クレームを言われないために ~クレームの発生原因と予防法を理解し、芽を摘んでおくことが必要です

日経ホームビルダーの最新号(2018年3月号)で、基礎のクラック(ひび割れ)対策の特集がありました。
基礎工事の不備によってクラックが発生してしまったことによるトラブルや、クラック発生防止のための対策、またそのための資材について特集されています。

基礎コンクリートに生じたヘアクラックさえも許さない顧客が増えていることから、業者としても技術的対策に力を入れているようです。

基礎のひび割れには「許容されるもの」と「されないもの」がある。建て主に丁寧に説明すれば、それを分かってもらえるはず──。これが従来の住宅業界の常識だった。しかし、最近はヘアクラック(微細なひび割れ)さえ許さない建て主が増えている。このため従来の説明路線から転換、多くの企業がヘアクラック対策に取り組み始めた。その動きは、大手から中小の住宅会社へと着実に広がっている。

ヘアクラックを言い訳にしない | 日経 xTECH(クロステック)(2018年2月21日)

一般に、ヘアクラックと呼ばれる程度の微細なひび割れには構造上の問題はなく、また、コンクリート施工ではこのような微細なひび割れは避けられないものです。

それでもクレームをいわれてしまう背景には、どのような原因があるのでしょうか。
また、そのようなクレームを防止するための心構えについても考えてみます。

 

小さな点へのクレームが多発するようになった背景

一昔前なら…

おそらく一昔前であれば、顧客がこのようなひび割れを発見して業者に尋ねたとしても、業者や職人が「この程度ならば問題ない」と顧客に説明して済んでいたかと思います。

なぜなら、専門家に対して素人の顧客がクレームを入れるということ自体が一般的ではなかったことに加え、顧客が専門的知識を仕入れることが難しかったからです。
顧客としては、よく分からないながらも「そういうものか」と納得していたのかもしれません。

現在では

しかし現在では、以下の点で事情が異なります。

一つは、権利意識の高まりにより、クレーム入れることに対する抵抗感は薄まっていることです。
二つ目は、インターネットなどにより簡単に知識を得られるようになったことです。

特に後者の点については、インターネットで仕入れられる知識は断片的なものであったり、偏った情報であったりするために、前提知識を持たない顧客は、より不安になりがちです。
(「基礎 コンクリート ひび割れ」などと検索すれば、顧客の不安をあおるサイトも多数出てきます)

このように顧客が不安を抱きやすい状況において、さらに、不信感を抱かせるような業者の態度(「丁寧に説明してくれなかった」「質問した時に態度が悪かった」など)が加われば、どんな形でクレームが出てもおかしくはありません。

 

クレームを防ぐためには

いったんこうなってしまえば、業者が「この程度のヘアクラックは避けられず、また構造上は問題がない」といくら説明しても、顧客は納得してくれないかもしれません。
また、仮にヘアクラックの点には納得したとしても、一度生じた不安や不信感はぬぐえず、今後ほかの(ささいな)点についてもクレームを言ってくるようになる可能性もあります。

業者側として、「施工は問題ないのにクレームを言われても…」という気持ちは分かります。
しかし、ここで顧客をクレーマー扱いして距離をとるようになったり、強硬な姿勢に出たりしてしまえば、事態は悪化する一方です。

そこで、このようなクレームの原因を押さえたうえで、できれば本格的なクレームとなる前に(クレームとなってしまった場合でも、なるべく初期の段階で)手を打っておくことが必要です。

(もちろん、なかには本当に悪質なクレーマーなどもいますし、この場合には傷が浅いうちに手を切ることの方が重要です。)

 

クレームの本質的な原因

本来問題がないのにこのようなクレームが発生してしまう原因は、不安・不信と、知識不足が複合したものだと考えています。
まず根っこに「不安・不信」があり、その上に「知識不足」が乗っかっているというイメージです。

前者の「不安・不信」についてですが、顧客側の心理を考えてみれば分かりやすいと思います。
特に住宅の場合には、顧客にとっては一生に一度の高額な買い物です。また、住宅の安全性は、家族の生命に直結します。
さらに、悪質な建築トラブルに関する報道などを目にしていれば、建築工事というものへの不安は避けられません。

ここに、業者側の、不誠実な態度(顧客側からは不誠実と見られる態度)が加われば、顧客の不安はますます大きくなっていきます。

この状態で、顧客がインターネットで知識を仕入れようとすれば、事態はさらに悪化します。
前述のとおりインターネットで簡単に手に入る知識は、そもそも断片的で不完全なものであることに加え、
不安や不信感を抱えているためにバイアスがかかり、不安を増大させるような情報(危険性をあおるような情報)ばかりが目に入ってしまうようになってしまいます。

このように、不安や不信をもとにして、不完全な知識による不十分な理解がなされてしまうために、本来は問題のないことであってもクレームに発展してしまうのです。

 

クレームの防止策

そこで、このようなクレームを防止するためには、まず根っこにある不安・不信を発生させない(あるいは取り除く)ことが必要です。
そのうえで、適切な知識を提供することで、顧客の理解は得られ、クレームを防止(あるいは解決)することが可能になります。

過去にも何度か述べていますが、建築分野に限らず、専門性が高く顧客との知識の差が大きい分野では、顧客とのコミュニケーションを欠かさないことが必要です。

顧客は何も知らない

その前提として、まずは「顧客はほとんど何も知らない」ということを理解しなければなりません。
いろいろ調べて勉強をしたりする顧客も多いですが、だからといって体系的な理解をしているわけではありません。
「この人は分かっていそうだから大丈夫かな」と思い、説明を省略してしまうことは危険です。

顧客のことを何も知らない

次に、「専門家は顧客のことを分かっていない」ということを自覚する必要があります。
長い間その業界にいると、つい、素人の顧客が実際に何に不安を感じるか、という点が分からなくなりがちです。

もちろん、既にさまざまな知識・経験を得てしまっているので、今さらまっさらな素人の立場に立って考えてみるのは難しいとは思います。
しかし、過去のクレーム事例などから、素人の顧客がどんなことに不安を感じるのかを知ることはできます。

このようにして、顧客が不安を感じるであろう点については、常に頭に入れておく必要があります。
社内でリストアップしておき、共有するのがよいでしょう

不安が予想される点については事前に説明を

そのうえで、これらの点につき可能な限り事前に説明しておくことで、顧客が不安や不信感を抱くことを予防できるのです。

冒頭のヘアクラックの例であれば、コンクリート打設の前に「微細なひび割れが生じることがあるが、これは避けられないものであり、また構造上は問題ないものである」という説明を聞いていたかどうかで、顧客の心理は大きく変わります。

面倒かもしれませんが、この積み重ねが信頼関係(クレームが発生しない関係)を築いていきます。