セカンドオピニオンについて
私たちが受ける相談の中に、「ある紛争について現在弁護士に解決を依頼して進めてもらっているけど、どうもその先生の進め方が不安なので、問題ないかどうかを教えて欲しい」というものがあります。
いわゆるセカンドオピニオンです。
私は、このような相談を受けたときには必ず次の2点を伝えています。
① 私の話の方が良く聞こえることがあってもそれは思い込みであることが多い
② 私がその案件を受けることはしないし、他の弁護士を紹介することもしない
それは、セカンドオピニオンには「結果が起きてから当時の措置を検証する」という側面がある以上、バイアスがかかりやすいという問題があるためです。
後知恵バイアス
例えば、医療の世界には「後医は名医」という言葉があります。
同じ患者を診察した場合に、先に診察をした医師よりも、後に診察した医師の方がより正確な診断することができるということを表した言葉です。
患者側から見れば「最初に診てくれた医師(前医)よりも、後に診てくれた医師(後医)の方が適切な診断をしてくれた」と思ってしまうことがあります。
しかしこれは、後医の方が前医よりも多くの情報を持っている(例えば前医がある処置をしたが、その効果が無かったということを前提知識として知っている)ためであり、後医がそれを前提にして、より適切な処置をすることができるのは当然のことなのです。
そうであるにもかかわらず、患者はそのことに気づかず、後医となった医師の方が前医よりも優れていると思いがちだということが「後医は名医」という言葉に表されています。
人間には、ある処置をして結果がすぐれなかった場合に、その結果を知った上で後から「やはりその処置が適切ではなかった」と思いがちな傾向があり、これを「後知恵バイアス」といいます。
人は誰でも、「ある処置をして結果がすぐれなかった」という情報を聞けば、それを前提にして「その処置には○○という問題点があった。だから今回はこのような処置をすべきではなく、●●という処置をすべきであったのでは」と考えがちです。
しかしそれは「すぐれなかった結果」を見た後での話です。
本来の検証においては、その「すぐれなかった結果」を見る前の、「前提情報が何もない中でこの症状を目の前にしたときに何をすべきであったか」が議論されなければなりません。
結果が分かった後に「実はその処置は適切ではなかった」ということはいくらでも言えるのです。
セカンドオピニオンの場面においてはこの点に注意する必要があります。
そのため、私は必ず「私の話の方が良く聞こえることがあってもそれは思い込みであることが多い」ということを伝えています。
なぜ依頼を受けないか
相談の内容を聞いた後に「さすがにその処置は不適切だな」と考えることもあります。
見解を求められれば、普通の弁護士はその対応はしないはずだ、と回答します。
そうすると「じゃあ今の弁護士を解任するので続きをお願いできないか」となることもあります。
しかし、それは一律にお断りしています。
セカンドオピニオンは、常に中立的な立場で意見を述べることに意味があるのであって、セカンドオピニオンを伝えたことによってこちらに依頼(売上)が来るようなことがあっては、意見の中立性(=他の依頼者からの信用性)が保てないからです。
意見の信用性を保つために、一律に依頼はお断りしていますし、他の弁護士を紹介することもしていません。
終わりに
文中で触れた「後知恵バイアス」ですが、これは建築紛争や医療紛争などでよく見られます。
建築紛争においては予算や納期(新装開店など)の問題で切羽詰まっていることもありますし、医療紛争では、患者の情報が分からないまま「ひとまず命だけは救わなければならない」という究極の選択を迫られる場面もあります。
他方、その緊急事態を脱出した後から見れば「もっと適切な手段があった」と言うことはいくらでもできます。
このように、ある結果が起こった後に「実は当初の処置は適切ではなかった」と言うことは簡単ですが、本来問題とすべきは「限られた情報の中で、その時点でその処置をすることが適切であったかどうか」です。
裁判でも、処置者の責任の有無はこの観点から判断されます。結果的に当初の処置が不適切であったとしても「その状況で行った処置としては不十分とはいえない」という結論になることも多くあります。
セカンドオピニオンを受ける際には、後知恵バイアスにとらわれ「今の弁護士の責任をどう追及できるか」という目的で意見を求めるのではなく、ご自身の視点を増やすために「他の弁護士としてどういう見方があるかを知る」という目的を持ってセカンドオピニオンを活用して頂ければと思います。