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弁護士が考えるフリーランスの契約交渉 ~テクニックよりもまず最低限の知識を身につけましょう。

投稿日:2018年3月28日


フリーランスという働き方が増えつつありますが、その一方、クライアント企業の要求に頭を悩ませている方も多くいます。

フリーランス(個人事業主)は労働者ではなく事業者ですので、労働契約法や労働基準法の適用はありません。
労働者との雇用契約の内容は法律で厳しく規制されていますが、フリーランスとの契約内容についてはこのような厳しい規制がないのです。
そのため、自分の身は自分で守らなければなりません

しかしながら、個人とクライアント企業とでは交渉力に大きな差があることから、フリーランスが不利な契約を強いられることが少なくないようです。

フリーランスは副業・兼業の人を含めると約1100万人にのぼるとされる。柔軟に働く考え方の広がりを受け、さらに増えていくことが見込まれるが、中には契約書面が交付されなかったり、報酬なしで追加作業を振られたりする例も多い。

技術者やクリエーターなどのほか、芸能人、スポーツ選手といったフリーランスが企業と結ぶ契約では、交渉力や情報量の格差などからフリーランス側が不利になる関係になりがちといわれる。しっかりとした契約書を交わそうにも、個人では限界がある。

フリーランス処遇改善 優越的地位の乱用に独禁法違反 公取委報告書 企業は業務内容明示など必要 :日本経済新聞(2018年3月19日)

もちろん、フリーランスとの取引の場合にも、事業者間の取引関係について定めた独占禁止法(独禁法)や下請法の適用があります。
そこで、これらの法令を所管する公正取引委員会が、フリーランスの保護に動き出してはいます。

もっとも、独禁法や下請法は、労働関係の法律ほどの保護を与えるものではなく、あくまで「やり過ぎ」を防止するものです。
基本的には、契約の条件などは自分で交渉しなければなりません。

そこで今回は、フリーランスが交渉力を身につける前提として、交渉において最低限知っておくべき事項について説明します。

交渉力の前提となるもの

そもそも不利な契約を強いられてしまう根本の原因は、フリーランスの交渉力不足にあります。
そこで、有利な交渉を行うためには交渉力を身につけなければなりません。

ここでの「交渉力」は、ビジネス上の立場・力関係のほか、交渉に必要な知識や交渉経験からなっています。

もっとも、このうち「ビジネス上の立場・力関係」については、その分野での実績や希少性などによって決まるものですので、すぐにどうこうできるわけではありません。
(これが一番重要なのではありますが。)

また、交渉経験については、実際に事例の積み重ねで身につけるしかありません。
どのような話の運び方をするか、また、譲歩できるライン、譲歩させることができるラインの見極めについてはどうしても経験しないと身につかないものですので、やはりすぐにどうにかなるものではありません。

これらに対し、交渉に必要な知識については、すぐに身につけることができます。
いくつかのポイントを押さえておくことで、思いのほか不利な契約となることは避けられるでしょう。

また、いろいろな交渉テクニックはありますが、交渉に必要な知識はその前提となるものです。
「そもそも交渉で何を決めるのか」などの前提知識がなければ、そのようなテクニックは意味を持ちません。

そこで、まずは交渉にあたり最低限知っておくべき事項について紹介します。

 

まずは、契約で定めるべき事項を知る

まずは、自分が締結する業務委託契約(請負契約)において、一般的にどのような条件が定められるのかを知ることが必要です。
これを知らなければ、事前に何を交渉すればよいのか分からないからです。

フリーランスとクライアント企業との契約は、多くの場合業務委託契約(民法上は請負契約)ですので、これを前提に説明します。

通常、契約で定められる必要があるのは以下の点です。

  1. 委託業務の内容
  2. 代金・経費
  3. 契約の期間・更新・終了
  4. 場所や時間の拘束
  5. 禁止事項・制約事項
  6. 違約金・損害賠償
  7. 発注方法
  8. その他

各項目の詳細については後述します。

 

契約内容を事前に考える

次に、上記の各条件について、自分がどのような内容を希望するのかを事前に考えておく必要があります。

契約内容について自分の中である程度イメージしておかなければ、そもそも話合いの中で自分の希望を伝えることができません。
交渉のテーブルに乗らなかった事項はスルーされ、契約書に何も記載がなかったため後々自分に不利になることもあり得ます。
そのため、事前に契約内容について自分で考えておくことが必要なのです。

また、特に協議をしないまま話を進め、クライアント企業側による契約書の文案が出来上がってしまった場合、後からそれを変えるのは一般に難しくなります。

クライアント企業において、何らかの決裁を経ていったん文案を作ってしまうと、あとからそれを変更するのが、企業内部では(手間などの点で)難しくなることがあります。
そのため、文案が出来上がった後の条件交渉が難しくなってしまうのです。

そのため、必ず事前に考えたうえで協議することが必要です。

もっとも、業界やクライアント企業内での相場が分からないため具体的な条件がイメージができない、ということもあるでしょう。
その場合、具体的な条件を提示できないとしても、話合いの場ではその条件の点を必ず話題に出し、協議するようにしてください。

 

