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労働法分野における2つの「2018年問題」とは 派遣社員の問題と有期雇用社員の問題

投稿日:2018年1月15日


労働法関連の分野における「2018年問題」といえば、2つの異なる問題があるのをご存知でしょうか。
労働契約法の2012年改正による問題(有期雇用従業員の雇止め)と、派遣法の2015年改正による問題です。

本日の朝日新聞の記事では、派遣法改正による問題について紹介されていました。

派遣社員を雇い止めする「派遣切り」が今年、多発する可能性がある。派遣労働者の直接雇用を促す目的で、派遣期間を一律3年に限る改正法の施行から秋で3年を迎え、その後、雇用契約した人たちが、派遣先の直接雇用か、雇い止めかの分岐点に立つためだ。

派遣切り、2018年多発の恐れ 15年「期間一律3年」の法改正:朝日新聞デジタル(2018年1月15日)

改正法の影響で、2018年に派遣切りが多発する可能性があるという問題です。

他方、こちらのニュースを覚えていらっしゃる方も多いと思います。

トヨタ自動車やホンダなど大手自動車メーカーが、期間従業員が期限を区切らない契約に切り替わるのを避けるよう、雇用ルールを変更したことが分かった。改正労働契約法で定められた無期への転換が本格化する来年4月を前に、すべての自動車大手が期間従業員の無期転換を免れることになる。雇用改善を促す法改正が「骨抜き」になりかねない状況だ。

車大手、期間従業員の無期雇用を回避 法改正、骨抜きに:朝日新聞デジタル(2017年11月4日)

こちらは労働契約法の改正による、有期契約社員に関する問題です。
無期雇用への転換が認められる前に、有期契約社員の雇止めが多発する可能性があるという問題です。
今年に入ってからも改めて報道されています。

4月以降、有期契約が通算5年を超えた労働者は、希望すれば定年まで働ける無期契約へ転換できるようになる。労働者にとっては雇用契約打ち切りの不安がなくなり、生活の安定につながる。企業は制度や就業規則を作るなど対応を急ぐが、自動車大手など一部では回避の動きもみられ、問題となっている。

雇用契約の無期転換、4月実施=自動車に回避の動きも:時事ドットコム(2018年1月7日)

労働法分野において単に「2018年問題」といった場合には両方を併せて指すことも多いと思いますが、両者は別の問題ですので、混乱しないためにも区別して理解しておく必要があります。

 

派遣法に関する2018年問題とは

一言でいえば、「労働者派遣法の2015年改正の影響により、2018年に、派遣社員の派遣切りが大量に発生する可能性がある」という問題です。
改正内容のうち、2018年問題にかかわるのは以下の点です。

派遣先事業所単位での期間制限

まず、従来派遣期間の制限がなかった業務(いわゆる「政令26業務」)についても、派遣期間が最大で3年とされました。
具体的には、同一の企業の事業所に対して派遣できる期間(派遣先から見れば、派遣社員を受け入れることのできる期間)が最大で3年となります。

これは要するに、派遣先企業に対する「いつまでも派遣社員に頼っていないで、なるべく正規雇用の従業員を雇うように」という趣旨の改正です。

もっとも、この規制には例外があり、派遣先企業において労働組合の意見の聴取を行うことで、引き続き派遣社員を受け入れ続けることは可能になります。

厚労省パンフレットより(以下同)

派遣社員個人単位での期間制限

また、同一の派遣社員を、同一の事業所の同一の組織単位(部署など)派遣することができる期間も最大で3年とされました。
つまり、派遣社員から見ると、同じ企業の同じ部署には、継続して3年を超えて就業し続けることができなくなったということです。

同一の派遣先(就業先)への固定化を防ぐことなどを目的とした規定です。

ただし例外的に、その派遣社員が、派遣元で無期雇用されている場合や、60歳を超える場合などは例外的にこの規制の対象外となります。

派遣元(派遣会社)による雇用安定措置の実施義務

さらに、派遣元は、継続して3年間派遣される見込みがある派遣社員については、派遣先に直接雇用するよう依頼することや、新たな派遣先を提供すること、派遣元企業で無期雇用するなどの措置を行う義務があるとされました (派遣期間の見込みが1年以上3年未満の見込みの派遣社員については努力義務)。

これらを併せるとどうなるか

上記の点を併せて考えると、「ある企業のある部署にある派遣社員が派遣されてもうすぐ3年になる」という場合、派遣元・派遣先のそれぞれの認識は以下のようになります。

派遣先企業から見れば、その人をこれからも継続してお願いしたい場合には、自社でその人を直接雇用するか、派遣元(派遣会社)にその人を無期雇用してもらう必要があります。
他方、その人でなくても良いので派遣社員に引き続きお願いしたい場合には、派遣元(派遣会社)に、別の人を派遣するよう要請することになります。

