不動産取引

事故物件のその後 ~不動産の心理的瑕疵(事件・事故・自殺など)について

投稿日:2017年11月7日


ある建物や土地において自殺や殺人事件などがあった場合、その物件は「事故物件」と呼ばれることがあります。

物件に関してこうした事件などがあったという事実は、心理的瑕疵(かし)の一種とされており、今後その物件を売却・賃貸する際には、買主・借主に対して内容を告知しなければなりません。

では、具体的にどのような場合に告知義務が発生するのでしょうか。
その告知をおこたった場合に、売主・貸主あるいは仲介業者はどのような責任を追及されるのでしょうか。

実はこれらの点については明確な基準がないのです。
そのため、売主・貸主や仲介業者としては、過去の裁判例をもとに安全な運用基準を設定しておく必要があります。

以下、事件・事故・自殺などを理由とする心理的瑕疵について概説します。

心理的瑕疵とは

そもそも瑕疵(かし)とは、売買や賃貸の目的となる物が、通常有する性質を欠いている状態をいいます。
要するに欠陥のことです。

建物であれば「実は柱が腐ってた」「配水管が水漏れを起こしていた」など物理的な瑕疵が代表的です。
そのほか、土地の場合では「実は、建築基準法上は建物を建てられない土地だった」という法律的な瑕疵もあります。

では心理的な瑕疵とはどういうものでしょうか。
心理的とはいっても、単に「住み心地が悪い」「何か気分が悪い」というのではダメです。

後述のとおり、目的物に瑕疵があった場合は、契約を解除したり損害賠償を請求したりできることがありますので、物件に「瑕疵がある」と判断されるためのハードルは低くありません(これは物理的瑕疵や法律的瑕疵でも同様ですが)。

心理的瑕疵の基準については、50年以上の間に多くの裁判例の蓄積があります。
ざっくりまとめると「普通の人が居住・利用したくないと思うような事情があるか否か」で判定されます。

裁判に出てくる例では、過去の事件・事故・自殺のほか、すぐ近くに火葬場がある、隣の部屋が暴力団事務所である、その物件が過去に性風俗店として使用されていた、などさまざまなものがあります。
とはいえ、これらの事情があったら心理的瑕疵がある、と直ちに判断されるわけではありません。

心理的瑕疵が認められるケース

では過去に事件・事故・自殺があった物件について、具体的にどういう場合に心理的瑕疵が認められるのでしょうか。

裁判例では、主に下記の事情を総合的にみて「普通の人が居住・利用したくないと思うような事情かどうか」を判断しています。

① 利用目的(居住用か事業用か)
② 事件などの重大性・残虐性
③ 事件などが起きてからの経過年数
④ 近隣住民の流動性(田舎か都心か)

ほかにも事案によって、一人で住むのか家族で住むのか、事件などのあった建物が既に存在しないのかどうか、などの事情も考慮されます。

これらの事情は相関的で、例えば重大・残虐な殺人事件で広く報道されたようなケースであれば瑕疵は長期間残りますが、事件性のない自殺で特にニュースにならなかったケースであれば、瑕疵は短期間でなくなります。
(なお、原則として病死などの自然死の場合は瑕疵にあたりません。)

上記の要素の中で特に気になるのは期間の点かと思いますが、実は裁判例の傾向もあいまいでケースバイケースとしかいえないのが現状なのです。

売買の事例で居住目的(住宅の売買や、住宅を建てる目的での土地の売買)であると、9年近く前の事件であっても瑕疵が認められています。
また、特殊な例ですが、凄惨な殺人事件があり、かつ農村地帯のような人の入れ替わりがほとんどないような土地では、約50年前の事件について瑕疵が認められた例もあります。
このような傾向から、売買の場合は、過去に事件などがあった場合には原則として告知するという運用が必要です。

これに対し賃貸では、自殺の場合は2年から3年で告知義務が消滅するとされている事例が多く、また告知すべき対象も原則として次の賃借人までとされている事例が多いです。
とはいえこれらの裁判例もあくまで事例に応じた判断です。

