【初心者向け】契約書の実践的な作り方 第4回(各論①)
「契約書の作り方」第4回は、ようやく各論について。
ここから、主に、売買契約や請負契約、委任契約を念頭に置いて、具体的な条項の中身について説明します。
これらの契約で中核となるのは次の2点です。
- 何をしなければならないか(義務の内容)
- それに対していくらの代金を払うのか
この2点は明確でなければなりません。
以下、詳しく見ていきます。
第1回はこちら:【初心者向け】契約書の実践的な作り方 第1回(総論① 体裁)
第2回はこちら:【初心者向け】契約書の実践的な作り方 第2回(総論② 文章の書き方)
第3回はこちら:【初心者向け】契約書の実践的な作り方 第3回(総論③ 準備)
義務の内容
まずは、代金をもらう側の義務の内容について。
前述したように、代金と並んで最重要項目です。
中核となる要素
売買契約なら「何を売るか」、請負契約なら「何を作るのか」、委任契約なら「何をするのか」が中心となります。
「4W1H」の項でも述べましたが、当事者は、いつまでに、どのような方法で、何をすべきなのか――最低限これらの点は明確にしましょう。
例えば売買契約では、何を(あるいはどのような性能の物を)、いつまでに、誰に対して、どこで、どのように引き渡すのか、などを定めておきます。
成果(成果物)の要否
一定の成果や成果物(仕事の完成)が要求されるのかどうか。
あるいは、一定の作業を要求されるにとどまるのか。
※この点は「これから結ぼうしている契約がそもそも何契約なのか」にも関わります(成果を要求される場合は請負契約、そうでなければ委任契約)。
仮に成果物を要求される場合、その水準(あるいは仕様)はどの程度のものか。
また合否の判定(次項の「検収」)は誰がどのように行うのか。
成果に関しては最低限これらの点を定めておく必要があります。
検収
特に売買や請負の場合には、目的物や成果物について、受け取る側が合否の判定を行うことがあります(「検収」といいます)。
この場合、いつまでに、どのような方法で合否を伝えるのかに加え、期限までに合否を伝えなかった場合にどうなるか(例えば、その場合は合格をみなすのか、など)、も決めておきます。
何を「やらない」のか
前後しますが、代金をもらう側の義務については「何をすべきか」を明確にするのはもちろんですが、できれば「何をしないか」についても書いておくとよいでしょう。
(契約書には書かなくても、少なくとも事前に当事者間で確認しておくべきです)
これは売買でも同じ。
例えば、この点についての品質は保証するが、この点については保証しない、というようなことを(できれば契約書上に)明らかにしておくことが、後の紛争防止に役立ちます。
代金
次は代金について。
最低限、
- 金額
- 支払時期
- 支払方法
については明確にしておきましょう。
金額
具体的な金額や、計算方法を記載します。
細かい点ですが振込手数料の負担についても忘れずに。
なお、前にも書きましたが、どうしても事前に金額が決まらない場合には、必ず決め方を書いておきましょう。
支払時期・条件
代金の発生時期・条件についても要注意です。
- 契約時/着手時に支払う
- 物の引渡時(または作業終了時)に支払う
- 引渡し後、検収に合格したら支払う
- 各段階に応じて分割
などのパターンがあります。
特に2番目の場合は「引渡し」「作業終了」の定義も決めておきましょう。
支払方法
ほとんどの場合は銀行振込みかと思います。
細かいですが、振込先の口座(あるいはその指定方法)についても記載しましょう。
例えば「下記銀行口座に振り込む方法により支払う」「乙の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う」などと記載します。
繰り返しになりますが、振込手数料についてもお忘れなく。
経費について
なお、金額の話とも関連しますが、付随費用(経費)についても可能な限り明確にしておきましょう。
交通費や印紙代などのほか、売買なら運搬・設置費用、請負や委任なら付随する作業の費用については、どちらの負担とするのか。
「○○等の費用は●の負担とする/代金に含む」のように記載します
また、支払いのタイミングが「都度、請求に応じて支払う」という方式の場合でも、できれば「請求書を受領してから●日以内に」「請求書を受領した月の翌月末までに」のように明確にしましょう。
債務不履行
期日までに目的物を引き渡さない/代金を支払わない場合(債務不履行の場合)のペナルティについても定めておきましょう。
ペナルティの基本は、契約解除と損害賠償です。
解除
まずは解除(債務不履行による解除)について。
そもそもこの条項を入れる目的は、相手が義務を履行しない場合に、今の契約を白紙にして別の手段をとれるようにする点にあります。
解除ができなければ、いつまでも今の契約が残ってしまいますので。
