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地面師案件に関与した司法書士・弁護士の責任は? 最近の裁判例より①

投稿日:2019年2月17日


近年、地面師が絡む不動産詐欺事件が話題になることが再び増えています。

こうした不動産取引に関する詐欺事件では、犯人らが責任を負うのはもちろんですが、関与した司法書士や弁護士が損賠賠償責任を問われることもあります。

今回ご紹介するのは、地面師が絡む不動産取引に関与した司法書士に損害賠償責任が認められた裁判例です(東京高裁2017年(平成29年)12月13日判決。判時2387号13頁)。
売主に成りすました地面師を偽物と見抜けずに、司法書士が本人確認情報を提供したことで、決済が進められ買主が代金をだまし取られたという事案です。

ここ最近、東京高裁において、同じような事例で3件の興味深い判決が出ていますので、今回を含め3回に分けて紹介します。

なお、業界関係者は詳しいと思いますが、今回紹介する事件は少しレアというかアレな事情があり、あまり一般化はできない可能性がありますが、参考になる部分も多いので一つの事例判断として紹介します。

 

事案の概要

売主が識別情報を紛失していたため、司法書士が売主の本人確認を行ったうえで本人確認情報提供制度(※)により所有権移転登記を行ったが、後に、売主が偽物(地面師によるなりすまし)であったことが発覚した、という事例です。

※売主が識別情報を紛失している場合でも、司法書士等の資格者が売主の本人確認を行いその結果を法務局に提出することで、識別情報の提供に代えることができるという制度。詳しくはこちらの記事を参照(不動産取引を舞台にする「地面師」とは 詐欺の手口や背景、対策について

これを知った真の所有者は買主に対し訴訟(本件と別の訴訟)を起こした結果、この売買契約は無効であるとされ、所有権移転登記の抹消を認める判決がなされました。

したがって、買主は、代金を支払ったにもかかわらず所有権を得られなかったことになります。
そこで、買主が、売主役のなりすましを見抜けず本人確認を出した司法書士に対し、損害賠償(2億2500万円超)を求めたのが本件訴訟です。

概要はこのとおりですが、実際にはもう少し複雑で、間にもう一社入っていました。
そのため売買契約が2本あり、登記は三為契約(下図)による新中間省略の形式で行っています。

本件では、この登記申請を担当した司法書士が訴えられました。

なお、この記事では割愛しますが、この場合、買主(上図の買主2)としてはもちろん、取引の直接の相手方である買主1(Y1社)に対して損害賠償請求(※)することができますし、実際に一審では当然に責任が認められています(控訴審で和解。和解金は500万円)。

※上図の売買契約②は他人物売買なので、Y1は追奪担保責任を負う。

ただし、Y1の責任については特筆することはないので割愛し、以下、司法書士の責任の部分について紹介します。

 

判断の枠組み

この場合、司法書士が行った本人確認が不十分であれば、過失ありとして損害賠償責任を負うことになります。

では実際にどの程度本人確認を行えばよいのでしょうか。

本判決は、原則として法令で定める本人確認の方法を行えば足りるが、例外的に、なりすまし等が疑われるような事情がある場合にはそれだけでは足りず、さらに調査を行う義務がある、という旨を判示しました。

以下、判決文を詳しく紹介します。

法令で定められている本人確認の方法(原則)

資格者(司法書士等)が行う本人確認の方法は、法令(不動産登記法・不動産登記規則)により定められています。

資格者代理人(※ここでは司法書士のこと)が登記申請人である者と面識がない場合の本人確認の方法については、運転免許証、住民基本台帳カード、旅券等、在留カード、特別永住者証明書又は運転経歴証明書のうちいずれか一以上の提示を求める方法など、その方法が具体的に規定されている(不動産登記規則……七二条二項)。

(判決より。以下同じ。)

そして、資格者は、原則として法令の方式で本人確認を行えば十分であり、それ以上の注意義務を負わないとしました。

以上によれば、資格者代理人は、本人確認情報を作成し、それを登記官に提供して登記申請を行う場合であって、登記申請人である者と面識がないときには、原則として、不動産登記規則七二条二項に規定された方法による本人確認を行えば足りる。

例外的に、法令による方法だけでは不十分な場合

ただし、当事者が本当の名義人ではなく、偽物(なりすまし)であることが疑われるような事情がある場合には、上記の方法だけでは不十分であり、さらなる調査を尽くすべき注意義務があるとしました。

