ビル・マンションの所有者はどこまで責任を負うのか?
「外壁が老朽化により崩れ、通行人に当たりけがをさせてしまった」「手すりや柵が壊れ、居住者が転落してしまった」「エレベーターの故障により利用者がけがを負ってしまった」「中古で買った建物に欠陥工事があり、地震で崩壊して居住者が亡くなってしまった」――このような事故が起きた場合、建物の管理者や所有者は、どのような責任を負うのでしょうか。
一昨年(2015年)、札幌市内の飲食店の看板が強風により外れて落下し、通行人の頭部に直撃してしまった事故は記憶に新しいかと思います(なお、本日現在、この件では店舗責任者(個人)の刑事訴訟がまだ係属中です(追記:2017年3月(一審)及び6月(控訴審)にそれぞれ有罪判決が言い渡され確定しました。詳しくはこちらの記事を参照))。
また、最近では、視覚障がい者が駅のホームから転落する事故が話題にのぼっており、鉄道会社の管理責任に関する議論も起きています。
さらに、建物に欠陥工事があった場合のように、所有者にとって全く想定外の場合でも責任が発生することがあります。高度成長期に建てられたビルの耐用年数が迫りつつある現在、この点に頭を悩ませている所有者も多いかと思います。
そこで、建物(施設)の管理者・所有者の責任とはどのようなものなのか、概要をお伝えしたいと思います。
(今回は、刑事責任ではなく、民事上の責任(損害賠償責任)に限ってお伝えします。)
1.土地工作物責任とは
民法の規定では、大まかにいうと、
・建物に欠陥があったり管理が不十分であったりしたことにより他人に損害を生じさせた場合で、その管理に過失があったときは、管理者は損害賠償責任を負う。
・上記の場合で管理者に過失が無かったときは、所有者が(所有者には過失が無くとも)損害賠償責任を負う。
と定められています。
以下のとおり、条文では「土地の工作物等の占有者及び所有者の責任」とされていますので、この損害賠償責任のことを「土地工作物責任」といいます。
民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第1項 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
第2項 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
第3項 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
※なお、条文上の文言は「土地の工作物」となっており、これには建物、塀、橋、線路など様々な施設が含まれます(ただし、国や地方自治体が管理する物については別の法律が適用されます)。以下では建物を例に説明します。
※また、条文上の「占有者」とは、建物の管理者や賃借人(サブリースの場合の転貸人を含む)などをいいます。以下、管理者を例に説明します。
2.どのような場合に責任が発生するのか
前記のとおり、建物自体に欠陥があったり、建物の管理が不十分であったために、事故が起こって他人に損害が生じた場合です。
前者の例としては、建物の構造に問題があり強度が十分でなかった場合や、転落の危険がある場所に適切な手すりや柵などが設置されていなかった場合、窓が低い位置に設置されているため転落しやすい構造となっていた場合など、建物自体に事故が起こる危険性があった場合が挙げられます。
後者の例としては、サビによりビルの袖看板が落下する危険があったのに放置してた場合や、エレベーターがたびたび異常動作を繰り返しており危険な状態だったのに放置していた場合、排水管が老朽化しておりたびたび水漏れが発生していたのに放置していた場合など、何らかの対処をしなければ事故が起きる危険があったにもかかわらず、十分な対処をしなかった場合が挙げられます。
ただし、責任が発生するのは、建物の欠陥や不十分な管理によって、建物が通常備えているべき安全性を欠いている場合に限ります。
例えば、手すり・柵についていえば、一般的には建築基準法で定められている高さのものが設置されていれば問題はなく、利用者があえて危険な使い方をして転落したような場合には、責任は発生しません。
以上をまとめると、建物自体に欠陥があったり管理が不十分であったため、建物が通常備えているべき安全性を欠く状態になり、その結果事故が起こり、他人に損害が生じた場合に損害賠償責任が発生することになります。
3.誰が責任を負うのか
上記の場合、まずは建物の「占有者」が損害賠償責任を負うことになります。
前記1.で述べたように、「占有者」とは、通常は管理者を意味します。ビル・マンションの共用部分の問題については管理会社や管理組合が、専有部分の問題については賃借人が損害賠償責任を負います。
また、サブリースの場合の転貸人も責任を負うことは前述したとおりです。
もっとも、占有者(管理者)に過失が無かった場合には、責任を負うことはありません。
例えば、自分が住んでいる部屋で、配管の老朽化によりたびたび小さな水漏れを起こしていたにもかかわらず、それを放置した結果、下の部屋に大規模な漏水被害を及ぼしてしまったような場合であれば、過失は認められ、責任を負うことになるでしょう。
これに対し、例えば、自分が管理するビルに実は欠陥工事があり、その結果ビルが崩壊して第三者に損害が発生したような場合では、管理者がその欠陥を知っていて放置したような場合でない限り、管理者には過失は認められないでしょう。したがって、この場合は管理者には責任は発生しません。
このように、占有者(管理者)に責任が発生しない場合、次に責任を負うのが所有者です。
そして、前記2.で述べた条件を満たす場合、所有者には過失が無くても責任が発生します。所有者はいかなる場合であっても責任を逃れることはできません。
実際の事例で、中古で買ったビル(マンション)に設計・施工上の問題があり耐震強度が不十分であった結果、そのビルが大震災(阪神淡路大震災)で倒壊し居住者が亡くなったケースで、所有者の損害賠償責任が認められています(ただし、想定外の地震による影響を考慮し、減額はされました)。
このことは、所有者がその欠陥を知らなくても変わりません。
このように、建物の所有者には、建物の管理について全く過失が無くとも損害賠償義務を負うという、極めて重い責任が課されています(このように過失が無くとも発生する責任を「無過失責任」といい、法律上は例外的なものです)。
(※ただし、管理者の責任も決して軽いものではありません。過失が無ければ責任を負うことはないと言いましたが、「過失が無かった」と認められるためのハードルは高く、例えば飲食店で酔った客が窓から転落したケースでも、その構造・転落防止対策に問題があったことから、管理者の責任が認められています。)
まとめ
以上のとおり、建物の管理者・所有者には重い責任が課されていますので、常に建物の安全性を保つよう細心の注意を払わなければなりません。
特に築年数の古い建物については、危険が発生する可能性が高くなっていますので、一度、管理体制を見直してみてはいかがでしょうか。
また、このような責任をカバーするために、各損保会社による施設賠償責任保険に加入されている方も多いと思います。
このような対策を考えられたことのない方は、これを機に一度見直してみてはいかがでしょうか。
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