私有地でのスケボー走行は何罪? スケボー走行に関する規制や罰則について

2016年頃でしたでしょうか。東京オリンピックでスケートボード(スケボー)競技が採用されることが決まった頃から、スケボーに関する話題が増えたように思います。

一方で、公共空間でのスケボー走行を取り締まるべきではないかという話もたびたび出ており、議論が絶えないところです。

そこで今回は「スケボー走行にはどのような法的規制があるか」について、簡単にまとめてみました。

道路交通法

まずは道路上での走行について。スケボーは車輪で走るわけですから何らかの規制があるのでは?とも考えられそうですが…

基本的にスケボーは単なる遊戯用具とされており「軽車両」(道交法2条1項11号)には該当しないと考えられています。したがって走行行為そのものへの規制はありません。

ただ、道交法では道路における危険行為や通行妨害行為が禁止されています。具体的には、同76条4項3号で「交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること」が禁止されており、違反した場合は5万円以下の罰金が科されます(同120条1項9号)。

スケボーは「これらに類する行為」に含まれると解されており、実際に検挙事例が複数報道されています。

※「検挙事例」とは、ここでは、逮捕または書類送検された事例で報道で確認できたものをいいます。以下同じ。

軽犯罪法

では私有地内での走行はどうか。私有地といっても、ここでは公開空地のような一般の人も自由に立ち入れるような場所を前提に説明します。

軽犯罪法では「入ることを禁じた場所……に正当な理由がなくて入つた者」は拘留または科料に処せられるとされています(同1条32号)。仮に一般の人が自由に通行できる場所であったとしても、所有者や管理者がスケボー目的での立入りを禁止している場所であれば、許可なくスケボー走行のために立ち入ることは上記に該当するとも考えられます。

実際に、「スケートボードのための立入禁止」などの表示があるビルや商業施設の敷地内(公開空地と思われます)での走行で検挙事例が報道されています。

なお、私有地といっても塀や柵で囲まれたような会社の敷地であれば、そこに無断で立ち入った時点で刑法の建造物侵入罪や邸宅侵入罪が成立します。

刑法

どこで走行するにしても、走行により手すりや柵、花壇、階段などを故意に損傷すれば器物損壊罪(刑法261条。3年以下の懲役または30万円以下の罰金・科料)が成立します。

また、前述のとおり塀で囲まれた敷地内に無断で立ち入る行為は建造物侵入罪や邸宅侵入罪となります。

文化財保護法

珍しいところでは、文化財保護法違反で検挙されたという事例もあります(山口県岩国市の錦帯橋の事例)。

文化財保護法では、重要文化財や史跡名勝天然記念物を毀損した場合は5年以下の懲役・禁錮、または100万円以下の罰金が科されるとされています(同195条1項・196条1項)。

重要文化財の橋などでスケボー走行を行いそれらを損傷させてしまえば上記の罪が成立します。

各自治体の条例

自治体によって独自の条例で罰則を定めている場合もあります。

例えば水戸市の場合、「水戸市駅前広場における安全で快適な環境の確保に関する条例」では駅前広場において「スケートボード」行為を禁止しています(同5条2号)。中止命令に違反した場合は5万円以下の過料が科されます(同10条)。

他の自治体では、条例でスケボー走行を禁止するものの罰則を定めていないこともあります。

また、各地の公園条例などでは「迷惑行為」を禁止している例が多くありますが、上記の水戸市の条例のように明確に「スケートボード」などと規定されている例はあまりありません。そのためスケボー走行に適用できるかは明確ではありません。

騒音規制

騒音という観点からは規制対象になり得るのでしょうか。

まず思いつくのが騒音規制法ですが、同法は工場や建設工事で発生する騒音を規制するもので、そもそもスケボーは対象外です。

もっとも、東京都の環境確保条例では工事等以外についても騒音規制があります(同136条)。また夜間に静謐を害する行為も禁止されています(同133条)。そのため住宅街の道路などでの夜間の走行は規制の対象となる余地があります。

知事の停止命令に違反した場合は1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます(同158条1号)。

民法

以上に加え、故意・過失により他人にケガをさせたり他人の物を損壊したりすれば、不法行為として損害賠償責任が発生します(民法709条)。

マンションの公開空地について

ところで近時、マンションの公開空地内でのスケボー走行を問題視する例があるようですが、走行を防ぐのはなかなか難しい問題です。

公開空地とは

公開空地とは、いわゆる総合設計制度(建築基準法59条の2など)に基づきマンションなどの敷地内に設けられた、一般公衆が自由に出入りできるオープンスペースのことです。

このようなオープンスペースを設けることなどと引換えに、本来建てられないはずの高さのマンション建設が特別に許可される、というのが総合設計制度です。

私有地ではあるのだが…

公開空地はマンションの敷地なのでもちろん私有地なのですが、かといってマンション側でロープを張るなどして「部外者立入禁止」などとするわけにはいきません。

各自治体の総合設計許可要綱を見ても、公開空地の定義として必ず「歩行者が日常自由に通行・利用できるもの」という趣旨が規定されており、これに反すると形式上は許可条件違反(違反建築)となってしまうからです(それで是正措置命令などにはならないとは思いますが…)。

管理権は認められる

もっとも、管理権の一環として他の通行者への迷惑行為を禁止することは問題ないでしょう。管理者であるマンションの管理組合が、他の歩行者への危険の防止のためスケボー走行を禁止する、という程度なら許されるのではないでしょうか。

問題はその実効性ですが、参考になるのが前記の軽犯罪法の事例です。スケボー目的の立入りが禁止されている場所に正当な理由なく立ち入った場合は、軽犯罪法違反となるという考え方です(判例があるわけではないので確実とはいえませんが)。

ただし、その場合は明確に立入りを禁止しておく必要があります。「スケボー目的の立入禁止」などと目立つように掲示する必要はあるでしょう。そうなると美観の問題は避けられなさそうです。

 

以上のとおり法的な問題点はあるものの、そもそも本来スケボー自体は何ら違法性のない遊び・スポーツなのですから、不必要に対立することなく地域住民と共存できればとは思います。