仮に契約書に何も定めていなかったとしても、法律の規定(民法541条)に基づいて解除をすることが可能です。
相手方が、期日を過ぎても引渡しや代金支払いをしない場合で、催告(「●日以内に履行せよ」という通知)をしても履行されないときは、契約を解除することができます。
これをそのまま書くか、あるいは催告なく直ちに解除できるように書く(無催告解除といいます)方法があります。
解除については、ここでいう債務不履行による解除以外のものも含めて後述します。
多くの契約書のひな形に定型文言で入っているのであまり問題はないでしょう。
損害賠償
続いて損害賠償について。
何も契約書に書いてなくとも、相手に債務不履行があれば損害賠償は請求できます(民法415条)。
しかしその場合、思ったような賠償は得られないことがほとんどです。
そのため、どのような場合にいくらの賠償を払うのか、明確にしておく必要があります。
まず、どのような場合に損害賠償義務が発生するのか。
通常は、
- 代金の支払い/物の引渡しなどが遅れた場合
- 上記を理由として契約を解除(または解除権が発生)した場合
前者の場合、賠償額は「代金額の年○%の割合による遅延損害金」となるのが基本です。
後者の場合(解除した場合など)の損害賠償の規定については、単に「損害を賠償する」でもよいのですが、可能なら明確にしておきたいところです。
最も明確なのが「違約金」として最初から金額を確定してしまう方法です(代金の○%相当額、など)。
※なお、違約金方式について補足しますと、この方式は明確で分かりやすい一方で、
・どんな損害が発生しても決めた金額以上は請求できない
・損害がほとんど発生しなかったとしても決めた金額を支払う必要がある
というメリット・デメリットがありますので要注意です。
契約期間
単発の取引ではこの話は出てきませんが、継続的に行われる取引の場合には契約期間が定められます。
この場合は、期間が満了したときにどうなるかについても明確にしましょう。
更新を予定しないのか、更新があり得るのかによっていくつかパターンがあります。
更新を予定しない場合には何も書かなくてOKですが、更新があり得る場合には、「本契約は、甲乙の協議により更新することができる」のように書くか、あるいは自動更新条項にします。
自動更新の条項は、以下のように記載するのが一般的です。
「期間満了○か月前までに甲または乙から更新をしない旨の(書面による)意思表示がない場合は、本契約は同一条件でさらに●年間更新されるものとし、以後も同様とする。」
※自動更新条項について補足しますと、「同一条件で」と「以後も同様」が抜けている例が散見されますのでご注意を(なくてもあまり大きな問題にはなりませんが…)。
また、紹介した条項例のように、意思表示には「書面による」などの方式も記載しておくとより明確です。
解除条項
債務不履行の項で説明したとおり、契約書に特に定めがなくとも、相手方に債務不履行があれば契約を解除することができます。
もっとも、そのままでは債務不履行とはいえない場合には解除することができません。
そこで、それ以外の場合にも解除ができるよう、解除条項を定めるのが一般的です。
ひな形でよくあるのは、以下のように主に信用不安を理由とするものです。無催告解除とされている例が多いようです。
甲または乙は、相手方が次の各号に定める事由に該当する場合には、催告なく直ちに本契約を解除することができる。
① 監督官庁による営業許可の取消し、停止その他の行政処分があったとき
② 支払停止もしくは支払不能に陥ったとき、または振り出した手形もしくは小切手が不渡りとなったとき
③ 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始または特別清算開始の申立てがあったとき
④ 第三者から仮差押え、仮処分、強制執行または競売の申立てがなされたとき
⑤ 公租公課の滞納処分を受けたとき
⑥ 手形交換所の取引停止の処分を受けたとき
⑦ 財産状態が悪化し、または悪化するおそれがあると認められる相当の事由があるとき
⑧ 解散、会社分割、事業譲渡または合併の決議をしたとき
⑨ 本契約に定める条項につき重大な違反または背信行為があったとき
⑩ その他、本契約を継続し難い重大な事由が生じたとき
解除条項は、このようなひな形の条項例でもあまり問題はありませんが、契約上の義務のうち特に「これに違反したら絶対ダメ」というものがあれば、解除条項に入れておくとよいでしょう。
なお、運用面には注意してください。
「契約書の作成」というテーマからは外れますが、催告や解除の通知は必ず証拠が残るように(内容証明郵便などで)行いましょう。
その他 一般条項など
各論のうち特に重要なものは以上です。
その他の条項として、一般条項と呼ばれるものがあります。
秘密保持条項、契約上の地位の移転の禁止条項、合意管轄条項、誠実協議条項、暴排条項などです。
これらは基本的にひな形どおりで問題ないでしょう。