役員のスピード違反で会社が廃業? 廃業や免許取消を避けるための方法について

先日、大手の会社が立て続けに建設業や宅建業を自主廃業することになった、というニュースがありました。

飯田グループホールディングス(GHD)は14日、連結子会社のアイディホームの宅地建物取引業の免許と建設業許可について、監督官庁に廃業を届け出たと発表した。同社元役員の違法行為などについて、宅建業免許と建設業許可の欠格事由に該当すると判断した。同社は土地の仕入れや物件の販売契約ができなくなる。飯田GHDは再発防止策を整え次第、再申請するとした。

飯田GHD子会社、宅建・建設業を自主廃業に: 日本経済新聞(2022年9月15日)

 

NECは29日、建設業許可の廃業を届け出て受理されたと発表した。営業拠点の責任者である社員1人が刑事罰を受けた後もその業務を続けたことが、建設業許可の欠格要件に該当する。再取得まで建設工事の営業ができない。再発防止策をつくって建設業許可を再申請する。

NEC、建設業を自主廃業 社員が欠格要件に該当: 日本経済新聞(2022年9月29日)

 

また、10月31日付で、MIRARTHホールディングス株式会社(10月1日にタカラレーベン株式会社から商号変更)においても、役員が執行猶予付き有罪判決を受けていたことが発覚したため宅建業を自主廃業したことを、自社webサイトにて発表しました。

当社における宅地建物取引業の自主廃業および再申請について(2022年10月31日)

この3社はいずれも、役員などが刑事罰を受けたことから、会社が宅建業免許や建設業許可の欠格事由に当たることとなったため自主廃業した、とされています。

しかし、なぜわざわざ自主廃業までする必要があったのでしょうか。特にアイディホームやMIRARTHホールディングスの件では、問題となったのは自動車での速度違反です。役員の速度違反で会社を廃業せざるを得なかったのはなぜでしょうか。

今回は、主に宅建業および建設業について、

  • 欠格事由とは何か
  • 該当した場合にどうなるか
  • 許可などの取消処分を回避するための方法
  • なぜ自主廃業したのか

などについて説明します(意外と重い速度違反についても少し触れます)。

宅建業法・建設業法における欠格事由

宅建業法および建設業では、宅建業免許および建設業許可の欠格事由の一つとして「その会社の役員などに禁錮以上の刑(禁錮刑・懲役刑・死刑)に処せられて、その刑を受け終わるか受けることがなくなってから、5年を経過しない者がいること」が定められています。

※法令の規定において、ある事由が存在する場合には許可等を受けることができないと定められている場合、その事由を「欠格事由」(欠格要件)といいます。

・宅建業法5条1項5号
 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者
・同項12号
 法人でその役員又は政令で定める使用人のうちに第一号から第十号までのいずれかに該当する者のあるもの

・建設業法8条7号
 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者
・同条12号
 法人でその役員等又は政令で定める使用人のうちに、第一号から第四号まで又は第六号から第十号までのいずれかに該当する者(中略)のあるもの

※ちなみにここでいう「政令で定める使用人」とは支店や営業所の支店長などをいいます(建設業法では「令3条の使用人」といわれます)。

なお、「刑に処せられ」とは実刑判決を受けた場合だけでなく、執行猶予付きの禁錮刑・懲役刑の判決を受けた場合も含まれます

※執行猶予が付く場合「懲役●年の刑に処する。ただしその刑の執行を○年間猶予する」という判決を宣告されます。

事後的に欠格事由に該当すると取消処分に

許可等を受けた当初は欠格事由はなかったが、許可等を受けた後に欠格事由に該当してしまった場合は、どの法令でも基本的にその許可等が取り消されます。

宅建業法・建設業法においても、許可等を受けた後に会社の役員が懲役刑に処された場合は、会社は許可等の取消処分(宅建業法66条1項3号、建設業法29条1項2号)を受けることとなります(条文上、国土交通大臣または都道府県知事は許可等を取り消さなければならない、とされています)。

