不動産の管理

隣地のがけや斜面が崩落しそうな場合、擁壁の設置や改修を求めることができるか


大雨の後などで、隣地との境にあるがけが土砂崩れを起こしやすくなることがあります。
当然、崩落を防止するための処置をすぐに行わなければなりません。

もっとも、そのがけが自分側の所有なら問題ありませんが、隣地側の所有の場合は自分で勝手に工事をすることはできません。

それでは、隣地側が工事を行わない場合に、工事を行うよう法的に請求することはできるのでしょうか。

感覚的にはそのような請求は当然認められるとも思えますが、実は、常に認められるとは限らないのです。

妨害予防請求権

自らの土地の所有権または占有権が妨害されるおそれがある場合には、相手方に対し、その妨害の予防を請求できる権利が認められています。
この権利を妨害予防請求権といい、民法上・判例上認められています(また、相手方の故意・過失がなくとも請求できるとされています)。

そうすると、こちらが低地側の場合、がけが崩落すればこちらの所有権・占有権が妨害されることは明らかですから、客観的にその危険性が認められる場合には隣地側に対してその予防(崩落防止のための工事)を行うよう請求できる――と考えられそうです。

しかし、裁判例上、このような請求が常に認められているわけではないのです。

特に、間にあるがけや斜面が自然状態である場合には、請求が認められにくいといえます。

 

自然状態のがけ・斜面の場合

例えば、東京高裁1983年(昭和58年)3月17日判決では、前記の妨害予防請求権については、
①相隣地間の問題で、
②土地の崩落の危険を内容とするもので、
③それが隣地所有者の人為的作為に基づくものではない、
という場合には認められないとして、隣地側に対する工事請求を否定しました。

双方で工事の費用を負担すべき

上記判決では、工事請求を否定した理由として、

  • このような危険は両土地に共通・同時に発生すること
  • 予防措置は両土地にとって必要・利益であること
  • 一般にその費用が多額となること

から、一方の土地側にそのような負担させるのは著しく不公平であるため、と説明しています。

そのうえで、民法における相隣関係の規定(境界に関する工事費用は双方で負担すべき、という旨の規定など)を参照し、斜面の崩落の防止工事の費用も双方で負担すべきものだとしました。

協議がまとまらない場合はどうすればよいか

もちろん、隣地側との間で協議できればよいのですが、では、相手が工事を拒否するなどして話がまとまらない場合はどうすればよいのか。

その場合、自分で工事を行い、相手にその費用(の一部)を請求することになります。

上記判決でも、そうすべきであると述べています(ほか、東京高裁1976年(昭和51年)4月28日判決も同旨)。
最終的には、その費用請求の訴訟において、適切な負担割合が示されることになるでしょう。

勝手に工事することはできるのか

ただし、隣地側の所有土地に関する工事ですので、隣地側が工事を行うこと自体を拒否している場合には、勝手に工事することはできません

この場合は、妨害禁止の仮処分や訴訟(こちらの権利を守るために必要な工事を行うことを、妨害するのをやめるよう求める手続です)により、強制的に工事の承諾をさせることになります。

隣地側が徹底的に争ってくる場合にはここまでしなければならない、というのは納得できないところも多いのですが、これが裁判例における現状なのです。

(※余談)訴訟の起こしかたの問題

ところで、上記の判決の内容を要約すると、

  • 工事請求は認められない
  • 工事費用は双方で負担すべき
  • 相手が工事しない場合には、こちらで工事して相手に費用の一部を請求すべき

ということになりますが、この事例で仮に自分で工事をしたうえで「費用の一部の支払え」という形式で訴えていたら、請求は認められたはずです。

ところが、「工事をせよ」という訴え方だと、理論的には工事費用が全額相手負担となる(執行方法の問題。詳細は割愛します)か、あるいは請求が認められないかの二択しかありません。
「二人が半分ずつ費用を負担して、工事をせよ」というような判決をすることはできない(※)ため、請求を否定せざるを得なくなるのです(この点は、前記東京高裁1976年判決でも触れています)。

※確かに、実際に双方に費用を負担させた裁判例もなくはないのですが(横浜地裁1986年(昭和61年)2月21日判決)、この判決だと相手が応じない場合には現行法上強制執行が不可能と考えられます。そのため、私はこの判決は異例だと考えています。

そうすると、同じ事案であっても請求の仕方によっては、認められるものも認められなくなってしまいますので注意が必要です。

崩落してしまった場合

ちなみに、その後実際に土砂崩れが起きるなどして損害が発生した場合には、隣地側は損害賠償義務を負うのでしょうか。

この場合は不法行為(民法709条)による損害賠償請求権が問題となり、隣地側に故意・過失があるとされれば損害賠償義務が認められます。
(※土地工作物責任(民法717条)の問題ではないので注意)

具体的には、隣地側が土地の状況をよく知っていて崩落の危険を分かっていた、それにもかかわらず長期間これを放置していた、崩落防止のための工事をするのが特に困難という事情もなかった、不可抗力とはいえない程度の災害により崩落した、などの事情がある場合には、過失ありとされ損害賠償義務が認められるでしょう。

※参照:がけ崩れ(斜面崩落)の責任は誰が負う? 土地所有者が負う法的リスクについて

擁壁がある場合など

以上のように、妨害予防請求(工事請求)は、人為的作為がないがけや斜面の場合には、例外的に認められないと考えられています。

これに対し、がけや斜面が人工的なものである場合(人為的作為がある場合)には、原則どおり、工事の請求は認められることになります(不可抗力の場合などは別ですが)。

なお、ここでいう「人為的作為がある場合」とは、典型的には擁壁が設置されている場合ですが、斜面が盛り土によって生じたものである場合などについても同様に考えられます。

また、この場合には、基本的に工事の費用は全額相手方負担となります。

崩落してしまった場合

なお、隣地の擁壁の構造や造成方法などに問題があり、それが原因で崩落して損害を受けた場合には、隣地所有者に対して損害賠償請求をすることができます(土地工作物責任)。

この場合、隣地側に故意・過失がなくても請求は認められます。


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