しかしながら、依頼の経緯や業務を遂行する過程で入手した情報、資格者代理人が有すべき専門的知見等に照らし、当該登記申請人が申請の権限を有する登記名義人であることを疑うに足りる事情(なりすまし等を疑うに足りる事情)がある場合には、本人確認のための更なる調査を行うべき注意義務を負う。

 

本件の判断

本判決が示した判断枠組みに従うと、争点は次の3点となります。

① 法令で定める本人確認の方法を行ったといえるか
② なりすまし等を疑うに足る事情があったといえるか
③ ②の場合、さらに必要な調査を行ったといえるか

本件では、各争点について以下のとおり判断され、最終的に司法書士の過失が認定され、損害賠償責任が認められました。

法令による確認は行われたか

本人確認の際に提示された身分証明書等は結果的に偽造のものでしたが、それらは精巧に偽造されたもので、登記官ですら気づかなかった程度であったことなどから、司法書士の確認に落ち度はなかったとされました。

「なりすまし等を疑うに足りる事情」はあったか

以下に詳述しますが、要約すると、次の理由により「なりすまし等を疑うに足りる事情」があったとされました。

・鹿児島の会社なのに東京都文京区に土地を持っていた
・一等地にまっさらな土地を持ち現に駐車場として営業しているのに「会社は休眠状態」と説明していた
・代金の振込先口座が会社名義の口座ではなく代表者個人名義のゆうちょ銀行とされた
・売主(役)は残金の振込みを確認しないまま登記の必要書類を買主に預けていた
・14時に都内で決済なのに、鹿児島市が発行した当日付の印鑑登録証明書を持っていた
・土地を買ってから5年4か月しか経っていない上に、2億円程度の価値があり現に駐車場として営業しているのに、識別情報を紛失したと説明していた

以下判決を引用します。
(判決では、なりすまされた真の所有者(有限会社)を「A」、その代表者を「B」、なりすました地面師を「自称B」、間の買主を「Y1」、司法書士を「Y2」とそれぞれ表記しています。)

ア 東京都文京区に所在する本件土地の所有者であるAは、本店所在地を九州の鹿児島市とする小規模な特例有限会社であり、代表者になりすました自称Bの住所も九州の鹿児島市とされていた。
 土地所有者が所在地の都道府県又は近県に住所を有していない小規模な企業や個人の場合には、それだけでなりすましが疑われるわけではないが、いろいろな情報を吟味するに当たって、通常よりも警戒のレベルを上げておくべきである。

イ 自称BのAは休眠状態であるという発言は、不審な情報である。九州の鹿児島市の小規模有限会社が、東京都文京区に抵当権等の負担のない時価一億円も二億円もする更地(駐車場)を保有していて、休眠状態であるということは、通常は考え難いことであるし、駐車場からの少なからぬ賃料収入があるということと休眠状態という説明も矛盾する。

ウ 自称Bが、売買代金の振込先として、法人であるA名義の口座ではなく、B個人名義のゆうちょ銀行普通預金口座を指定したことも、不審な情報である。代表取締役個人が会社財産を横領するなどして、Aの株主(オーナー)に損害を与える可能性も想定されるからである。また、振込先としては、鹿児島県内の地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合などが通常想定されるが、ゆうちょ銀行〇一八支店であったということも、不審を増幅させる情報である。

エ 自称Bが、みずほ銀行池袋西口支店に行って第一審相被告Y1による売買残代金五〇〇〇万円の送金(A側への着金)を確認しないまま、Y1事務所内で登記申請に必要な書類を第一審被告Y2に預けた点も不審である。残代金五〇〇〇万円が受領できないまま本件土地の所有権登記名義を失う可能性がある行為であり、本件土地の真実の所有者であれば、大きなリスクを伴うため避けるのが普通であるからである。

オ 第一審被告Y2は、平成二七年二月一六日の午後二時頃、東京都豊島区(中略)にあるY1事務所において、自称Bから発行日を同日とする偽造のBの印鑑登録証明書及び鹿児島市役所の窓口用封筒の提示を受けた。同日朝に鹿児島市役所で印鑑登録証明書の交付を受け、同日午後二時に東京都内(中略)に到着することは、不可能ではないが、時間的にかなりタイトであり、印鑑登録証明書が真正なものかどうかについて疑問を生じさせる事情である。

