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建築基準法・消防法違反の建物の所有者の責任 高額の損害賠償責任や刑事責任を負うこともあります

投稿日:2018年2月6日


1月31日の深夜に札幌市で起きた共同住宅での火災事故ですが、結果的に入居者16人中11人が亡くなるという、痛ましい結果となってしまいました。

火災の原因はいまだはっきりとはしていませんが、当該建物は建築基準法や消防法の基準を満たしていなかった可能性があるとの報道がされています。

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では仮に、法令違反の状態の建物を入居者に利用させていた場合で、その建物で火災が起きて入居者に被害が生じた場合、建物の所有者・管理者はどのような責任を負うのでしょうか。

 

建築基準法・消防法の位置づけ

いうまでもなく建築基準法や消防法(及びこれらを受けた政令、規則、条例など)は建物としての安全性の最低限の基準を定めた法令です。

建築基準法は主に建物の安全な構造という観点から、消防法は主に火災の予防という観点から、それぞれ建物の構造や設備等に規制を行っています。
特に消防法・火災予防条例では、建築後の建物の利用方法についても規制が及んでいます(火災の予防上問題のある利用方法や、避難経路の確保などに支障のある利用方法を規制しています)。

一般的には、これらの建築関連法規の規制は、あくまで対行政のものです。
違反すれば、市役所の建築指導課や、消防署からの行政指導を受けたり、場合によっては措置命令を受けたりすることになります。

つまり、これらの建築関連法規はあくまで行政による規制を基礎づけるためのものであって、民間同士の法律関係を規定するものではありません。

 

民事上の損害賠償責任の根拠となることも

しかし、上述のような建築関連法規に反することは、民事上の損害賠償責任の根拠ともなり得るのです。

どういうことかというと、前述のとおり建築関連法規は、建物としての最低限の安全性の最低限の基準を定めた法令です。
ということは、建築関連法規に違反した建物は、建物としての最低限の安全性を満たしていないということになります。

そうすると、民法(つまり民間同士の法律関係を定めた法律)の次の規定が適用されることになるのです。

土地工作物責任(民法第717条)

土地工作物責任については以前の記事(ビル・マンションの所有者はどこまで責任を負うのか?)でも説明しましたが、以下のように民法に規定されています。

民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第1項 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

ここでいう「設置又は保存に瑕疵(かし)がある」とは、建物の構造に欠陥があったり管理が不十分であったりして、建物が通常備えているべき安全性を欠いている状態をいいます。

そして、土地の工作物(建物を含みます)の設置又は保存に瑕疵があることを原因として他人に損害を生じさせた場合には、原則として占有者(管理者や賃借人など)が損害賠償性任を負います。
ただし、占有者に過失がないことが証明された場合には、所有者がその責任を負います。所有者は過失がなくても(仮にその欠陥等を知らなかったとしても)責任を免れることができません

ところで、前述したとおり建築関連法規は建物の安全性の最低限の基準を定めています。
そうすると、建築関連法規に違反した建物は、建物としての最低限の安全性を有していないということになります。
したがって、そのような建物は、建物自体に欠陥がある(例えば火災が拡大したり煙が充満したりしやすい構造であるなど)、あるいは管理が不十分である(廊下や階段に置かれた荷物のため避難経路が十分に確保できていない、という状況が放置されているなど)として、上記の「設置又は保存に瑕疵がある」状態に当たるのです。

よって、建築関連法規に違反した建物内で火災などの事故が生じ、その被害が建物の欠陥等のために拡大し、入居者や利用者に何らかの被害が生じた場合には、これに対する損害賠償責任を負うことになるのです。
繰り返しますが、所有者は過失がなくとも責任を負います。

債務不履行による損害賠償責任(民法第415条)

また、上記の「設置又は保存に瑕疵がある」とまではいえないような程度の欠陥であったとしても、賃貸借契約の債務不履行(契約違反)に基づく損害賠償責任が認められる余地はあります。

