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地面師案件に関与した司法書士・弁護士の責任は? 最近の裁判例より③

投稿日:2019年5月6日


前々回前回に引き続き紹介するのは東京高裁2018年(平成30年)9月19日判決(判時2393・2394号36頁)。

前回の判決と同一の詐欺事件ですが、そちらでは買主が弁護士を訴えていたのに対し、こちらの訴訟では、被害者(真の所有者)が弁護士を訴えています。

前回の判決では、結論として弁護士の過失(注意義務違反)が認められず、損害賠償責任はないと判断されたのに対し、今回の訴訟では新たな事実関係が明らかになったことなどから、弁護士の過失が認められ、損害賠償責任があると判断されました。

事案の概要

元となった事件の概要は、前回と同じです。

地面師が、ある土地建物の真の所有者に成りすまし、ブローカーを介してこの土地建物を買主に売却することとしました。

その際、真の所有者をかたった地面師が、識別情報を紛失した(ということにしていた)ため、本人確認情報提供制度により所有権移転登記を行うこととしました。
この本人確認情報の提供を行ったのが、今回も被告となっている弁護士です。

それぞれの訴訟の関係

この取引の後、自分の土地建物が勝手に売却されたことになっていることを知った真の所有者(X)は、まず、登記を元に戻すよう買主を訴えました(訴訟①)。

この取引は、Xの関知しないところで、Xの偽物である地面師Aが偽装書類を用いて行ったものですので、売買契約としては無効です。
当然、訴訟①ではXが勝訴します。

そうすると、買主としては地面師Aに支払った代金を返してもらう必要がありますが、当然ながら地面師を訴えても仕方がないため、Aの本人確認を行った弁護士を訴えました(前回紹介した訴訟。上図の訴訟②です)。
なお、最初に述べたように、訴訟②では弁護士の過失は認められませんでした。

そして、これらとは別に、XがY弁護士(※)に対して損害賠償を求めて訴えたのが本件(訴訟③)です。
Xは、地面師と買主との間で行われた所有権移転登記の抹消を求める訴訟(訴訟①)のために支出した、弁護士費用など合計約1400万円を請求しました。

※Y弁護士は訴訟中に亡くなったため、途中からY弁護士の遺族が訴訟を引き継ぐことになりました。

新たに追加された事情

事実関係は前回紹介したとおりですが、今回の訴訟では新たな事実関係が判明しました。

今回問題となった取引に先立ち、Y弁護士は、地面師と別の買主候補者との面談にも立ち会っていましたが、その際に、以下の出来事があったようです。

買主候補者が詐称人(※地面師)に対して子供のことを質問した際に、詐称人は、亡A(※真の所有者X)の子供についての情報を与えられていなかったことから、答えられずに黙ってしまった。買主候補者は、詐称人が売主本人(亡A)であるとは信用できないと考えて、席を立って帰っていった。亡B(※Y弁護士)は、同じ席にいて、この一連の経過に全部立ち会っていたが、その後、住基カードの提供を受ける方法以外の方法による詐称人の本人確認を実施したことはなかった。

この買主候補者は、地面師がXの成りすましであることに感づいて取引をやめたようですね。

前回の訴訟と異なり、本件ではこのような事実が明らかになったのが決定的でした。

 

裁判所の判断

判断の枠組みは、他の判決と同様です。

すなわち、本人確認に際しては、原則として法令(不動産登記規則)で定められた方法どおり行えば十分であるが、例外的に、成りすましを疑うべき事情がある場合には、追加でその他の方法により本人確認を行う義務がある、という枠組みです。

まず、成りすましを疑うべき事情があったかどうかについて。

 亡B(※Y弁護士)は、平成二六年二月一八日に、住基カードの提示を求める方法による詐称人(※地面師)の本人確認をした後、亡Bの事務所において、亡A(※真の所有者X)の子供についての質問に詐称人が答えられずに沈黙してしまい買主候補者が詐称人が亡Aであるとは信用できないと判断したため本件不動産の売買が流れたという出来事に立ち会うという経験をした。詐称人が子供についての質問に答えられずに沈黙するということは、住基力ードの提示を求める方法による本人確認をしたとしても、なお詐称人が亡A本人ではないこと(なりすましであること)を疑うに足りる事情であるというべきである。

