建設工事中の事故で、周囲に被害が発生。賠償責任は誰が負うの? 引渡し後だったら?
建設工事において、工事中の事故によって第三者に損害が生じてしまった場合には、その損害賠償責任は誰が負うのでしょうか。
法律上は、工事業者が責任を負うことになっているのですが、実は、例外的に発注者(施主)が損害賠償責任を負うこともあるのです。
(※なお、後述のとおり引渡し後の事故であれば、全面的に所有者である発注者の責任になります。)
今回は、このような建設工事中の事故について、法律上の原則・例外について説明します。
原則は工事業者の責任
建物などの建築中あるいは解体中に、建物などが倒壊し、隣家や通行人に被害を及ぼしてしまうという事故が後を絶えません。
アメリカでも最近、フロリダ州のマイアミで建設中の歩道橋が崩落して通行人・車を巻き込み、4人が亡くなるという痛ましい事故があったと報道されています。
米マイアミ:歩道橋崩落、4人死亡 9人が搬送 車下敷き - 毎日新聞(2018年3月16日)
このような場合、通常は工事業者が損害賠償責任を負うことになります。
工事中に建物などの構造物が倒壊・崩落などするということは、設計・施工のどこかに過失があることがほとんどですので、民法第709条により、不法行為として損害賠償責任が発生するのです。
(もちろん、過失がない場合、つまり全く予想もできず防ぎようがなかった事故については、責任を負うことはありません。)
民法第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
なお、ひとくちに「工事業者」といいましたが、事故の原因によって設計・施工・監理のいずれか(または複数)の業者が責任を負うことになります。
これに対し、発注者は原則として損害賠償責任を負いません(民法第716条本文)。
民法第716条(注文者の責任)
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。
ちなみに雇用契約の場合には、従業員の作業中に事故が発生した場合には、従業員を指揮・監督する雇い主(会社)も損害賠償責任を負います。
これに対し請負契約では、業者は発注者の指揮・監督までは受けることなく、独自の裁量で工事を完成させるのが原則ですから、工事に問題があって事故が起きても発注者には責任が損害賠償責任が発生しないのです。
発注者が損害賠償責任を負うことも
ただし、例外的に発注者が損害賠償責任を負う場合があります。
上記のとおり第716条のただし書きでは「注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない」と定めています。
つまり、当該建設工事に対する注文または指示に当たって発注者に過失があり、それにより損害が生じてしまった場合には、発注者が損害賠償責任を負うということになります。
例えば、 発注者があえて危険な工事方法を指示したり、あるいは、このまま工事を進めれば事故が起きると予想されるような事実を認識していながら、あえてそれを施工業者に伝えずに工事を続行させたりした場合などです。
もっとも、発注者に過失があったかどうかの認定は、発注者の属性によって変わります。
発注者が素人の場合→過失が認定されにくい
もちろん、通常は、発注者は素人・工事業者はプロということが多いですから、素人が無茶な注文をすれば業者はそれを止めるでしょう。
いくら顧客とはいえ、さすがに命にかかわる無茶には従えませんし。
また、仮に発注者の注文・指示に問題があったとしても、発注者が素人であれば、その注文・指示内容が危険であることが分からないことも多いと思います。
そのため、たとえ注文・指示に問題があったとしても、多くの場合発注者には過失がないと判断されるでしょう。
発注者がプロの場合→過失が認定されやすい
これに対し、発注者もプロの場合には、過失の認定も厳しくなり損害賠償責任が認められやすくなります。
典型的には、工事の元請業者が下請業者に委託したケースです。この場合は両方とも専門業者ですから、注文・指示に危険性があることは発注者でも予測できるはずです。
このほか、道路などの公共工事のケースが裁判例によく現れます。
発注者は市町村ですが、実際に担当するのは建設部や都市整備部など土木の専門家がいる部署ですので、発注者もプロであるといってもよいでしょう。
最近、訴訟となったケースが、最新号の日経コンストラクションでも紹介されていました。
裁判で賠償命じられた発注者、施工者に“肩代わり”要求 | 日経 xTECH(クロステック)(2018年4月4日)
この事例は、津市が発注した道路整備工事において掘削作業を行っている途中、付近の擁壁が崩落して施工業者の従業員(※)が巻き込まれ、従業員が後遺障害を負ったというものです。
市の監督員が、このまま掘削を進めれば擁壁が崩落する危険性があることを認識していたにもかかわらず、崩落を回避するための具体的な安全対策を指示したり、安全が確保されるまで工事の一時中止を指示したりしなかった点で、市の過失が認められています。
※もちろん、労災事故ですので施工業者も損害賠償(補償)責任を負いますが、市との関係では従業員は第三者になりますので、市は当該従業員に対して不法行為責任(ここでは国家賠償責任)を負うことになります。
完成・引渡し後の責任は誰が負うのか
以上は、工事中に発生した事故に関する損害賠償責任についてです。
では、工事が完成して発注者に引き渡した後に事故(工事の不備が原因である事故)が起きた場合は、誰が責任を負うのでしょうか。
既に以下の記事で説明しておりますが、
建築基準法・消防法違反の建物の所有者の責任 高額の損害賠償責任や刑事責任を負うこともあります
この場合は民法第717条(土地工作物責任)により建物・工作物の所有者が責任を負います。
もちろん、最終的には問題のある工事を行った工事業者が負担をすべき問題ですから、あとで所有者は工事業者に対して損害賠償請求をすることができます。
しかし、被害者(第三者)との関係では、まずは所有者が責任を負わなければならないのです。そして、この場合、所有者は過失がなくても責任を免れることができません。