ブロック塀の危険性や、倒壊した場合の責任について

18日に大阪で起きた地震では、倒壊したブロック塀の下敷きになり通行人が亡くなるという事故が、またしても起きてしまいました。

2016年の熊本地震の際にも注目されましたが、現存している古いブロック塀は、ほとんどが倒壊の危険にあるといっても過言ではありません。

一昨年の熊本地震では、再び倒壊塀で亡くなるケースが出た。専門家が被災した熊本県益城町のブロック塀約260カ所を調べたところ、約9割で耐震基準を満たしていなかったという。

【特集】なぜ繰り返される!ブロック塀の倒壊死 過去の教訓から - 共同通信(2018年6月19日)

その危険性を考えれば、すぐにでも撤去または造替えすべきですが、現実には、甘く考えているのかお金がないのか、今もなお危険なブロック塀は放置されたままです。

しかしながら、それを放置して実際に事故が起きてしまえば、所有者はその責任を免れることができません。
民事上の損害賠償責任のみならず、刑事責任を問われることもあります。

2016年4月14日の前震で倒壊したコンクリートブロック塀の下敷きになって死亡した男性(A氏、当時29歳)の遺族と、重傷を負った被害者の女性(B氏、当時57歳)が、塀の所有者を過失致死罪の容疑で告訴した。

熊本地震のブロック塀倒壊で刑事告訴 | 日経 xTECH(クロステック)(日経アーキテクチュア 2017年11月22日)

本日は、そんなブロック塀の危険性や、所有者が負う法的責任について概説します。

 

ブロック塀は意外と甘く見られてる?

ブロック塀は、こんな形のコンクリートブロックを積み上げて作られます。

広島第一ブロック協同組合より)

空洞ブロックなどといわれるタイプです。一部の空洞に鉄筋を通し、モルタルを流し込んで固定します。
塀の高さなどによって使う厚さが異なります。

法令で定められた詳しい施工方法はこちらを参照

さて、このブロック、重さはどれくらいでしょうか?
一度でも持ったことのある方なら分かると思いますが、「意外に重い」と思いませんでしたか?

実は軽いものでも10kgくらいあります。

では、これが倒れて通行人に当たった際には、どのくらいの衝撃があるのでしょうか。

ブロックの寸法は横390mm×縦190mmですので、継ぎ目を考慮して簡単に40cm×20cmとしましょう。
そうすると、身長160cmの人には下図のとおり8個のブロックが倒れ掛かることになります。

その重さは、10cmのブロックでも実に80kg、15cmのブロック(約14kg)なら110kg以上です。

それでも足元の方に当たるブロックは大した影響がないと思うかもしれません。
確かに、地面から立ってる塀であれば、実際に影響があるのは上の方の4~5個くらいでしょう(それでも相当な重さですが)。

が、問題はここからです。

熊本地震の際にもそうですが、今回の地震でも問題になったのは擁壁の上にあるブロック塀です。

建築基準法施行令では、ブロック塀の高さを「2・2メートル以下」と定めているが、倒壊した塀は高さ約3・5メートルだった。

1974年に設置された1・9メートルの基礎部分に、プールの目隠し代わりとして約1・6メートル分を積み上げていたが、積み上げた時期は不明という。

倒壊した小学校の塀、高さ基準超え「違法状態」 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)(2018年06月19日)

記事では「基礎部分」といっていますが、これは基礎ではなく土留めや擁壁と同じように考えてよいでしょう(詳細は割愛)。

いずれにせよこのブロック塀は、道路面から見ると、高さ190cmの位置からブロックが160cm(8個分)積み上げられていたものでした。
それが倒壊するということは、190cmの高さから100kg前後のコンクリートの塊が落ちてくるということを意味します。

(ちなみに、冒頭で挙げた熊本地震の際の事故では、擁壁の高さが200cm、その上の塀の高さが最大215cmだったそうですから、さらに衝撃は大きかったことなります。)

壁の高さを伝える報道は多いですが、重さを伝える報道はあまり見ませんでしたので、ここで強調しておきます。
いかに危険な状態であったか、お分かりいただけたでしょうか。