そのうえで、以下のとおり過失(注意義務違反)を認めました。

そうすると、亡Bは、不実登記の出現を防ぐべき職務上の義務を負う資格者代理人(弁護士)として、詐称人が亡A本人であることを確認するために、住基力ードの提示を求める方法以外の方法(住所地訪問、架電、転送不要郵便物の送付など)による本人確認を実施すべきであったというべきである。しかしながら亡Bが住基カードの提示を求める方法以外の方法による本人確認を実施しなかったから、亡Bは本人確認をする上での注意義務を怠ったものというべきである。

結論としてはこれで終わりなのですが、追加して以下のように述べています。少し長いですがそのまま引用します。
Y弁護士(「亡B」)の行動について、手厳しく批判しています。

 亡Bが住所地訪問等を実行すれば詐称人がなりすましであることが判明して亡Aの被害発生が防止できたし、詐称人が更なる調査を拒否した場合には亡Bが本人確認情報の提供を拒否すれば同様に亡Aの被害発生が防止できたと考えられる。なお、亡Aは難読姓の持ち主であったから、氏名をカタカナやひらがなで表記する郵便物その他の書類を複数持参させるという確認方法も、併用することが望ましかったといえよう。
 P3(※ブローカー)及び詐称人が追加して持参した本件遺産分割協議書は、複数の明白な誤記があって登記実行済みの遺産分割協議書としては不自然であったことは、前記認定のとおりである。亡Bは、誤記には気づいたが、問い合わせた法務局から窓口補正により登記ができると回答を得て不自然とは思わなかったと供述するが、当該供述は採用できない。子供についての買主候補者からの質問に詐称人が答えられなくても追加調査をしないのに、本件遺産分割協議書の誤記については法務局に問い合わせたというのはバランスを欠くこと、亡Bの本人確認情報提供制度に関するずさんな勉強ぶり(その際には法務局や司法書士に必要書類等の点の問い合わせをしていない。)からすると、本件遺産分割協議書についても法務局への問い合わせはしていないとみるのが自然であること、登記申請に提出した原因証書に窓口補正がされたのに、相続人らが保有する遺産分割協議書は訂正しないままというのも不自然であること、本件遺産分割協議書には作成通数の記載がなく捨印も押捺されておらずこれを添付資料として登記申請されたかどうかも判然としないことなどが、その理由である。なお、亡Bの前記認定に係る懲戒処分歴(業務停止三月。懲戒事田の内容は、法律が立法目的実現のために弁護士に委ねた業務の懈怠である。)を考慮すると、弁護士業務を的確に遂行し、弁護士業務に関する事項について誠実に証言しているはずであるという職業上の信頼を置くこともできない。

さらに、一般論として、弁護士が本人確認情報の提供業務を行うことについて警鐘を鳴らしています。

 二〇一〇年代に入って、都市部で、地面師グループによる詐欺被害が再び増えてきた。地面師グループは、詐欺を成功させるために、司法書士をグループメンバーに取り込んで共犯としたり、売主側に弁護士を関与させて買主側を信用させたりするようになっている。弁護士は、登記申請や本人確認情報の提供に熟達していないのが普通である上、弁護士登録人数の増加に伴う平均収入の減少に直面しているが、依然として弁護士の社会的信用は高いため(弁護士の関与により取引の信頼性を高く評価した本件におけるP7の言動参照)、本件における亡Bのように地面師グループに利用されやすくなっている。登記識別情報を失ったと自称する者からの売買契約への立会いや本人確認情報の提供の依頼が、司法書士ではなく弁護士に対してあった場合には、弁護士の社会的信用の悪用を意図した詐欺グループからの依頼である可能性がある。よほど注意をして業務遂行しないと、業務上のミスを原因として弁護士自身が懲戒処分を受けるおそれがあることに留意すべきである。面識のない人物であって登記識別情報を紛失したと自称する者を売主とする不動産売買取引への弁護士の立会依頼に対しては、特に慎重に対応すべきであろう。

地面師詐欺事件について東京高裁で立て続けに判決があったことから、何か言っておかなければ、と考えたのでしょうか。
ここまで述べる判決は珍しいため、少し長めに引用しました。

なお、約1400万円の請求に対し、損害賠償額として約440万円が認められました。


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