の規定により、土地の所有権は国に移ることになります。

しかし、「前条の規定により~」と始まっていることから分かるように、この規定の適用には前提条件があります。

民法951条~958条の3では、相続人がいるかどうか分からない場合(相続人がいない場合も含む)の手続が定められています。
全員が相続放棄をした結果、相続人が誰もいなくなった場合も上記に含まれます。

この場合、利害関係人(相続を放棄した人など)が家庭裁判所に対し、相続財産管理人を選任することを申し立てます。
そのうえで、相続財産管理人が財産の管理・処分を行った結果、それでも処分できなかった財産がようやく「国庫に帰属する」となるわけです。

もっとも、この制度を利用するためには、1年近い期間と100万円程度の費用がかかります(詳しくはこちら)。
そのため、価値のない土地を処分するためにわざわざ申し立てる人は少なく、この点が「所有者不明土地問題」の原因の一つになっています。

なお、相続放棄する場合には、亡くなった人の全ての財産(資産・負債)を放棄しなければなりません。
例えば、他の価値ある土地や銀行預金だけを相続しつつ価値のない土地は放棄する、ということはできません。

5.まとめ

以上のとおり、相続放棄のように他人から所有権を引き継ぐ場面ではそれを拒否することはできますが、所有者が自ら土地の所有権を放棄することはできません。

そのため、所有者は死ぬまで「負動産」の負担を追い続けなければならないのです。

土地の所有権を取得する際には、このことをよく考えてください。


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