建物やブロック塀などが共有物であった場合の、賠償責任(土地工作物責任)の負担や、対応策について

建物やブロック塀などの建築物が倒壊し、第三者に損害を与えた場合には、既に何度も紹介しているとおり、所有者は、過失がなくとも損害賠償責任を負うことになります(土地工作物責任)。

では、これらの建築物が共有物であった場合には、各共有者はいくらの範囲で損害賠償責任を負うことになるのでしょうか。

2人で共有している場合には半額ずつでは?と思うかもしれませんが、実は、請求された時点ではそうではないのです。
「全額払え」と請求されたら、まずは全額支払わなければなりません

 

共有者の損害賠償責任

土地工作物責任とは、建物やブロック塀などの建築物の、所有者や管理者(賃借人を含む)が負う損害賠償責任のことです。
民法第717条により、所有者・管理者は以下の責任を負います。

民法の規定では、大まかにいうと、
・建物に欠陥があったり管理が不十分であったりしたことにより他人に損害を生じさせた場合で、その管理に過失があったときは、管理者は損害賠償責任を負う。
・上記の場合で管理者に過失が無かったときは、所有者が(所有者には過失が無くとも)損害賠償責任を負う。
と定められています。

ビル・マンションの所有者はどこまで責任を負うのか?

所有者が複数いる場合、つまり共有状態の場合には共有者全員が損害賠償責任を負うことになります。

そして、共有者はその持分割合に応じて責任を負うものとされています。
例えば、持分が1:1(50%ずつ)の割合で2人が共有している場合で、その建物の倒壊などにより1000万円の損害を与えた場合には、最終的には、共有者それぞれが500万円ずつ負担することになります。

ここまでは問題ないと思います。

 

連帯債務

もっとも、それはあくまで共有者間での内部的な話であって、被害者との関係は異なります。

2人の共有者(損害賠償請求権の債務者)は、被害者(損害賠償請求権の債権者)との関係では連帯債務者になるのです(正確には「不真正連帯債務」といいますが、この場面では同じことなので詳細な説明は省略します)。

この場合には民法第432条が適用され、被害者はどちらに対しても全額(1000万円)を請求できることになります。
それぞれに500万円までしか請求できないわけではありません。

第432条(連帯債権者による履行の請求等)
 債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は、全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。

もちろん、どちらにも1000万円請求できるといっても、合計で2000万円を得られるという意味ではなく、一方から回収した分の金額は他方に請求することはできません。
仮に一方から1000万円を回収できれば、他方には1円も請求できなくなります。

この場合、1000万円を支払った方は、他方に対し「本来自分が負担するのは500万円なのだから、あとの500万円はあなたが支払ってくれ」と請求でき、結果的にはそれぞれが500万円ずつ負担するということになります。
前記の説明で「最終的には」と強調したのはこのことです。

 

回収不能リスクの負担

そうすると、最初に請求された側としては、ひとまず被害者に1000万円支払い、その後に他方の共有者から500万円を回収することになります。

が、連帯債務の怖さはこの単なる「回収の手間」だけではありません。

お気づきかと思いますが、他方の共有者が資産を持っていない場合には当然その500万円は回収できないことになります。
つまり、他の共有者の回収不能リスクは、請求された共有者が負うことになるのです。

したがって、共有者の一方がお金を持っていて他方がお金を持っていないという場合には、被害者としては当然お金を持っている方に請求します

 

リスクに対する備え

このように、法律では、被害者保護のために、回収不能リスクを被害者ではなく共有者の方に負わせることになっています。
そんなの不公平だ、と思うかもしれませんが法律上そうなっているので仕方がありません。

それではこのようなリスクに対してどのような対策をすればよいのでしょうか。

そもそも倒壊事故などが起きないように建物などをしっかり管理するのが第一なのはいうまでもありません。

また回収不能という状態を避けるのであれば、「お金がなさそうな人とは共有しないようにする」というのも一つの考えではあります。
しかし、そもそも共有という状態は、相続などのやむを得ない事情が原因であることも多いため、共有者を選べない場合には現実的ではありません。

そうすると、やはり保険に入るというのが最も現実的な方法ではないかと思います。

こうした事態に備えて、施設賠償責任保険のほか、個人賠償責任保険日常生活賠償責任保険(住宅用建物の場合)などの名前で保険が用意されているので、これを機にぜひ検討してみてください。
自動車保険の特約として用意されていることもあります。

 

余談

余談ですが、最近はブロック塀の話題が多いので塀についても一言。

土地工作物責任はブロック塀が倒壊した場合についてももちろん適用されます。

しかし、古い家を相続した場合などで、隣家との境界にある塀の所有権がどっちにあるか分からないというケースもあるでしょう。
この場合にはどちらが責任を負うのでしょうか。

この場合、まずは民法第229条が適用され、共有物と扱われます。

第229条(境界標等の共有の推定)
 境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。

(ここでいう「推定」とは、反対の事実が証明されない限り共有と扱う、という意味です。)

したがって、境界上の塀が倒れて第三者に損害を与えた場合(そういったケースはあまり想定しにくいですが、例えば知人を庭に招き入れていたところに、塀が倒壊してその知人がケガを負ったような場合などが考えられます)には、双方の家の所有者が損害賠償責任を負うことになります。

ちなみに、壁が倒れた結果、建物が損傷した場合や所有者自身がケガをした場合には、自分が被害者である一方で加害者の一人でもありますから、隣家に請求できるのは半額だけになります。