なお、会社の役員が懲役刑に処されたとしても必ずしもすぐに発覚するわけではありません。裁判所や検察庁などから都道府県・国交省に通報があるわけではないからです。

何らかの方法で都道府県や国交省がそれを知った後に、取消処分のための手続が開始されます。

事前に取消処分を回避する方法

もっとも、この取消処分は事前に避けることができます。

前述の欠格事由についてよく見ると(役員などが)「禁錮以上の刑に処され」とあります。この「処せられ」とは、懲役刑などの判決を受けそれが確定することを意味します。当該役員などが何らかの犯罪行為を行った時点で欠格事由に当たるわけではありません

したがって、ある役員が何らかの犯罪行為を行ったとしても、当該役員が辞任するなどして判決確定前に役員でなくなっていれば「役員が禁錮以上の刑に処された」とはいえないので、欠格事由には当たらないのです

通常は、役員が起訴された頃には「これは(執行猶予が付くとはいえ)懲役刑だな」と予測できますし、仮に予想外に懲役刑の判決を受けたとしても確定まで2週間あります(控訴すればさらに伸びる)。

そのため、当該役員・会社は通常は「このままだと欠格事由に当たりそうだ」ということが事前に分かるのです。そこで、判決が確定する前に当該役員に辞めてもらい欠格事由に該当する可能性をなくすことで、会社は取消処分を回避できるわけです。

※脱法行為のようにも思えますが現行の法律上は全く問題はなく、実際によく行われています。

事後的に取消処分を回避するための自主廃業

このように、仮に役員などが何らかの犯罪行為をしたとしても通常は辞任・解任により事前に取消処分を回避することができます。

では、冒頭の事例では何があったのでしょうか。

推測ですが、懲役刑の判決を受けた役員などが、速度違反程度なら特に問題ないと考えたのか、あるいは隠し通せると考えて会社に報告しなかったのでしょう。速度違反であれば逮捕までされないことが多いですし懲役刑でも通常は執行猶予が付くので、本人が報告しなければ会社も把握できません。

しかし、何らかの経緯で(更新のタイミング(※)などで、役員が不安に思って申告したのかもしれませんが詳細は不明)発覚したため問題となりました。このままでは会社としては取消処分を免れません(会社として隠し通す、という選択はさすがにないでしょう)。既に(執行猶予付きとはいえ)懲役刑の判決が確定したわけですから、今から当該役員を解任しても欠格事由には該当してしまいます

※更新手続の際には会社の役員に欠格事由該当者がいない旨の誓約書を出しますが、もし有罪判決のことを隠して誓約書を出せば虚偽申請となってしまいます。

そこで、冒頭の各社は自主廃業という途を選んだわけです。

取消処分という、業法の中でも最も重い行政処分を受けることは避けなければならないと考えたのでしょう。前述のとおり欠格事由に該当したとしても取消処分がなされるまでには時間がありますから、その前に自主的に廃業して、宅建業免許や建設業許可を返上してしまえばよいのです。廃業の届出を行えば、宅建業免許や建設業許可はその時点でなくなりますから、国交省などはその取消処分を行う余地もなくなります

もちろん、廃業して許可等を返上した以上、宅建業や建設業を行うことはできなくなります。そのため、冒頭の各社は許可等の再申請の準備を進めているわけです。

※このような自主廃業も脱法行為のようにも思えますが、このケースであれば現行の法律上は全く問題はありません。

速度違反で懲役刑になるの?

なお、そもそも速度違反で懲役刑ということがあるのか?と疑問に思われたかもしれませんが、実は、時速80キロメートル以上の超過だと多くの場合懲役刑の判決となります。

ここで速度違反の立件に関する運用を簡単に見てみましょう。

道路交通法では、速度超過はそもそも犯罪とされている(6か月以下の懲役または10万円以下の罰金)のですが、超過速度が30キロ(高速は40)未満は反則金制度の対象です。いわゆる「青切符」の手続で、反則金を払って終わります。

超過速度が30(40)を超えると、反則金制度の対象外つまり刑事罰の対象となり、いわゆる「赤切符」の手続となります。とはいえ、超過速度が50とか60であれば通常は略式起訴として罰金刑となります。

さらに、概ね超過速度が80以上の場合は、検察庁の運用では懲役刑を求刑するため正式起訴(公判請求といいます)の対象となります。こうなると懲役刑はほぼ確実です(多くの場合は執行猶予が付きますが)。ちなみに初犯の場合は懲役3か月・執行猶予2~3年というのが相場です。