なぜ土地の所有者が不明になるのか――土地の「所有者不明」問題①

最近では、毎日のように「所有者不明の土地」の問題がニュースで扱われています。

全国の土地の2割、所有者不明か 九州の面積上回る(日経新聞・2017年6月21日)

「所有者不明土地」が九州の面積を超える理由(東京経済・2017年08月13日)

の記事にいわれるように、今や、所有者不明の土地の合計面積は国土の2割(今後の調査で増加するでしょう)とされています。

それだけの土地について、所有者が不明のため固定資産税の徴収が難しくなったり、都市開発の妨げになったりするなどの影響が出ているため、「所有者不明の土地」は放っておくことのできない問題です。

しかし、中には疑問に思っている人もいるのではないでしょうか。
人が保有する資産の中でも、土地・建物といった不動産は、特に価値の高い資産として認識されているのが一般的です。
また、不動産には登記簿があり、所有者名が記載されています。

そうであるにもかかわらず、なぜ土地の所有者が不明になるのでしょうか。
今回は、その点を考察してみます。

所有者不明となる経緯

そもそも、土地・建物については、不動産登記法により登記記録(登記簿)が作成され、そこに不動産の状況(所在、面積等)や権利関係に関する情報が記録されています。
当然、所有者の情報(住所・氏名)も記載されています。

そのため、「所有者に関する情報が全くない」ということはありません。
問題は、現在の所有者が誰だか分からない、ということなのです。

1.相続の発生

土地の所有者が亡くなった場合には、相続人が土地を相続して所有権を受け継ぎます。
そして、通常は、相続人が所有権の移転手続を行いますので、登記上の所有者が現在の所有者に変更されます。

他方、この移転手続が行われなければ、登記上の所有者は被相続人(亡くなった方)のままです。
例えば、
①疎遠であるためそもそも親族が亡くなったことを知らない
②亡くなった方がどこに土地を持っていたのか、親族も分からない
③売れない(または非常に安い価格の)土地にもかかわらず管理に非常に手間がかかるため放置される
という事情により、登記が変更されないことがあります。

本当にそんなケースがあるのか?思われるかもしれません。
しかし、①のパターンであれば、「物心がつく前に両親が離婚し、母親に引き取られ育ってきた。60年間父親とは一度も会っていない」という方であれば、父親が亡くなったとしてもそれを知る術はありません。

②のパターンであれば、「実家は田舎の農家だが、自分はずっと都会に出て生活している。実家に戻る予定はない」という方であれば、実家の親が代々受け継いできた土地を正確に把握することは困難です。
いつも使っていた畑や田んぼであればともかく、全く使っていなかった山林の一部の土地を持っていたり、他人に無償で貸していた畑などは把握しきれません。

③のパターンは分かりやすいかもしれません。
宅地のように資産価値の高い土地ではなく、しかも辺鄙な場所にあるため買い手がつかないばかりか、雑草の除去などの管理が非常に面倒であるような土地であれば、わざわざ登記費用(登録免許税+司法書士費用)をかけてまで登記をしようとしない人もいます。

2.相続人は誰か?

そうはいっても、登記が変更されなかったというだけなので、法律上、現在の所有者は相続人であるわけです。なので「所有者不明」ということにはならないのではないか、と思われるかもしれません。

確かに、そのとおりではあるのです。

しかしながら、現実には「相続人が誰か」を調べるのが困難な場合があります。

ある人が亡くなった場合に、誰がその相続人になるのかは戸籍によって確定します。
具体的には、亡くなった方が出生してから死亡するまでの間の全ての戸籍を取り寄せ、法律上その方の相続人となりえる関係者(配偶者、子(養子を含む)、兄弟姉妹、親など)を洗い出し、法律に定められる順序に従って相続人を確定します。

通常は複数の戸籍謄本(のほか原戸籍謄本や除籍謄本)を取り寄せる必要がありますが、手間がかかるとはいえ、不可能という話ではありません。
何らかの手がかりによってどれか一つの謄本が取れれば、芋づる式にほかの全部も取れるからです。
例えば住民登録をしていた住所が分かれば、そこから本籍を調査し、本籍地の役所に戸籍謄本の交付を申請します。

しかし、手がかりが全くなければ、その方の謄本が一つも取れないという事態が生じます。

そんな事態があるのか?と思われるかもしれません。
土地の登記記録の所有者の欄には住所と氏名が記載されているのですが、情報があまりに古いと手が出せなくなります。

極端な例ですが、所有者の欄に

原 因 明治40年○月○日売買
所有者 埼玉県●●郡●●
 △ 田 □ 衛 門
順位☆番の登記を移記

などと記載されていることがあります。
この方は明らかに亡くなっていると思われますので、その相続人を調査しようとするとします。

この場合、明治40年(1907年)当時に上記の住所に住んでいたことは分かりますが、住民登録の保存期間(現在は5年)をとっくに過ぎており住民票(除票)を確認することはできません。
そのため、この方の本籍地を確認することもできなくなるのです。
本籍地が分からなければ戸籍謄本を取ることができません。

運よく上記住所が本籍地と同じであれば戸籍謄本が取れますが、そうでなければお手上げです。
田舎などで、近所の方への聞き込みにより何らかの情報が得られることはありますが、100年以上前の話であれば難しいでしょう。

民間でも市役所・法務局でも状況は同じです。
資料が残っていなければ調べようがありません。

こうして、相続人が誰だか分からない、つまり「所有者が不明」という状況が生じるのです。

3.相続人がいないケースも

また、そもそも相続人がいない、というケースもあります。

もっともこの場合、相続財産は国が所有することになる、という話を聞いたことがあるかもしれません。民法を勉強したことのある方であれば次の条文が思い浮かぶことでしょう。

民法第959条(残余財産の国庫への帰属)
前条の規定(注:特別縁故者に対する相続財産の分与)により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。(以下略)

しかし、この規定が適用される前提として、利害関係人等が家庭裁判所に対し「相続財産管理人」を選任することを申し立てなければなりません。

かつ、その申立てに際しては、(少なくとも一時的には)相続財産管理人の費用(報酬)を立て替えなければなりません(手続の概要はこちら)。

そのため現実には、これらの手間・費用を負ってでも手続を行おうとする人はあまりいません。したがって、土地の登記名義は亡くなった方のままになってしまうのです。