 

ブロック塀に関する規制と現状

規制の概要

建築基準法令は、大きな地震災害が起きると改正されることが多いです。

1968年(昭和43年)の十勝沖地震を受けて1971年(昭和46年)に建築基準法等が改正され、その際にブロック塀に関する基準が作られました。
その後、1978年(昭和53年)の宮城県沖地震を受けて1981年(昭和56年)に、また1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災を受けて2000年(平成12年)にそれぞれ建築基準法等が改正された際、ブロック塀の基準についても改正され、現在に至っています。

現行の基準の詳細は、国交省のページか、こちらの全国建築コンクリートブロック工業会のページをご参照ください。

塀の厚さ、鉄筋のスパン(間隔)、入れる基礎の施工方法・深さ、控壁の大きさや間隔などが定められています。
控壁(ひかえかべ)とは、壁の安定性を高めるために、一定の間隔で壁面から直角に突出させた壁の部分をいいます。
今回の大阪の小学校の壁ではこの控壁がなかったことが注目されています。)

今ではこのような規制がありますが、昔に設置された塀についてはかなり耐震性が低かったと予想されます。

冒頭に紹介したとおり、熊本地震の後の調査では約9割の塀が耐震基準を満たしていなかったとされています。
おそらく、現存するブロック塀(特に築年数がかなり経過しているもの)の多くは同じような状況なのではないでしょうか。

既存不適格

ただし、このような状態が直ちに建築基準法違反となるわけではありません。
ある建築物が「現在の基準は満たしていないものの、作った当時の法令の基準は満たしていた」という状態を「既存不適格」(きんふてきかく)といい、この場合には、増改築や建替えの際に新しい基準を満たすことが要求されるにとどまり、現にある建築物を基準に合うよう直したりする義務はありません。
(直さなくとも、建築基準法には違反しません(建築基準法第3条第2項))

そのため、耐震性が低い状態のブロック塀が現在にも残り続けているわけです。

余談ですが、私が小学生のころ、通学路にある家のブロック塀によじ登ろうとした際に、かなりグラついて怖くなったのを覚えています。
今思えば恐ろしい話ですが…

みなさんも小さいころに「地震の際にはブロック塀に近づくな」と言われたことがあるかと思いますが、この言葉が現状を表していると思います。

 

壁の所有者の法的責任

では、ブロック塀が地震により倒壊し、隣家や通行人に損害を及ぼした場合の法的責任はどうなるのでしょうか。
話を簡単にするため、以下ではそのブロック塀が現行の基準(耐震性)を満たしていない場合を念頭に説明します。

民事上の損害賠償責任(土地工作物責任)

このサイトでは何度も登場しておりますが(※末尾参照)、民法第717条が定める土地工作物責任として、管理者または所有者が損害賠償責任を負います。
(国や自治体の所有物であれば国家賠償法第2条の営造物責任といい、内容はほぼ同じです。)

大まかにいうと、
・建築物に欠陥があったり管理が不十分であったりしたことにより他人に損害を生じさせた場合には、管理者は、管理に過失があったときには損害賠償責任を負う。
・管理者に過失がなかったときは、所有者が(過失がなくとも)損害賠償責任を負う。
と定められています。
(ここでいう「管理者」とは、その建物の管理責任者や賃借人だと思ってください。当然、所有者しかいなければ、所有者のみが責任を負うことになります。)

地震によるブロック塀の倒壊の事例でいえば、上記の責任は、ブロック塀がその当時に通常想定される地震に耐えうる性能を有していなかった場合に発生します。
そして、ここでいう「通常想定される地震」ですが、近年の大震災の経験から、現在では震度6や7の地震まで想定すべきと考えられており、現行の建築基準法令の基準でもこれを想定しています。

したがって、現行の基準を満たしていないブロック塀であれば、倒壊した場合には責任を免れることはほぼないと考えてよいでしょう。

刑事責任(過失致死傷罪)