契約条項の詳細について

では、話合いではどのような点に注意すべきでしょうか。
前述したそれぞれの条項の意味や、注意すべき点は以下のとおりです。

なお、これらの詳細を最初の契約書で定める場合もありますが、継続的な契約の場合には、最初の契約書(「基本契約書」と呼ばれることがあります)では大枠を決めておいて、各依頼ごとの詳細な内容は個別契約などでその都度決定することが多いです(後記6を参照)。

1.委託業務の内容

どんな業務を委託するのかを決める条項で、契約において中核的な事項です。

ここがあいまいだと、「依頼された業務を完了したのに代金を支払ってもらえない」というトラブルにつながります。

そのため、受託者であるフリーランスから見て、何をやればよいのかが明確に分かる(やるべきこと・やらなくてもよいことが明確に区別できる)ような記載内容にしなければなりません。
事前に話合いではこの点を十分に意識しておく必要があります。

また、業務の遂行・完成の基準検収手続についても確認しておく必要があります。
内容が単純で分かりやすい業務であれば問題ありませんが、この点をはっきり定めておかないと「何をもって委託業務を遂行した(=報酬が発生した)といえるか」についてもめることがあります。

この点は、代金の不払いや、無償での追加作業の要求といったトラブルにつながりますので、注意してください。

2.代金・経費

1と併せ、この点も契約の中核をなしています。

契約においては、代金額または代金の計算方法を明確に定める必要があります。
また、支払時期もしっかり確認しておきましょう。

とはいっても、さすがにこの点があいまいな契約書はめったにないとは思います。

ただし、経費の負担についてはあいまいなことがありますので注意が必要です。
記載がなければフリーランスの負担にされてしまいますので、予想される経費についてはあらかじめ伝えて十分に協議しましょう。

3.契約期間・更新・終了

単発の制作依頼などではなく、継続的な作業を委託される場合では、契約期間が定められます。

契約期間を定める場合には、通常は契約の更新・終了(終了のタイミングや、中途解約など)についても定められます。
もっとも、この点はあまり問題になることはないでしょう。

4.場所や時間の拘束

クライアント企業から、作業場所・時間の指定や、社内会議への出席を要求されることがあります。

拘束が厳しいのも考えものですが、契約書に全く記載がないのも不安です。
クライアント企業の過去の事例について聞いてみるなどして、しっかり事前に話し合っておきましょう。

なお、あまりガチガチに拘束をすると偽装請負(※)と認定されることがあり、クライアント企業やフリーランスの元請企業が処罰される可能性があります。

※実態は雇用状態だが、労働関係法令の規制を免れるために「請負契約」を偽装する行為。労基法、派遣法、職安法などの規定により刑事罰を受けることがあります。

5.禁止事項・制約事項

契約期間中に、クライアント企業の競合他社から同様の依頼を受けることが禁止される、または事前承認が必要となることがあります。

通常はあまり問題になることはありませんが、「契約終了後○年間」のように長期間にわたる制約を要求されることもありますので、事前によく話し合っておきましょう。

6.違約金・損害賠償

違約金や損害賠償について定められることがあります。

この場合、違約金や損害賠償が発生する条件や、その金額または算定方法を定めることになりますので、内容については事前によく話し合っておきましょう。

7.発注方法

継続的な契約の場合には、業務の発注方法についても定めておく必要があります。

単発の契約では以上の内容が1通の契約書に記載されることになりますが、継続的な契約の場合には、最初の契約書では大枠だけを決めておき、詳細な条件を記載した契約書は個別の依頼(発注)ごとに作成する、という方法がとられることが多くあります。
この最初の契約書を「基本契約書」、個別の依頼ごとの契約書を「個別契約書」とそれぞれ呼ぶことがあります。

この場合、各契約条件はどちらかの契約書に入っていれば問題ありません。

また、個別契約書の代わりに発注書が使われることがあります。
ただ、発注書形式の場合には記載される内容が薄くなりがちですので注意が必要です。
「これが契約書の代わりになるんだ」という認識をもって、発注のつどなるべく詳細に記載させるようにお願いしましょう。

個別契約書方式・発注書方式のいずれの場合にも、契約条件は文書に残すということを徹底するよう心がけてください。

8.その他

その他、フリーランスが行う契約では問題にならないことが多いですが、成果物の権利の帰属や、契約上の地位の譲渡の禁止、訴訟の場合の合意管轄などが定められます。

特別の事情がない限り、これらの点については交渉の余地がないのが通常です。

 

「条項を変えられない」と言われた場合

長々と説明しましたが、そうはいっても実際にはクライアント企業から「この契約書はうちのひな型なので、内容は変えられない」と言われてしまうことが多くあります。
大きな企業では特にその傾向がありますね。

ただ、この場合でも契約書の「特約」部分はいじれる可能性があります。
担当者がこちらの提示した条件に同意しているのであれば、特約の部分に記載してもらうよう提案してみるのも手です。

 

まとめ

以上のとおり、契約締結の交渉に際しては、そもそもどのような事項を定めるのかを知り、それぞれの事項について自分なりの要望を事前に整理しておくことが必要です。

そのうえで、自分の身を守るためにも堂々と交渉しましょう。
フリーランスも立派な事業者なのですから。


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