コロナショックによる倒産は今後増えるか? 過去の破産申立件数の推移について
現在、新型コロナウイルス感染症の影響(というより、それに起因する営業停止要請や外出自粛要請の影響)により、企業活動は大きなダメージを受けています。
今回のような、経済全体にダメージを及ぼすような出来事があると企業の倒産件数は連動して増えるものですが、過去の歴史はどうだったのでしょうか。
今回は、司法統計のデータから、過去の破産申立の件数の推移についてみてみます。
※後述のとおり、いわゆる「倒産」の中には破産以外の手続も含まれますが、今回は主に破産手続について検討しています。
2020年1月~4月の概況
東京商工リサーチの発表によれば、企業の新型コロナ関連の倒産件数(負債総額1000万円以上)は、6月4日時点で全国で153件(準備中も含めれば214件)に達したそうです。
6月4日17時現在の「新型コロナ」関連の経営破たんは、全国で合計214件(倒産153件、弁護士一任・準備中61件)に達した。2月2件、3月23件だった経営破たんは、4月に84件と急増し、5月も83件発生した。6月は4日までに22件の経営破たんが判明した。
※なお、同社では、「倒産」とは、
・会社更生、民事再生、破産、特別清算が申し立てられた場合
・手形交換所の取引停止処分を受けた場合や任意整理を行っている場合等
と定義しています(倒産とは… より)。
新型コロナ関連も含む全体でみると、同社のデータによれば、今年2020年の1月~4月の倒産件数は2019年と比べて10%強増えているようです(全国企業倒産状況より)。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 合計 | |
2019年 | 666 | 588 | 662 | 645 | 2,561 |
2020年 | 773 | 651 | 740 | 743 | 2,907 |
※上記のうち破産は8~9割程度。
1月~4月の件数が全体で346件増加しているので、そのうちの6割ほどが「新型コロナ関連」ということになります(新型コロナの影響が出たのが1月からだと仮定)。
なお、5月の件数は昨年から大幅に減少していますが、これについては後述します。
破産申立件数の推移
ここで、上記「倒産」のうち破産手続にしぼって、司法統計及びそれを元にまとめた裁判所データブック2019の情報を元に、申立件数の過去の推移をみてみます。
(他の法的手続である会社更生、民事再生、特別清算は破産に比べて件数が1割以下と少ないので、破産手続の申立件数にしぼりました。)
1989年(平成元年)~2008年(平成30年)のデータをグラフにして見てみますと、次のようになります。
※なお、統計データは「自然人」(個人のこと)と「その他」に分けられていましたが、「その他」の大半は会社などの法人と思われます(それ以外では相続財産破産などがありますが件数としては極めて少ないと思われます)ので、データ中の「その他」をここでは「法人等」としました。
上記のとおり圧倒的に個人の破産が多く、このままではグラフが見づらいので表示形式を変えてみます。
法人等の件数は、2002年と2009年にピークがあるのが分かります。
このグラフと、過去の日経平均株価の推移とを合わせてみると、次のようになります。
※日経平均株価のチャートは株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドのwebサイトより
いうまでもなく、2002年はITバブルの崩壊や同時多発テロの影響、2009年はリーマンショックによるものですね。
やはり景気の悪化と破産件数の増加は相関しているようです。
※なお、これに対して個人の件数については、2006年の貸金業法の改正(総量規制やグレーゾーン金利の撤廃)やら過払いブームやら、景気とは別の要素も大きく影響しているものと思われます。
今後どうなる?
2020年3月には日経平均株価は16,000円台まで下がりましたがその後すぐに回復し、6月に入ってからは22,000円台まで戻りました。
とはいえ、自粛ムードにより致命的なダメージを受けた飲食、宿泊、旅行などの中小企業は、依然として厳しい状況にあるのは間違いありません。
1、2か月売上がなくなっただけで倒産状態になるのか?とお思いの方もいるかもしれませんが、利益率の低い業種ではそれだけで十分致命的です。
また、もともと資金繰りがギリギリの状態であれば、今回の売上減少が引き金になってしまうことはあり得ます(というより、このようなケースの方が多いのではないかと想像します)。
いずれにせよ、前記の4月までのデータでは、今回の影響についてはまだ何ともいえません。
売上が減ったからすぐに倒産するというわけではなく、資金繰りが悪化しその後の支払いができなくなって倒産に至るわけですから、本格的に影響が出るのはもう少し先でしょう。
5月の倒産件数について
なお、5月の倒産件数は注意が必要です。
前記で昨年・今年の1月~4月の倒産件数を紹介しましたが、5月に入って件数は大幅に減少したようです。
2019年5月が695件(うち破産は660件)なのに対して2020年5月が314件(同254件)と、昨年の半分以下に減っています。
件数は、1964年6月の295件に次ぐ、56年ぶりの記録的な低水準となった。月間300件台は、1966年1月(378件)以来、54年ぶり。4月まで2019年9月から8カ月連続で前年同月を上回り、2019年12月以降は5カ月連続で10%超の増加率だった。だが、政府の資金繰り支援に加え、リスケ対応も動き出した。また、新型コロナ感染拡大で裁判所の一部業務の縮小や、手形の不渡り猶予などの支援策に加え、経済活動を休止していた企業・店舗の再開や廃業、倒産の判断先送りも記録的な減少を後押ししたとみられる。
政府や金融機関の支援が本格的に始まったことも原因として挙げられていますが、一番は、裁判所がストップしていたことが大きいように思います。
破産など法的手続の申立てを延期したケースは多いでしょう。
(なお、裁判所からは「不急の申立ては後に回してくれ」との要請がありましたが、実際にはその間の申立てが受理されなかったわけではありません。
ただ、案件の中には、緊急を要するわけではないものもありますので、代理人がそういった案件の申立てを遅らせたものと想像しています。)
そうだとすると、裁判所が徐々に動き始めた6月から、破産の申立件数が大きく増えていくのではないかと予想されます。