契約書って必要?

日々の業務の中で「契約書」を目にすることも多いかと思います。

企業間の契約や、企業と個人との間の契約においては、契約書を作成することが多いですね。

他方で、インターネットや電話、FAXでの取引ではいちいち契約書を作成しないことも多いかと思います。
また、スーパーやコンビニで物を買うときには契約書は作成しません。

この取り扱いの違いはどこにあるのでしょうか。
取引の金額によるのか、あるいは契約の重要性によるのでしょうか。

今回は、知っているようでよく分からない契約書の意味・必要性について見ていきます。

契約が成立するための条件とは

まずは、法律上契約が成立する条件(法律用語では、この条件のことを「法律要件」や単に「要件」といいます)を見てみましょう。

法律上、契約が成立するために必要な要件は、単純化すると「一方から契約の申込みがあったこと」と「他方がそれを承諾したこと」です。

そして、どのような内容の申込みがあればよいかは、契約の類型ごとに法律(民法)で定められています。
例えば、売買契約であれば、契約の要素は「ある金額のお金と引き換えに、ある物の所有権を渡す」という点と定められていますので、この要素を満たすような申込みが必要です。

リンゴを100円で買う契約も、ある会社を100億円で買収する契約も、基本は同じです。

この「申込み」と「承諾」があったこと、つまり「契約の合意があった」ことが、契約の成立要件です。
こうして契約が成立すると、契約に基づく法律的な効力が発生します。

(ただし、一部の特別な契約では、「合意があったこと」に加えて「契約書を作ること」が必要とされています。この場合は、契約書を作成しないと法的効力が発生しません)

契約書の法的な意味

そうすると、通常の契約では、契約書が作成されなくとも契約が成立し、法的効力が発生することになります。

「口約束でも契約は成立する」という話を聞いたこともあるかと思います。
これはそのとおりで、ほとんどの場合は契約書が無くても契約は有効に成立するのです。

つまり、ほとんどの場合、契約書には特に法的な意味はないのです。

では、何のために契約書が作成されるのでしょうか。

契約書の必要性

それは、証拠としての必要があるからです。

契約書は、双方がある契約の内容について合意した最良の証拠として扱われています。
その合意の内容が複雑であれば、それを書面に落とし込んでおいた方が、後で相互に(あるいは裁判官のような第三者が見ても)確認しやすいという点でも、契約書を作る必要があるといえるでしょう。

そして、このような証拠としての意味は、裁判の場面に限ったことではありません。
税務調査の場面においても、問題となっている金銭の流れを説明できるようにするため、契約書の提出を要求されます。
企業の内部ルールで契約書を必要としている場合は、このような税務上の要請や、会計上の要請であることが多いかと思います。

なお、契約の法的効力の話ではありませんが、一定の業務では、その業務を規制する法律(「●●業法」と名前がついており、「業法」と呼ばれます)によって契約書の作成が義務付けられている場合もあります。
例えば、宅建業法では、媒介契約を締結する際には、宅建業者には契約書を作成することが義務付けられてます(契約書が無かったとしても媒介契約の法的効力自体には関係ありませんが、行政上の制裁を受けることがあり得ます)。

契約書を作らなかった場合でも大丈夫?

このように、契約書は、基本的には証拠としての意味しか持たないので、契約書を作らなかったとしてもほかの証拠で契約の成立(合意があったこと)を立証できるのであれば、問題はありません

インターネット上での取引(ECサイトを使った取引)では、双方が契約の合意をした証拠がログとして残されているので問題ありませんし、たとえメールやFAXでのやり取りしかなかったとしても、十分な証拠となります(裁判においても、メールのやり取りだけを証拠として契約の成立を立証できることは十分あります)。

電話だけの取引では立証が難しいですが、例えば、ある業界で「電話注文によって商品を店まで届けるが、店主はその日中に商品を確認し、万一間違ったものが届いた場合にはその日中に送り主に連絡する」という慣習があると認められ、当事者が今までその慣習に従っていたような場合であれば(飲食店にありがちですね)、「商品が届いたが店主が速やかに異議を述べなかった」というケースではその仕入れの契約(売買契約)の成立が認められることもあります。

まとめ

このように、契約書が作られるのは、主に証拠のためといえます。

他方、一つ一つの契約にその都度契約書を作るのにはコストがかかります。

そこで、契約書を作るかどうかの線引きは、「あとでその契約の内容を争われるリスク」および「万一無効とされた際の金銭的ダメージ」と、「取引ごとに契約書を作成する手間」を比較して決められているといえそうです。

また、あくまでも契約書には証拠としての価値しかありませんので、必ずしも契約書が無ければ契約が無効だということもありませんし、契約書が無かったとしても契約の成立を立証できないということもありません。

ただ、契約書を作らない場合には、「仮に相手が、あとで契約が成立していないと言ってきた場合には、どのように契約を立証できるだろうか」ということを念頭に置いてみると良いと思います。