パート従業員のシフトカットが違法とされ給与の支払いを命じられた例
今回は労働法関連の話。
シフト制で勤務してるアルバイト・パート従業員について、会社の都合でシフトを減らすことは問題ないか。
あるいは何らかの制限があり、違法となることがあるのか――という相談を、会社側からも従業員側からも受けることがあります。
いわゆる「シフトカット」の問題です。
特に今は、コロナ禍の影響でより深刻な問題になっています。
ただ、一律に「シフトカットは違法なのか?」と問われると難しい話です。
会社は自由にシフトを決めることができるのだから、一見するとシフトを減らすことは問題ないようにも思えます。
とはいえ、シフトをゼロにしてしまえば実質的に解雇するのと同じですから、さすがにそこまでは認められなさそうです。
このように、シフトカットには何らかの限界があることには異論はないでしょう。
ただ、法律上は「何割カットしたら違法」などのような明確な基準があるわけではありません。
雇用契約の内容や従前の勤務状況、シフトカットの理由などに応じて個別具体的に判断されることになるでしょう(また法律構成も変わってきます)。
今回は、会社が行った大幅なシフトカットが違法であるとして民法536条2項によりその間の賃金全額の支払いを命じた、東京地裁2020年(令和2年)11月25日判決について解説します。
事案の概要
争点は多岐にわたりますが、以下では、シフトカットに関連する部分のみを挙げます。
当事者
原告:介護事業および放課後児童デイサービス事業を営む会社
被告:H26.1月に同社に雇用されたパート従業員
※会社からの債務不存在確認請求訴訟が先行しているため、原告と被告が通常のケースと逆になっています。
雇用契約書の記載内容
就業場所:原告の各事業所(主たる事業所の記載はない。)
業務内容:空欄
始業・終業時刻及び休憩時間:「始業時刻 午前8時00分、終業時刻 午後6時30分(休憩時間60分)の内8時間」との記載
上記のほか「シフトによる」旨の記載がある。
なお、履歴書には「週3日を希望」との旨の記載がある。
勤務状況
H26.2~H28.1の1か月あたりの出勤日数は9~16回であった。
H29.7月に8月分のシフトを5日に削減されることがあり、その後9月分は1日、10月分以降はゼロとなった。
5月分以降のシフト・勤務時間は次のとおり。
5月:13日(勤務時間65.5時間)
6月:15日(勤務時間73.5時間)
7月:15日(勤務時間78時間)
8月:7月20日時点では合計17日であったところ、同月24日時点では5日(勤務時間40時間)に削減。
9月:1日(勤務時間8時間)
10月以降:ゼロ
請求の内容
- 請求1
雇用契約の内容として勤務時間を週3日、1日8時間(週24時間)とする合意があったため、その合意に基づく賃金の請求。 - 請求2
仮に上記1の合意が認められないとしても、前記シフトカットが違法・無効であるからそれがなかった前提での賃金(直近3か月の賃金平均額)の請求。
判断
請求1について
裁判所は、前記で紹介した事実関係のほか本件従業員の勤務状況などをもとに、勤務時間を週3日、1日8時間(週24時間)とする合意はなかったと認定しました。
請求2について
そのうえで、次のとおり判示しました。
適法にシフトが決定されている以上、被告(※従業員)は、原告(※会社)に対し、シフトによって決定された勤務時間以外について、原告(※会社)の責めに帰すべき事由によって就労できなかったとして賃金を請求することはできない。
しかしながら、シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得ると解され、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について、民法536条2項に基づき、賃金を請求し得ると解される。(注:当事者名は編集、改行・下線を追加)
結論として、9月分・10月分のシフトカットについては合理的な理由ないからシフト決定権限の濫用に当たるとして違法とされ、直近3か月(5月~7月)の平均額との差額を支払うよう命じられました。
なお、8月分については17日間から5日間に減らされていますが、「勤務時間も一定の時間が確保されている」とされ支払いの対象外とされました。
コメント
裁判所の判断を要約すると、
- 適法にシフトを決定していれば(シフト内容が雇用契約に反していなければ)、シフトを減らされた分の賃金の請求はできない。
- もっとも、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得る。
- その場合、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について、民法536条2項に基づき、賃金を請求し得る。
ということになります。
上記1.の点は雇用契約の問題であり、本件では勤務日数・時間の定めがない契約とされましたが、仮に最低勤務日数の定めがある契約であればそれを下回るようなシフトカットは違法となるでしょう。
仮に1.の点で違法とならなければ2.と3.の問題となります。
ここでのポイントは「合理的な理由なく」「大幅に削減」の2点です。
仮に上記の基準に従うのであれば、カットした日数が「大幅」でなければ問題ありませんし、また大幅なカットであっても「合理的な理由」があればやはり問題ないことになります。
本件では上記で見たように、直近3か月のシフトが(1か月あたり)13日~15日であった状態から、5日に減らしたのはOK(大幅ではない)でしたが、1日に減らしたのは大幅なカットでありかつ合理的な理由なしとして違法とされました。
もっとも、本件でシフトカットに至った経緯は実際にはもう少し複雑なものであり(介護事業部門で注意指導を受けたことや、他の条件について団体交渉があったこと、本件従業員が放課後児童デイサービスでの勤務を拒否する旨宣言したことなどがありました)安易に一般化できるわけではない点には注意が必要です。
とはいえ、裁判例の少ないシフトカット事案について一つの参考になるかと思います。
ちなみに法律構成についてですが、本件では民法536条2項のみが問題とされおり、労働基準法26条(休業手当)の議論はされていません。
シフトカットの理由や就業規則の内容などによっては労働基準法26条(休業手当)の問題となり、請求できるのが平均賃金の60%相当額に限られることになるでしょう(民法536条2項の場合には、適正なシフトに基づく賃金の全額を請求できることになります)。