携帯電話の「ながら運転」どこからアウト? 規制の内容について

今年(2019年)12月1日に改正道路交通法が施行され、運転中の携帯電話などの使用、いわゆる「ながら運転」の罰則が強化されました。

もともと「ながら運転」については1999年の改正で規制の対象になったのですが、当時、罰則の対象となるのは「交通の危険」を生じさせた場合のみでした。
その後、2004年の改正で罰則の範囲が拡大し、「交通の危険」を生じさせなくとも、運転中に、通話したり手に持って画面を注視したりするだけでも罰則の対象となりました。

さらに、今回の改正で、その罰則が引き上げられたのです。

このように、今回の改正ではあくまで罰則(刑罰・反則金・違反点数)が引き上げられただけで、対象となる行為自体は今までと変わりありません

そこで、この機会に、注意喚起の意味も込めて「ながら運転」に関する規制の内容を紹介します。

「ながら運転」に関する規制・改正点の概要

罰則の対象となる行為は、大きく次の2つに分かれます。

自動車(二輪車を含みます)・原付の運転中(停車中は除きます)に、

  1. 携帯電話などを通話のために使用し、または画像表示用装置(カーナビ、携帯電話など)に表示された画像をを注視したことにより、交通の危険を生じさせた場合
  2. 携帯電話などを通話のために使用し、または画像表示用装置を手に持ってこれに表示された画像を注視した場合

の2つの類型です。

今回の改正では、上記Aの類型では、刑事罰が1年以下の懲役または30万円以下の罰金まで、違反点数は6点(前歴なくとも一発免停)まで、それぞれ引き上げられました。また反則金制度の対象外となりました。

上記Bの類型では、刑事罰が6か月以下の懲役または10万円以下の罰金まで(新たに懲役刑の対象になりました)、反則金が車種により12,000円~25,000円まで、違反点数が3点まで、それぞれ引き上げられました。

もっとも、今回の改正ではあくまで罰則が引き上げられただけであり、罰則の対象となる行為の内容が変わったわけではありません

以下、従来からの規制の内容を含め、詳細に解説します。

 

禁止行為の内容

まずは、どのような行為が禁止されているのか。
非常に読みづらいですが、まずは道路交通法(以下「道交法」)の条文を見てみましょう。

道交法71条(運転者の遵守事項)では、

車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。

とされており、その5号の5では、以下のように定められています。

自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第百十八条第一項第三号の二において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。同号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第四十一条第十六号若しくは第十七号又は第四十四条第十一号に規定する装置であるものを除く。第百十八条第一項第三号の二において同じ。)に表示された画像を注視しないこと。

このままではよく分からないので、一部をグレーにしてみましょう。

自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第百十八条第一項第三号の二において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。同号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第四十一条第十六号若しくは第十七号又は第四十四条第十一号に規定する装置であるものを除く。第百十八条第一項第三号の二において同じ。)に表示された画像を注視しないこと。

これを要約すると次のとおりです。

  1. 自動車(二輪車を含みます)・原付を運転する場合においては、
  2. 当該自動車等が停止しているときを除き、
  3. 携帯電話などを通話のために使用してはならない(①)
  4. 画像表示用装置に表示された画像を注視してはならない(②)

もっとも、これに違反した場合すべてが罰則の対象となるわけではありません。

罰則の対象となるのは、運転中に、

  • ①または②の行為を行い、それにより「道路における交通の危険を生じさせた」場合(道交法117条の4第1号の2)
  • ①の行為をした場合、または②のうち画像表示用装置を手に持って注視した場合(道交法118条1項3号の2)

です(この点については後述の「罰則」の項で説明します)。

以下、上記1~4について少し詳しく見ていきましょう。

信号待ちで停車中の場合はセーフ?