刑事責任については、上記の土地工作物責任とは異なり無過失責任というのはありません。

塀が倒壊した結果、人を死傷させた場合には、所有者または管理者に過失があれば過失致死傷罪(刑法第209条または第210条)が成立します。

ここでいう過失とは、一般に、
・人が死傷するという結果を予測できたこと
・それにもかかわらず、その結果を回避しなかったこと
の2つの条件を満たす状態をいいます。

ブロック塀の倒壊という事例でいえば、
・自分が所有(管理)するブロック塀の耐震性が不十分であるため、地震によって倒壊して人が死傷する可能性を認識できた
・それにもかかわらず塀を撤去したり直したりせず放置した
という事情があれば、過失あり、と判断されます。

冒頭にあげた熊本地震のケースでは、以前から所有者は、危険だから塀を撤去するようにと近隣住民に言われていたそうです。
自身でも塀の耐震性が低いことが分かっていたのであれば、人が死傷する可能性は認識できたといえますので、過失は認められるでしょう。

特に熊本地震や今回の大阪の地震のように、ブロック塀に関する危険性が大きく報道されている現在では、自分のブロック塀の危険性を認識することが容易になっているといえますので、今後、過失の認定はより厳しくなることが予測されます。

建築基準法には違反しないのに?

ところで、前述のとおり建築物(建物のほかブロック塀も含む)が現在の耐震基準を満たしていないとしても、建築当時の基準を満たしていたものについては既存不適格として、建築基準法上は違法にはなりません。

しかし上記のように、現在の耐震基準を満たしていない建築物を所有していたことにより、結果的に、損害賠償責任や刑事責任が発生することがあります。
つまり、建築基準法上は違法でなくとも、民法および刑法では違法となり得るのです。
この点に注意が必要です。

これは、それぞれの法律の目的が異なるため、違法性はそれぞれの法律で判断すべきと考えられているためです。
たとえAという法律では適法である行為についても、別のBという法律では、違う観点から違法性を判断することになります。

 

早期の改修を

以上のとおり、普段何気なく見ているブロック塀には、意外な危険性があることがお分かりいただけたかと思います。

倒壊した際には、地面から立っている塀でも40~50kgのコンクリートの塊がのしかかります。
擁壁の上にある塀なら、上から100kg近いコンクリートの塊が降ってくるわけです。

そして、古いブロック塀のほとんどはその危険性を有しています。

こうした現状を踏まえ、多くの自治体ではブロック塀の撤去や改修、造替えを勧めています。
そのための補助金を用意してる自治体も多いので、検討してみてください。

特に擁壁の上にあるブロック塀は、直ちに対策する必要があります。

 

余談

余談ですが、地震によるブロック塀の倒壊事例に関する有名な裁判例として、仙台地裁1981年(昭和56年)5月8日判決があります。
前述した1978年(昭和53年)の宮城県沖地震でブロック塀が倒壊し、8歳の男児が下敷きになり死亡した事故に関する損害賠償請求事件です。

この判決では、
・地震当時はブロック塀に関する法令上の基準がなかった
・当時の仙台地区では予想できる最大の地震は震度5程度であった
・このブロック塀が震度5の地震に耐えられない構造だったと証明されていない
などの理由により、結論として損害賠償請求は棄却されています。

この判決などをもって、想定外の地震についてまで備える義務はない、といわれることがあります。

確かに一般論としてはそのとおりなのですが、前提として、この判決の当時の仙台では震度6が「想定外」だったということに注意が必要です。

しかし、今は状況が違います。
複数の大震災を経験した現在では震度7まで想定すべきですし、建築基準法の耐震基準も、震度7の地震が起きうることを前提に作られています。
さらにいえば、民事上の損害賠償責任や刑事責任についても、それを前提に解釈されることになります。
(とはいっても、「震度7」には上限がない(6強を超えたものは全部7になる)ため具体的にどの規模までを想定しておくべきかという問題はありますが…)

今回の地震を機にもう一度、ご自身が所有・管理する建築物について対策を検討することをお勧めします。

 

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