一般的に賃貸借契約においては、貸主は、建物及び附属設備の維持保全に必要な修繕を行う義務を負っています(民法第606条第1項)。
そして、建物及び附属設備の維持保全には、適切な防火設備や消防設備が備えられていることも含まれます。
したがって、賃貸借契約上、貸主は、単に借主に建物を使わせる義務だけでなく、建物が通常備えるべき防火設備や消防設備を有している状態で借主に使用させる義務をも負っていると考えられます。

建築関連法規(特に消防法)に定める防火・消防設備の基準は(繰り返しになりますが)あくまで最低限の安全性を定めたものに過ぎません。
そのため、建築関連法規に違反した状態の建物は、「通常備えるべき設備を有している」とは到底いえません。
したがって、建物をそのような状態のまま放置していたとなれば、上記の契約上の義務を果たしていないことになります。

よって、その違反状態を原因として借主に損害を及ぼした場合には、債務不履行として損害賠償責任を負うことになります。
(ただし、債務不履行の場合には貸主に過失がなければ損害賠償責任は生じません。)

 

注意すべき点

建物が建築関連法規に違反している状態を放置し、その結果損害が生じた場合には、所有者には以上のような責任が課されます。

ただ、次のとおりさらに注意すべき点があります。

損害賠償額が多大になる

まず、特に火災が発生した場合には被害の範囲も大きくなり、また被害者が亡くなる可能性も高くなるため、結果として損害賠償額が非常に高額になることがあります。

今回の事故のように、スプリンクラーが設置されていなかったり、屋内に灯油が保管されていたりするなど防火・消防の点で明らかに問題がある(当然消防法に違反している)状態であった場合には、その問題が被害を拡大させたという因果関係は明らかですので、所有者が損害賠償責任を免れることはまず無理でしょう。

「周りもみんなやっている」は通用しない

また、古いビルが密集しているような地域では、周りに同じような状況の建物が多いということもよくありますが、損害賠償責任を負うかどうかの場面では、そのような事情は一切考慮されません。
あくまで、その建物に安全上の問題があったかどうか、という点のみが考慮されます。

周りのみんなと同じ程度には安全対策をしている、という事情があったとしても、客観的にその建物に法令違反などの安全上の問題があれば、所有者の責任は認められます。

火災の原因は関係ない

さらにいうと、今回の事故のように建物の問題によって火災の被害が拡大してしまったというケースでは、火災の原因が誰であるかは関係なく所有者の責任が認められます。
所有者の責任の根拠は「本来ならこの程度の火災でこんなに被害が出なかったはずなのに、建物に安全上の問題があったため被害が拡大してしまった」という点にありますので、原因となった火災が誰の過失によるものなのかは問題とならないのです。

すなわち、例えば入居者の過失(火の不始末など)によって火災が発生した場合でも、建物に安全上の問題があったために被害が拡大し、それにより入居者(火の不始末を起こした入居者を含みます)に被害が出てしまった場合でも、建物の所有者は損害賠償責任を免れることはできません。

また、火災の原因が隣の建物からの延焼であったとしても、建物に安全上の問題があったために燃え移ってしまったといえれば、やはり所有者は損害賠償責任を負うことになります。

(ただし、これらのように火災の原因が所有者以外の者の過失による場合は、「仮に安全上の問題がなければ火災の範囲はこの程度にとどまっていた」といえる部分については所有者は責任を負うことはありません。
所有者が責任を負うのはあくまで「安全上の問題があったため拡大してしまった部分」に限られます。)

刑事責任を負うことも

なお、この記事では特に触れませんでしたが、過失の程度によっては以上述べたような民事上の損害賠償責任のみならず、業務上過失致傷罪にあたるとして刑事責任を追及されることもあります。

今回の札幌市の事故でも、この点で既に警察が捜査を行っています。

 

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