不動産の管理

ビル看板の落下事故に関する店舗管理者の刑事責任

投稿日:2017年11月22日


建物やその付属設備に何らかの欠陥があったり管理が不十分だったりする場合、それによって事故が発生して人的・物的損害を生じさせてしまったときは、誰が損害賠償責任を負うのでしょうか。

この点については民法第717条が規定しており、占有者(管理者)に過失があった場合には管理者が損害賠償責任を負いますが、管理者に過失がなかった場合は、所有者が(過失がなくても)損害賠償責任を負うと定めれています。

このことは以前の記事(ビル・マンションの所有者はどこまで責任を負うのか?)でも説明したとおりです。

上記の記事の中で2015年2月15日に札幌市で起きた事故(強風で看板の一部が落下し通行人を直撃した事故)に触れました。この事故に関する民事上の責任は、店舗の運営会社が負うということで問題はないでしょう。

もっとも、この事故に関しては、店舗責任者個人が管理上の過失について刑事責任を問われていました。
刑事裁判では、この責任者について業務上過失致傷罪が成立するとして、1審の札幌地裁で今年(2017年)3月罰金40万円の判決が言い渡されました。
責任者は控訴しましたが、今年(2017年)6月29日に、札幌高裁は控訴を棄却する判決を言い渡し、この判決は確定しました。

建物の管理について店舗責任者個人の刑事責任が問われたケースとして、実務上参考になるため控訴審の判決をご紹介します。

 

事案の概要

※以下、責任を問われた店舗責任者を”A”と表記のうえ、判決文から抜粋・引用します。

・Aは、本件当時(2015年2月15日当時)に本件店舗の副店長を務めていたが、同店に店長の肩書を持つ者がいなかったため、実質的な店長として同店の業務を統括する職務を担っており、日常業務の一環として本件建物の設備や機器の点検や管理等に関する責任を負う立場にあった。

・本件看板は、本件建物外壁の地上から高さ約8m~15mの位置に本件歩道に突き出す形状で設置されていた。本件看板の最上部には、本件支柱(上面が約150cm、下面が約142.5cm、高さと幅が約30cm。重さは25.7kg)が固定されていた(この支柱が後に落下したものです)。

・当日午前11時から午前11時30分までの間に、本件看板に設置されていた部品(重さ約2.8kg)が本件看板から脱落して本件歩道に落下した。発見された時点で、中央のH字型の骨組みの腐食が進み、一つの面のステンレス製板が最大6.3センチメートル前後の深さで内側に大きくへこんだ状態となっており、落下した周囲に相当量のこげ茶色に腐食した鉄片や赤茶色調のステンレスの塗膜片が散乱していた。

・本件店舗の従業員は、午前11時30分少し前頃に男性通行人から、本件歩道にあった本件部品について、「何か落ちてますよ。危ないから気を付けなさい。」という指摘を受けたため、本件看板を見上げるなどしたが、本件部品がいかなるものか特定できないまま他の従業員に伝え、その従業員も周辺を見回すなどしたものの、同様に同定するに至らないまま、Aに連絡した。

・Aは、午前11時40分頃に本件歩道に出て本件部品を確認した上、その周辺や本件看板を含む本件建物の外壁全体、周囲のビルを眺めるなどしたほか、本件建物の屋上に上がり、本件部品の落下場所の真上辺りから本件建物の外壁を見下ろそうとしたが、縁部の壁が厚かったせいで視認できなかったことから、引き続き屋上に設置されたネオン看板の周囲等を見回したものの、結局、異状を発見できなかったため、本件部品が本件建物に関わる物でないと判断し、通常業務に戻った。

・本件建物の東側に隣接するビルにある靴修理店の店長とその従業員は、午後0時30分頃に、本件歩道にある本件部品を発見して、本件建物から落下した疑いを抱き、本件歩道から本件建物を4分ないし10分近くにわたり見回したが、本件部品の欠落した痕跡を発見できなかった

・靴修理店の上記従業員が、午後1時前頃に、本件店舗の従業員に対し、本件部品が落下していることについて注意を喚起したが、その従業員は落下している位置から見て本件建物から落下したものでないと応答した

・午後1時55分頃に本件看板から本件支柱が落下し、本件歩道を通行中の被害者の頭部に衝突した。これにより被害者は全治不能の頸髄損傷等の傷害を負った。

・札幌市における気象観測の結果によると、午前11時40分から午後2時までの時間帯に最大瞬間風速が19.7メートル毎秒ないし25.4メートル毎秒に上る強風が記録されていた。

 

過失を認められた根拠

法律上過失が認められるためには、一般に、予見可能性(このままでは事故が起こり被害が発生してしまうことを予測できたという事実)があることを前提として、予見義務(被害の発生を予測する義務)または結果回避義務(被害の発生を回避する措置をとる義務)に違反したという事実があることが必要です。

この事件では、1審・2審を通じて以下のとおり認定され、結果として過失ありと判断されました。

予見可能性について

Aは、歩道上に、本件看板の構成部分である本件部品が落下しているのを認めたが、当時は強風が吹いており、その落下位置等から本件部品が本件建物から落下したもので、本件部品に続いて本件建物から更に部品が落下するおそれがあることを認識し得た。

結果回避義務違反について

Aには、本件建物を点検して脱落箇所の特定に努めるとともに、更なる部品落下のおそれがないことが確認できるまでの間、本件歩道の付近を通行しようとする歩行者に注意を喚起する措置を講じるなどして、本件建物から更に部品が落下して歩行者に衝突する危険を未然に防止すべき業務上の注意義務があった。

しかしこれを怠り、本件歩道の付近から本件建物の外壁等を眺めるなどしただけで、本件看板に脱落箇所がないか否かを点検しないまま、本件部品が本件建物から落下したものでないと軽信し、何らの措置を講じることなく漫然と放置した。

 

コメント

直前に部品が落下したことを甘く見て、必要な調査・確認をおこたったことが原因で被害が発生してしまったといえます。

その点で、店舗管理者に過失を認めた裁判所の判断は、当然のものといえるでしょう。

なお民事上の責任については、冒頭でも述べたように、管理者に過失がある場合は所有者ではなく管理者が損害賠償責任を負います。
過失の認定は、一般に刑事事件の方が民事事件よりもハードルが高いので、刑事事件で過失が認められた今回のケースでは、民事事件でも問題なく過失が認められるでしょう。
(ただし民事の場合は、通常は個人ではなく運営会社の責任が問われます)

建物の管理者として、事故が起きる具体的な危険が生じたときは、直ちに対応を行いましょう。

 

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