前記2のとおり、自動車が「停止」している場合には、禁止の対象外です。

路肩に停めた場合はもちろん、赤信号で停まっている場合でも、車が全く動いていなければ「停止」にあたります。
エンジンを切っているかどうかは関係ありません。

ただし、どんなに遅くとも(渋滞の場合など)動いていたらアウトです。
また、当然ですが、車が完全に停まる前に携帯電話などを使い始めたらアウトですので、ご注意を。
(「赤信号で完全に停まっていたのに切符を切られた」というケースを聞きますが、実際には、停まる直前に携帯電話を使い始めていた(そこを警察官に現認された)例も多いのではないかと思います。)

①携帯電話などの通話使用

前記3のとおり、携帯電話などを通話のために使用してはならないとされています。

少し詳しく条文を見ると、

  • 「携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。(以下略))」を、
  • 「通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。(以下略))のために使用」してはならない

という内容ですね。

・ハンズフリー状態ならセーフ

携帯電話や自動車電話を含む「無線通話装置」のうち、使ってはいけないのは「その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないもの」に限られます。
要するに、手で持っていないと話すこと(送信)と聞くこと(受信)の両方ともできないような装置です。

普通の携帯電話は、手に持っていないとどちらもできませんから、当然これにあたります。

これに対し、例えば、タクシーやパトカーにあるような無線機では、話す際にはマイク部分を手に持たなければなりませんが、聞く際には手に持たなくてもスピーカーから聞こえますので、上記にあたりません。

もちろん、携帯電話であっても、イヤホンやbluetoothを介したスピーカーホンで通話できる状態でしたら、本体を持つ必要はないので上記にあたりません。

・やむを得ない緊急事態ならセーフ?

また、携帯電話での通話であっても「傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く」とありますので、緊急事態での通話ならセーフだということになります。

もっとも、これはかなり例外的で、ほかに手段がない場合に限られるでしょう。単に「子どもが少し熱を出したので病院に連れて行く」という程度では上記にあたらないと考えられます。

②カーナビ、携帯電話などの注視

前記4のとおり、画像表示用装置に表示された画像を注視してはならないとされています。

この「画像表示用装置」について、条文では、「当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第四十一条第十六号若しくは第十七号又は第四十四条第十一号に規定する装置であるものを除く。(以下略))」となっています。

典型はカーナビやカーテレビです。
また、「取り付けられ」だけでなく「持ち込まれた」ともありますので、携帯電話のほか携帯ゲーム機なども含みます。

なお、除外される「道路運送車両法(略)に規定する装置」とあるのは、液晶の速度計や、バックモニターなどのことです。

・「注視」とは

では、カーナビや携帯電話をどのくらい見たら「注視」したといえるのでしょうか。

よく「2秒以上見たらアウト」などといわれることもありますが、2秒という数字に法的な根拠はなく、この数字はあてになりません。
確かに2秒以上見ていたら危険な気がしますが、逆に2秒未満なら安全だといえるわけでもないので、安易に「2秒未満ならセーフ」と考えるのは危険です

※この点に関する確立した裁判例はなく、今のところは、個別的な事情をもとに解釈する必要があります。
例えばカーナビ上の地図情報などはパッと見て(一瞥して)必要な情報が分かるように設計されていますので、その画面をチラチラ見る程度であれば問題がないでしょう。
これに対し、例えば携帯電話のメール画面は、一瞥して内容が分かるようには設計されていませんし、読むためにはある程度目線を落としたり手で操作したりする必要がありますから、その画面をチラチラ見ていれば「注視」にあたるといえそうです。

自転車は対象外?

なお、前記1のとおり、この条文では自動車(二輪を含みます)または原付が対象となっています。

つまり、自転車の「ながら運転」は、この条文の規定では対象外です。
が、ちゃんと別の規定により規制されています。詳しくは後述します。

 

罰則

2つの類型

さて、これまで説明しましたように、道交法77条5号5では、運転中に

  • 携帯電話などを通話のために使用すること(①)
  • 画像表示用装置に表示された画像を注視すること(②)

が禁止されているわけですが、罰則の対象となるのは、

  1. ①または②を行い、それにより「道路における交通の危険を生じさせた」場合(道交法117条の4第1号の2)
  2. ①を行った場合、または②のうち画像表示用装置を手に持って表示された画像を注視した場合(道交法118条1項3号の2)

です。

Aの類型を「携帯電話使用等(交通の危険)」、Bの類型を「携帯電話使用等(保持)」といいます。

このように、運転中に、携帯電話などを通話のために使用した場合、または画像表示用装置を手に持って注視した場合(携帯電話を注視した場合など)はそれだけで(「道路における交通の危険」が生じなくとも)罰則の対象です。
他方、画像表示用装置を手に持たずに注視した場合(カーナビを注視した場合など)は、「道路における交通の危険」が生じない限り罰せられません。

