賃貸物件管理業者・サブリース業者を規制する新法案の内容について
今朝ほど、賃貸物件の管理業者や、サブリース業者への規制を内容とする新法案が閣議決定されたとの報道がありました。
政府は6日、アパートなどの賃貸用住宅を所有者から借り上げて入居者に貸し出す「サブリース」と呼ばれる事業に規制をかける新法案を閣議決定した。「絶対に損しない」といった不当な勧誘を禁止し、一定期間保証する家賃が将来的に減額されるリスクについて、所有者に対して適切に説明するよう求める。違反した事業者には業務停止命令や罰金を科し、サブリース業界に適正な業務運営を促す。
新法案の名前は「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」で、概要については国土交通省のページに説明があります。
新法案は全部で46条あり、その内容は大きく以下の2点です。
- 賃貸住宅管理業を登録制とすること
- サブリース業者やその勧誘業者への業務の規制
法案1条では「賃貸住宅の入居者の居住の安定の確保及び賃貸住宅の賃貸に係る事業の公正かつ円滑な実施を図るため」と記載されていますが、要するに、悪質な管理業者やサブリース業者から物件オーナー(特に経験の乏しい個人オーナー)を守るための規制を定めたものだと思います。
例えば「不動産業には全く縁がなかったものの、親の物件を相続して急に所有者となった」という場合には、所有者は全くの素人といってよいでしょう。
この場合、管理業務の実情や相場などについては全く分からず、悪質な業者に食い物にされてしまうことも少なくありません。
サラリーマンが、サブリース業者の勧誘を受けて物件を購入した場合も同様です。
また、中身は素人であっても、不動産賃貸業を営んでいることには変わりません。
そうすると、事業者であるといえますので、原則として消費者契約法は適用されないのです。
こうした現状から、特に経験の乏しい個人オーナーを保護する必要があるのです。
賃貸住宅管理業者に対する規制
法案2条2項では、賃貸住宅管理業について次のように定義されています。
第2条(定義)
2 この法律において「賃貸住宅管理業」とは、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて、次に掲げる業務(以下「管理業務」という。)を行う事業をいう。① 当該委託に係る賃貸住宅の維持保全(住宅の居室及びその他の部分について、点検、清掃その他の維持を行い、及び必要な修繕を行うことをいう。以下同じ。)を行う業務(賃貸住宅の賃貸人のために当該維持保全に係る契約の締結の媒介、取次ぎ又は代理を行う業務を含む。)
② 当該賃貸住宅に係る家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理を行う業務(前号に掲げる業務と併せて行うものに限る。)
通常の賃貸物件の管理業務と同様ですね。ただ、対象物件は住宅に限られます。
そして、この賃貸住宅管理業は登録制とされました。
賃貸住宅管理業の登録制度自体はもともとありましたが、新法案ではそれが義務化された形です。
3条では、賃貸住宅管理業を営もうとする者は、原則として国土交通大臣の登録を受けなければならないとされました(41条1号により、無登録で営業した場合には1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金(またはその両方)が科されます)。
そのうえで、管理業者に対し、業務を行うに際し以下のような義務を課しています。
- 業務管理者の選任(12条)
- 事前の重要事項説明・書面交付(13条・14条)
- 預かり家賃や敷金などの分別管理(16条)
これらに違反した場合など、必要がある場合には国土交通大臣から業務改善命令(22条)や、場合によっては業務停止や登録取消などの処分がなされることがあります(23条)。
サブリース業者(特定転貸事業者)に対する規制
続いてサブリース業者(法案では「特定転貸事業者」)について。
法案2条4項・5項では次のように定義されています。
第2条(定義)
4 この法律において「特定賃貸借契約」とは、賃貸住宅の賃貸借契約(賃借人が人的関係、資本関係その他の関係において賃貸人と密接な関係を有する者として国土交通省令で定める者であるものを除く。)であって、賃借人が当該賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結されるものをいう。
5 この法律において「特定転貸事業者」とは、特定賃貸借契約に基づき賃借した賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営む者をいう。
要するに、転貸目的で物件を借りる契約が4項の「特定賃貸借契約」で、借りた物件を転貸(サブリース)する事業を営む者が「特定転貸事業者」です。
以下、分かりやすく「サブリース業者」といいます。
前記の管理業とは異なり、こちらは登録制とはされていません。
(※賃貸住宅管理業については既に登録制度があり、その実績があったため新法案では義務化されましたが、サブリース業についてはいまだ実績がなく今回の法案では見送られたようです。)
ただし、業務を行うに際し以下のような義務を課しています。
- 誇大広告の禁止(28条)
- 不当な勧誘等(嘘を告げるなど)の禁止(29条)
- 事前の重要事項説明・書面交付(30条・31条)
上記のうち、誇大広告の禁止(28条)・不当な勧誘等の禁止(29条)の規制(※末尾に条文引用)はサブリースの勧誘を行う業者にも適用されます。
また、サブリース業者や勧誘業者についても、国土交通大臣による是正指示(33条)や業務停止命令(34条)といった制裁があります。
さらに、29条1号については違反した場合の刑事罰があり、重要事項について故意に事実を告げず、または事実と反することを告げた場合には、6か月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金(またはその両方)が科されます(42条2号)。
なお、35条では以下のとおり定められており、問題のあるサブリース業者については誰でも国土交通大臣に申し出ることができます。
第35条(国土交通大臣に対する申出)
1 何人も、特定賃貸借契約の適正化を図るため必要があると認めるときは、国土交通大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
2 国土交通大臣は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
新法案の実効性
以上みたように、新法案の内容はあくまで行政上・刑事上の規制にとどまります。
消費者契約法のように、民事上の法的効力まで踏み込んだものではありません。
そのため、新法案の規制に違反したからといって、例えば管理契約や売買契約を直ちに解除できる、というわけではありませんから、その点には注意が必要です。
(もちろん、不法行為により損害賠償を求める場合などは、新法案の規制に違反したという事実は考慮される可能性はありますが。)
新法案には、悪質な業者からの保護という点では一定程度の実効性はあるとは思います。
しかし、民事上の救済については、今後も法制度を拡充していく必要があります。
※参照
第28条(誇大広告等の禁止)
特定転貸事業者又は勧誘者(特定転貸事業者が特定賃貸借契約の締結についての勧誘を行わせる者をいう。以下同じ。)(以下「特定転貸事業者等」という。)は、第二条第五項に規定する事業に係る特定賃貸借契約の条件について広告をするときは、特定賃貸借契約に基づき特定転貸事業者が支払うべき家賃、賃貸住宅の維持保全の実施方法、特定賃貸借契約の解除に関する事項その他の国土交通省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。第29条(不当な勧誘等の禁止)
特定転貸事業者等は、次に掲げる行為をしてはならない。
① 特定賃貸借契約の締結の勧誘をするに際し、又はその解除を妨げるため、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者に対し、当該特定賃貸借契約に関する事項であって特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
② 前号に掲げるもののほか、特定賃貸借契約に関する行為であって、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の保護に欠けるものとして国土交通省令で定めるもの