不動産の管理

設備の劣化・老朽化による事故。賠償責任を負うのは管理者だけではありません。

投稿日:2018年4月19日


今年(2018年)2月13日、前橋市内の温泉施設において、天井付近に設置されていた金属製の部材が老朽化により落下し、利用客が顔を負傷したという事故がありました。顔を15針縫う怪我だったそうです。

13日午後4時半ごろ、前橋市富士見町石井の「富士見温泉見晴らしの湯ふれあい館」の女湯で、天井近くの明かり取り付近に設置されていたステンレス製の部材(長さ約4メートル、幅約20センチ、重さ約5・7キロ)が高さ約7メートルから落下し、女性客(82)の右顔面に当たった。女性は右頬を15針縫うけがをした。

この温泉施設は、前橋市が所有し、市内の4業者が指定管理者として管理・運営している。

金属製部材落下:女性客、15針縫うけが 前橋市の温泉施設 /群馬 - 毎日新聞(2018年2月15日)

この事故について、最近、所有者の前橋市が検証結果を公表したそうです。
それによれば、ステンレス製の部材(見切り金物)を止めていたビス(ネジ)が、湿気によりさびて折れってしまったことが事故の原因だ、ということです。

検証の結果、事故当時、ビスはほとんどが破断し、金物がシーリング材だけで保持された状態だったことが判明した。施設の開業は1997年で、竣工以来約20年にわたって内装仕上げなど非構造部材の点検が実施されていなかった。

(中略)

金物を留め付けるビスは、40cm間隔で11本打たれていた。だが検証時点で、ほとんどのビスは腐食して軸と頭の間が破断していた。ビス自体が抜け落ちて、ビス穴だけが残った部分もあった。

温浴施設で5.7kgの金物落下、ステンレス製ビスの腐食が原因 | 日経 xTECH(クロステック)(2018年4月17日)

ところで、この施設は前橋市が所有し、民間会社が委託を受けて管理運営していたそうです。

このような場合、上記のような事故に関する損害賠償責任は誰が負うのでしょうか。

結論からいうと、施設を所有する者と、その施設を管理運営(賃借している場合も含む)している者が別である場合には、原則として管理者が責任を負いますが、管理者に過失がなかった場合には、例外的に、所有者が責任を負うことになります。

 

施設内事故に関する民法の規定

すでにこのサイトで何度も登場しておりますが、再度、民法第717条第1項を見てみましょう。

民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
(第2項以下略)

この条文は、建物に何らかの欠陥がありそれによって事故が起こってしまった場合の、第三者に対する損害賠償責任について規定しています。

施設の設備に不具合があった場合には、まずは、占有者が責任を負うことになります。
ここで「占有者」とは、その建物を実際に占有している人間を指し、例えば建物内の施設を管理運営している者や、建物の賃借人などが該当します(どちらも法人を含みます)。単なる利用者は「占有者」にあたりません。

ただし、建物の管理について過失がなかった場合には、占有者は責任を負いません。
この場合には、所有者が責任を負うことになります。

所有者は、過失がなくてもこの責任を免れることができません

民法の構造はこのようになっています。
以下、占有者(管理者・賃借人)の責任及び所有者(賃貸人)の責任について、詳しく説明します。

 

占有者(管理者・賃借人)の責任

占有者(管理者・賃借人)としては、建物の管理に過失がある限り賠償責任を負うわけですから、逆にいうと管理者・賃借人は、建物を過失なく(=適切に)管理する義務があるといえます。

ただし、所有者の場合(後述)とは異なり、契約で定められていない限り建物を修繕する義務まではありません。
ここでいう管理義務とは、常に建物が危険な状態となっていないか点検し、問題が発見された場合には、建物の利用を中止して客などを立ち入らせないようにしたり、所有者に修繕などの対応をするよう要請したりする義務です。

(なお、場合によっては刑事責任を負うこともあります。)

契約上の管理者の場合

所有者との間で管理契約などが締結されている場合には、通常は管理義務の内容は契約において定められているでしょう。契約によって修繕義務が定められていれば、管理者が修繕を行わなければなりません。
契約で定められた点検などを実施していない場合には、当然、上記の意味での管理義務に違反することになります。

また、仮に契約において定められていなかったとしても、例えば窓が割れているなど明らかに危険な状態であるのにこれを放置した場合には、当然に管理責任を問われることになります。

いずれにせよ、建物の設備などが危険な状態にないか常に点検を怠らず、仮に問題を発見した場合には利用を中止するなどの措置をとらなければなりません。

賃借人の場合

また、上記の意味での管理義務は、建物の賃借人にも存在します。
賃借人が適切な管理を怠ったために事故が起きた場合、第三者に対する損害賠償責任は(賃貸人ではなく)賃借人が負うことに注意してください。

もちろんその管理義務の内容は、賃借される建物の範囲や、利用目的、賃借人の特性などによって変わってきます。
なお、民法第615条では、建物に修理が必要になった場合には、賃借人はその旨を伝えなく賃貸人に通知しなければならないとされています。

第615条(賃借人の通知義務)
 賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。

もちろん、管理者の場合と同様に、危険を発見した場合には事故を発生させないための措置をとらなければなりません。

 

所有者の責任

前述したとおり、所有者は管理について過失がなくても損害賠償責任を負います。

もっとも、そのそも前述の民法第717条が適用されるのは、建物に欠陥があり、かつその欠陥を原因として事故が起きた場合です。
したがって、仮に事故が起きたとしてもその原因が建物の欠陥でなかった場合や、そもそも建物に欠陥が存在しなかった場合には、所有者が責任を負うことはありません。

そうすると、所有者としては、建物に欠陥がない状態に保つ義務、つまり事故が起きないよう建物を安全な状態に保つ義務があるといえます。

なお、冒頭にあげた前橋市の事故の事例では、部材を止めるビスが湿気により腐食していたことが原因であるとされておりますので、建物に欠陥があることは明らかですから、たとえ管理運営会社による管理が問題なかったとしても、所有者の賠償責任は免れないでしょう。

前述の日経クロステックの記事では、このように結ばれています。

仕上げなどの非構造部材は注目されにくく、壊れたり汚れが目立ったりするまで補修されない傾向にある。だが高い位置にある部材が外れて落ちれば人的被害につながるだけに、地道な保守管理が欠かせない。

賃貸借契約上の責任

ちなみに余談ですが、建物を賃貸している場合には、所有者(賃貸人)は、賃借人に対しても建物を適切に管理する義務を負います。
考えてみれば、これは当たり前ですが。

建物に不具合が生じた場合、その原因が所有者によるものではなかったとしても、所有者は建物を修繕しなければなりませんし、その修繕のために賃借人が建物を利用できなかった場合には、その間の賃料を請求することができません。

さらに、所有者が建物を修繕しなかったことにより賃借人に損害営業損害などが生じた場合には、債務不履行として、賃借人に対する損害賠償義務を負うことになります。

 

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