ここでいう「道路における交通の危険を生じさせた」とは、平たくいうと、その行為により交通事故などが起こりそうになったという具体的な危険を生じさせた、という意味です。
もちろん、実際に交通事故が起きた場合を含みます。

罰則の内容(改正点)

今回の改正(2019年12月1日施行)で変更になったのは罰則の内容です。

・携帯電話使用等(交通の危険)

Aの「携帯電話使用等(交通の危険)」は、今まで、

刑事罰:3か月以下の懲役、または5万円以下の罰金
反則金:車種により6,000円~12,000円
違反点数:2点

でしたが、これが改正により、

刑事罰:1年以下の懲役、または30万円以下の罰金
反則金制度の適用なし(※)
違反点数:6点(前歴なくとも一発免停

となりました。
反則金制度の適用がなくなったことと、違反点数が一発免停となる6点まで引き上げられたことが、大きな改正点です。

※反則金制度とは、大まかにいうと「本来は刑事罰の対象だが、違反を認めて反則金を支払えば刑事罰を受けなくて済む(よって前科は付かない)」という制度です。
その対象外となるということは、通常の犯罪と同じ扱いを受けるということを意味します。

・携帯電話使用等(保持)

Bの「携帯電話使用等(保持)」は、今まで、

刑事罰:5万円以下の罰金
反則金:車種により5,000円~7,000円
違反点数:1点

でしたが、これが改正により、

刑事罰:6か月以下の懲役、または10万円以下の罰金
反則金:車種により12,000円~25,000円
違反点数:3点

となりました。
刑事罰の上限が懲役刑まで引き上げられたことが、大きな改正点です。

人身事故を起こしてしまった場合

なお、「ながら運転」に限った話ではありませんが、人身事故を起こしてしまった場合は、過失運転致死傷罪として7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金に処せられます(自動車運転処罰法5条)。

運転中に携帯電話を使用したり見たりして事故を起こした場合には、過失は認められるでしょう。

 

補足

今回の改正点とはかかわりませんが、「ながら運転」について以下の2点を補足しておきます。

携帯電話など以外の「ながら運転」

今回の改正にかかわる部分は主に携帯電話(スマホ)の使用に関するものですが、それ以外の「ながら運転」についてはどうでしょうか。

例えば、運転中にマンガを読んだり食事をしたりしたケースです(なお、私はカップラーメンを食べてる人を見たことがあります)。
このような場合の罰則はあるのでしょうか。

実は、道交法には次のような規定があり、上記の例ではこちらが適用されるのです。

第70条(安全運転の義務)
 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

マンガを読んだり食事をしたりしていれば、ハンドルもしっかり握れていませんし前方の注意もおろそかになりますから、安全運転義務違反となるのは当然ですね。

そして、この規定に違反した場合は、3か月以下の懲役、または5万円以下の罰金に処せられます(道交法119条1項9号)。
反則金は車種により6,000円~12,000円、違反点数は2点です。

この第70条は、実は、安全運転義務一般について規定したものなのです。
安全運転義務違反のうち、特に危険な類型(前述の携帯電話の使用など)については別途規定が置かれ、重い罰則が科されているわけです。

自転車での携帯電話の使用

ところで、前記で紹介した携帯電話などの「ながら運転」の規制では、自動車(二輪を含みます)または原付が対象となっており、前記の条文では自転車は対象外となっています。

では自転車の「ながら運転」については規制がないのかというと、もちろんそうではありません。
自転車での「ながら運転」についてもちゃんと規制されています

実は道交法71条6号では「道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」を守らければならない、と規定されているのです。

この規定を受けて、各都道府県の公安委員会が独自に規則を定めています。
例えば東京都では「東京都道路交通規則」が定められており、その8条4号では次のとおり規定されています。

自転車を運転するときは、携帯電話用装置を手で保持して通話し、又は画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと。

なお、東京都以外でもほとんどこれと同じ内容の規則が定められています。

この規定に違反すると、道交法120条1項9号により、5万円以下の罰金に処せられます。
自転車ですから反則金制度の適用はありません。