あなたの契約書は大丈夫?① 割印・消印・契印の違いと、それぞれの押し方について
「正しい契約書の作り方を教えてほしい」というご相談は多くあります。
日常業務の中では、何らかのフォーマットを利用しながら自己流で作成している方が多いようですが、自分で作成しながらも「本当にこれでいいのかな?」という不安は尽きないようです。
押印の仕方(割印、消印、契印)や、使う印鑑の種類(三文判、認印、実印)、製本の仕方などを詳しく解説した便利なマニュアルはなかなかありませんからね。
そのためか、新しく弊所の顧問サービスを始めることになった企業の方からの、最初に多いご相談のトップ3に入っています。
そこで、今回は契約書の作り方について、特に押印のしかたに着目して説明します。
法的に正しい契約書とは
と、その前に。
前提として「正しい契約書」とは何でしょうか。
実は、契約書の作り方を定めた法律はありません。
個別の法律で「この場合は契約書を作りなさい」と定めたり「契約書にはこの点を明記しなさい」と定めたりした規定はありますが、「契約書はこう作りなさい」と定めた法律はないのです。
したがって、法的に正しい契約書というものもありません。
極端な話、走り書きのメモでも契約書は契約書です。
ではなぜ契約書を作るのかというと、それは契約を証拠として残すためです(詳しくはこちら「契約書って必要?」)。
そのため、我々がアドバイスする「正しい契約書」とは「のちに裁判になり相手方が契約を否定したとしても、契約の存在を立証できるだけの証拠となるような契約書」を意味します。
なお今回は、契約書の内容部分ではなく、外観部分(押印や製本の方法)に限ってご説明します。
契約書が1ページのみの場合
契約書が1ページしかない場合は、よく見かけるような形で問題ありません。
契約条項があり、それと同じ紙に①日付の記入、②当事者の署名・記名、③押印、があれば最低限大丈夫です。
②は、個人であれば住所・氏名を、個人事業主であれば住所・屋号・氏名、法人であれば住所・法人名・代表者の肩書と氏名を記載します。
なお、このうち①②についてはプリンタでの印刷やスタンプ(これらを記名といいます)でも構いませんが、のちに裁判で争われることを想定するなら、少なくとも②は自筆で書いてもらった方がよいでしょう。
ただし、実印であれば問題ありません。
見た目はこんな感じになります。
なお、以下の写真も同様ですが、撮影のためシャチハタを使用しています。
しかし、実際の契約書ではシャチハタは使うべきではありませんのでご注意ください。
印鑑の種類については、個人なら認め印(三文判など)または実印、法人なら角印か代表印(実印)を使います。印鑑の種類について詳しくはこちら(「ハンコの法的効力」)。
割印(わりいん)
最低限は以上で足りますが、それに加えて割印(わりいん)を押すこともあります。
割印とは、当事者全員が同じものを保管するために同一の契約書を複数作った場合、それらが同一であることを証明するために、作った全ての契約書にまたがって押す印のことです。
何となくあった方がよさそうな気がしますが(主に見た目の点で)、別になくても問題ありません。契約書の同一性が争われることはほぼないので。
大きな意味はないので社内ルールに従っておけばOKです。
見た目はこんな感じ。
契約書2枚を重ねその状態を固定しながら、またがるように全員の印を押します。
割印は、契約書の署名欄に押したのと同じ印鑑を使わなければなりません。
(なお、写真は2枚(当事者2名)ですが、3枚以上でもできることはできます。ただし難しいのでお勧めはしません。無理して割印を押す必要はありませんので。)
消印
さて、無事契約書に調印しましたらこれで終わり…ではありません。
契約書によっては印紙を貼らなくてはいけません。貼らないと脱税になってしまいます。
印紙を貼った際には必ず消印をしましょう。消印をしないと印紙税を納付したことにはなりませんので注意です。
消印とは、印紙などを貼った際にそれを再利用できないようにするため、使用済みであることを示すために押す印のことです。