派遣元(派遣会社)から見れば、その派遣社員を同じ派遣先企業の同じ部署に派遣し続けるためには、その派遣社員を、自社で無期雇用する必要があります。

つまり、派遣社員本人から見れば、派遣先企業に雇用されるか、派遣元(派遣会社)に無期雇用されない限り、同じ企業の同じ部署には継続して就業することができないのです。

考えてみればわかりますが、派遣会社を利用し続けてきた派遣先企業がその派遣社員を自社で雇用することは考えにくいですし、派遣元(派遣会社)からすれば、有期雇用をしている派遣社員をわざわざ無期雇用にすることも考えにくいといえます。
結果的に、今まで就業していた派遣先企業からは、この改正法の規定により強制的に切られることになるのです。 

そして、改正法による規制が適用されるのは、改正法が施行された2015年9月30日以降に締結された契約です。
そのため、施行の3年後である2018年9月30日から(実際にはそれよりも前から始まるでしょう)、このようにして切られてしまう派遣社員が続出するのではないか、と問題視されています。

これが派遣法に関する2018年問題です。

 

有期雇用社員に関する2018年問題とは

こちらは、「労働契約法の2012年改正により、2018年に、有期雇用社員の雇止めが大量発生する可能性がある」という問題です。

「無期転換」とは

労働契約法の2012年の改正(施行日は2013年4月1日)により、有期契約社員は、同一の企業で5年を超えて雇用されている場合には、希望により無期契約社員となれるようになりました。

具体的には、
・ある有期契約社員について、有期労働契約の期間が通算5年を超えている
・その間に契約の更新を1回以上行っている
・現時点で同一の企業に雇用されている
という条件を満たした場合で、その社員が企業に対し、次の契約から無期契約に転換するよう申し込んだときは、会社はその申込みを断ることができません(ただし後述の例外あり)。

つまり、申込みがあった場合には、自動的に次から無期契約になります
この制度は一般に「無期転換」と呼ばれます。

厚労省パンフレットより(以下同)

空白期間がある場合の例外(クーリング)

ただし上記の規定には例外があり、前記の「通算5年」の間に一定の空白期間(契約をしていない期間)がある場合には、無期転換はできません。

通算期間が1年以上ある場合には、契約終了後にいったん空白期間を6か月以上置き、その後に再契約をすれば通算期間はリセットされます(空白期間以前の契約期間は算入しません)。
この例外規定は「クーリング」と呼ばれることがあります。
(通算期間が1年未満の場合には、空白期間は、それまでの通算期間の半分となります)

そうすると企業からすれば、雇用している有期社員について、通算期間が5年を超えるまでにいったん契約を(更新せずに)終了させ、かつその後に6か月以上の空白期間をおいて再雇用をするという形にすれば、無期転換の規制を免れることができるわけです。
つまり、その社員を有期契約のまま雇用し続けることが可能になります。
(この点がまさに「抜け穴」として改正時にも批判されていました)

また、冒頭にあげた記事の例では、大手の自動車メーカーが、こぞってこの抜け穴を利用するように規程や運用を変更したために問題となりました。

改正法の影響

無期転換を避けたい企業としては、現在雇用している有期社員の通算期間が5年を超える前に、契約を更新せずに終了させる(これを「雇止め」といいます)ことが予想されます。

そして、改正法の規定は、施行日(2013年4月1日)以降に締結された有期労働契約に適用されます。
したがって、この雇止めの問題は、施行日の5年後に当たる2018年から発生し始めるのではないかといわれています。

これが有期雇用契約に関する2018年問題です。

したがって、会社はこれを避けるために、5年を経過する前にその有期社員の契約を打ち切り(いわゆる雇止め)この効力を阻止しようとするわけです。
改正法が施行されたのは2013年4月1日ですので、その5年後に当たる2018年3月31日以降、雇止めされてしまう有期社員が続出するのではないかといわれています。

これが有期社員に関する2018年問題です。

 

派遣社員への影響

以上のとおり、派遣法に関する2018年問題と、有期社員に関する2018年問題とは、別の問題であることに注意が必要です。

ただし、派遣社員に関してはこの2つの問題が同時に生じる可能性があります
例えば、派遣社員が派遣元企業(派遣会社)に有期社員として雇われている場合(このような形態の方が多いと思います)には、その派遣元企業での雇用期間が5年を超え、かつ、派遣先での就業期間が3年以上となる場合には、 2つの「2018年問題」の影響により、派遣元企業から切られてしまう可能性がより高くなります。

その意味では、有期雇用の派遣社員が、これらの法改正により最も身分が不安定になってしまったといえるかもしれません。


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