カ 自称Bによる本件土地の登記識別情報を提示できない理由の説明(書類をどこにしまったか分からなくなって、なくしてしまったため)も、不審である。本件土地の取得(平成二一年一〇月一五日)から未だ五年四か月程度しか経過しておらず、Aが法人であり、本件土地には二億円程度の価値があり、駐車場として営業中で転売も予想されるから、その登記識別情報は適切に保管されるのが通常であるからである。

キ 以上によれば、本件においては、第一番被告Y2において、自称Bのなりすましを疑うに足りる事情が認められる。

法令の定め以上の必要な調査を行ったか

よって、本件では売主の本人確認のために更なる調査を行う義務があったとされました。

そのうえで、簡単な追加調査を行っていればすぐに偽造だと分かったのに、そのような追加調査を一切行わなかったとして、司法書士の過失を認めました。

よって、第一審被告Y2は、不動産登記規則七二条二項に規定された方法にとどまらず、自称Bの本人確認のために更なる調査をすべき注意義務を負っていたものというべきである。そして、前記認定事実によれば、第一審被告Y2が、所轄の官公署に電話をし、自称Bが提示したB名義の健康保険証・運転免許証・印鑑登録証明書やAの印鑑証明書の発行の有無を確認すれば、当該証明書類が偽造であることが容易に判明したものと認められる。代金決済当日であっても、このような確認を怠ってはならないと解される。第一審被告Y2は、このような電話による簡便な調査を含め自称Bの本人確認のための更なる調査を一切しなかったものである。

以上によれば、第一審被告Y2には、自称Bに関する本人確認義務を怠った過失があり、第一審被告Y2が当該過失に基づき誤った内容の本人確認情報を作成したことによって、第一審原告に後記の損害を生じさせたのであるから、第一審原告に対する関係で不法行為が成立する。

 

評価

さて、後に述べるようにこの事例には少しアレな事情があるのですが、それはさておくとして、この事案で司法書士の不法行為による損害賠償責任を認定したという点はいかがでしょうか。

関与する司法書士に、かなり重い責任を負わせたものといえるでしょう。

確かに、一般的に専門家には、与えられた職責や権限に伴い、専門家でない者よりも高度の注意義務が課されていると考えられており、この点については異論はないでしょう。
もっとも、(地面師案件に限りませんが)最近の裁判例を見ていますと、司法書士が課される注意義務の程度はどんどん重くなっているという印象です。

本件判決では、一般論として、本人確認を行うに当たり、なりすましを疑うに足りる事情があった場合には、法令で定める方法だけでは足りずさらに調査を行う必要があると述べており、私もこの一般論自体には疑問はありません。
しかし、実際には、どこまでの疑わしい事情があれば追加の調査義務が生じるのか、また、追加調査はどの程度行う必要があるのかについては疑問が残ります。

例えば、「なりすまし等を疑うに足りる事情」の項で引用した各事情は、確かにこれが全部合わされば、間違いなく相当に怪しい感じがしますが、一つ一つ取ってみれば別にそこまで珍しい話でもないかと思います。

また、追加調査についても、判決では「所轄の官公署に電話をし、自称Bが提示したB名義の健康保険証・運転免許証・印鑑登録証明書やAの印鑑証明書の発行の有無を確認すれば、当該証明書類が偽造であることが容易に判明した」としたうえで「このような電話による簡便な調査を含め……更なる調査を一切しなかった」としています。

果たして、当事者に疑わしい点があったとして実際の取引の現場でこのような調査を行えるのか、正直微妙です。
「ちょっと怪しい点があるので、あなたの身分証明書が本物かどうか役所に確認させていただきます」などと言うのでしょうか。
仮にそう言って役所に確認するにしても、そもそも、司法書士が突然役所に電話をして役所が回答してくれるのか、という点は大いに疑問です。

いずれにせよ、裁判例で求められている司法書士の注意義務は相当に重いものだ、ということを念頭に置いたうえで、慎重に業務を行うか、慎重に依頼を選ぶ必要があるでしょう。

 

おまけ

この事件で被告となった司法書士は界隈では有名で、既に懲戒処分歴も複数あり、また、取引に関する書類を偽造し虚偽の登記申請を行ったこと(別件です)等を理由に、本件訴訟中に逮捕・勾留されています。

この判決は、もしかしたらそうした事情も関係しているのかもしれません。

いずれにせよ参考になる部分も多いかと思いますので、一つの事例としてご紹介した次第です。


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