印紙本体と契約書の紙にまたがるように押しましょう。消印の場合は契約書に使用した印鑑でなくてもOKですし、署名でもOKです。
また、必ずしも契約書に署名押印した人全員が押さなければならないわけではありません。
誰か一人で十分です。
印紙と消印のイメージはこんな感じです。
なお、貼るべき印紙を貼っていなかったとしても、税法上は違法ですが契約の効力には問題がありません。
詳しくはこちら(「収入印紙を貼っていない契約書でも有効?」)
契約書が複数ページある場合
契約書が複数ページある場合は、ひと手間余計にかかります。
通常はこのように、
左側2か所をホチキス留めします。
(細かい話ですが、保管のことを考えホチキスの位置が2穴パンチに被らないようにしましょう)
その際、各ページの連続性(間のページが差し替えられていないこと)を証明するために、各ページの間に契印(けいいん)を押します。
契印(けいいん)
契印とは、複数枚からなる文書について、前のページと次のページがつながっていること(つまり間のページが差し替えられていないこと)を示すために、各ページの間に押す印のことです。
押し方はいくつかありますが、よく見るのはこの2つですね。
慣れないとうまく押すことができないので練習が必要です。
コツは、契印を押す部分にきっちり折り目をつけておくことです。
契印は、割印と同様に全員の印が必要で、かつ契約書の署名欄に押したのと同じ印鑑を使わなければなりません。
また、差し替えがなされていないことを証明するために押すわけですから、全てのページの間に押さなくてはなりません。
そこで、枚数が多い場合には製本テープを使った方法があります(後述)。
なお、契印が必要になると面倒なので、そもそも複数枚にしないような工夫も必要です。
A4で2枚なら、両面印刷にするか、A3に割り付けてしまうなどして、結果的に紙が1枚であれば契印は不要だからです。
A3でかつ両面にすれば、4ページまでは1枚でいけることになりますね。
ページがたくさんある場合
ページが複数ある場合には契印を押す必要があるといいましたが、それでも10ページを超えてくると全ページに契印を押すのは辛いですよね。
そこで、ページがたくさんある場合には製本テープを使った方法がお勧めです。
表面の素材が紙でできているテープです。
ロールタイプの方が割安ですが、慣れないうちはこの画像のように最初から切れているタイプの方が使いやすいと思います。
契約書の左側をホチキス留めした後に、そのホチキス部分を覆うようにしてテープを貼ります。
断面図を模式的に描くと、
全体像はこんな感じ(なお、表紙はあってもなくても構いません)。
テープ部分をアップにするとこんな感じです。少し下のテープの方が長くなってしまいましたね…
こうすることで、テープをはがさない限り契約書のページを差し替えることができなくなるのです。
そのうえで、契約書の紙部分とテープをまたぐようにして押印します。
すなわち、これが契印となるのです。
なお、契印を押すのは契約書の裏でも表でも構いません。
拡大するとこんな感じです。
製本テープを使った場合は、以上のように契印を押します。
なお、複数作成した際の割印や、印紙を貼った際の消印については全てのタイプの契約書に共通です。
まとめ
以上が、契約書作成の外観部分に関する基本です。
○○印というのがいくつか出てきたのでここで一度整理しましょう。
割印:複数作った契約書が同一であることを示すため。
消印:印紙が使用済みであることを示すため。
契印:ページが差し替えられていないことを証明するため。
このうち消印だけは、誰か一人の印でもよく、また署名押印部分に使った印でなくてもOKです。
割印・契印については全員の印が必要で、かつ署名押印部分に使った印を押す必要があります。
なお、今回は登場しませんでしたが、契約文言を訂正する際の「訂正印」についても割印・契印と同様に全員の印が必要です。
また、最後になってしまいましたが押印する際にはできるだけ押印マットを使いましょう。これがあるのとないのでは印影の美しさが違います。
100均のでもよいので、ぜひ1枚用意してください。