繁華街の単身者用マンションのような、入れ替わりが激しく近所の付き合いも希薄な場合に限っては上記の傾向を参考にできますが、そうではないケースでは微妙な判断が必要になりますので、昔の事件でも告知しておくのが無難です。
安易に「2年経ったからOK」「一人を間にはさめばOK」と考えるのは危険です。

特に今話題となっている座間市の事件のように、残虐性も高く全国的に話題となった事件の場合には、かなりの長期間告知義務が残るでしょう。
これはアパートを取り壊したり建て替えたりしても変わりません

告知をおこたった場合の責任

物件に上記の心理的瑕疵がある場合は、売主・貸主は相手方に対し信義則上その事実を告知する義務があります(告知義務)。
そのため中古物件の売買契約の際には、一般的には告知書(付帯設備及び物件状況確認書)を相手方に交付していますね。

また仲介業者としては、宅建業法第35条に定める重要説明義務のほか、裁判例においてその他取引上重要と考えられる事項については一定の調査義務告知義務が課されています。

これらの義務に違反した場合は、以下の責任を負います。

売主または貸主の責任

物件に心理的瑕疵があるにもかかわらず、物件の売主・貸主がその事実を告知しなかった場合、売主・貸主は、

①瑕疵担保責任または債務不履行責任の追及により契約を解除される
②瑕疵担保責任、債務不履行責任または不法行為責任の追及により損害賠償請求を受ける

という責任を負います。

①の解除についてはさらに「契約の目的を達成できないとき」という条件が必要になるため若干ハードルが上がります。
とはいえ、住宅の売買の場合で、過去にその住宅で殺人事件が起きていたような場合であればまず解除は認められるでしょう。

実務上多いのが、②の損害賠償請求です。
実は損害賠償請求の法的構成もそれなりに複雑なのですが(ここでは割愛します)、結果的には心理的瑕疵の場合にも損害賠償請求が認められています。

売買の場合、心理的瑕疵の程度に応じて売買代金の1%~25%程度の額が損害賠償額とされることが多いです。

賃貸の場合、解除はともかく損害賠償まで認められる例は少ないように思います。
賃貸の場合は期間も短いことが多いし、解除してしまえば借主の目的は達成できることが多い(損害賠償をもらってまでそこに住み続けたいと思う人が少ない)からでしょう。

仲介業者の責任

心理的瑕疵が告知されなかった場合、取引を媒介した仲介業者に対しても損害賠償請求がなされることがあります。

仲介業者である宅建業者は、宅建業法により、一定の重要事項について取引の相手方に説明する義務を負っています(宅建業法第35条・第35条の2)が、ここに規定される事項には心理的瑕疵の有無は含まれていません。
もっとも、心理的瑕疵があることを知りながら故意に相手方に伝えなかった場合は、第47条1号違反として行政上の制裁及び刑罰を科される場合があります。

民事上も、心理的瑕疵と認められる範囲の事項については仲介業者にも告知義務があると解されており、告知義務違反があった場合は仲介業者も損害賠償責任を負います

さらに、仲介業者には信義則上調査義務も課されています。
過去に事件があったことが合理的に疑われる場合には、可能な限りその内容を調査して相手方に告知する義務があります。
単に「聞いていなかった」では済まされません

ただし、当事者本人でない以上調査には限界があります(個人情報保護などの点から、情報収集には限界があります)ので、調査義務はそこまで厳しくはありません。
一般的には売主に告知書を出してもらえば十分です。
もっとも、当事者や近隣住民から過去の事件があったことやその噂を聞いた場合には、可能な範囲で調査を行う必要があります。

注意点

心理的瑕疵について責任を負う場合には、上記のように、一般的な瑕疵担保責任の場合(物理的瑕疵・法律的瑕疵の場合)とは法的構成が異なることがあります。
そのため、一般的な瑕疵担保責任の場合よりも長期間責任を負う可能性があります

また、特に売買の場合には金額が大きくなることもあります。

ただし、調査・告知を十分に行えば防げる問題ですので、自己判断で安易に隠ぺいしないことが重要です。


-不動産取引

Copyright© 関口法律事務所 , 2018 All Rights Reserved.