建築 法務一般

建築紛争の特殊性 ~コミュニケーションにおける想像力の重要性

投稿日:2017年3月6日


「顧客が代金を支払わない」「業者にずさんな工事をされた」
――業者・顧客の双方からこんな相談をよく受けます。

小規模な業者にとっては下請業者への支払いに頭を悩ませることになりますし、住宅など一生に一度の買い物をした顧客にとっては重大な問題ですね。

トラブルの発端をひも解いていくと、結局はコミュニケーション不足からくる行き違いにたどり着きます。
最初は小さな行き違いであっても、段階が進むにつれ徐々にそれ大きくなり、徐々に不満感・不信感が増していった結果、最終的にこれが爆発して、紛争という形で表面化します。

これは建築紛争に限らず、ほとんどの紛争ではコミュニケーション不足が原因です。
普段から、互いに常に密なコミュニケーションを心がけておき行き違いを防ぐこと、そして行き違いが生じたとしてもそれが小さな段階で修正できるようにしておくことで、紛争を予防することができます。

もっとも、建築紛争においてはその特殊性から、相互のコミュニケーションについて通常とは別の考慮も必要になります。

では、建築契約ではどのような点に気を付けなければならないのでしょうか。

「プロ」対「素人」の契約

まず気を付けるべき点は、建築契約は多くの場合「プロ対素人の契約」であるという点です。

これは他の契約でもいえることですが、プロ対素人の契約では双方の情報量に大きな格差があります。

したがって、ある事項を説明しても顧客には予備知識がないために理解が不十分になってしまい、結果としてコミュニケーションが完全に成立しないという事態が生じることがあります。
他方で業者は「自分は十分に説明して納得してもらった」と理解しているために、顧客とのコミュニケーションの中で行き違いが生じてもそれに気づかず、結果として紛争に発展してしまいます。

※なお、このように相互の情報格差が大きいような契約では、法律でその差を埋めるような手当てがなされていることがあります。
例えば、一定の重要な事項について、業者はそれを必ず顧客に書面で説明しなければならない(説明していなければ業者に責任を発生させる)としたり、契約内容で顧客一方的に不利な内容が定められてが場合には、それを無効にしたりする規定があります。

物が(まだ)ない契約

次に気を付けるべき点は「契約時に物が存在しない」という点です。

一般に、日常生活においてなじみ深い契約類型といえば、売買契約や賃貸借契約などがあると思います。
これらの契約では、買ったり借りたりする対象は、基本的には現に存在している物です。

他方、建築契約では契約の時点では対象物がまだありません。契約時点では、あくまで「このような建物を作ります」「このような内装工事をします」という図面や仕様書があるだけなのです。

当然、建築業者はプロなので図面等を見れば完成物を想像できますが、素人である顧客は完成物を正確に想像できるわけではありません。
「イメージしやすいように」といくらパースを見せられても、壁紙のサンプルをいくら見せられても、等身大の自分が実際にその部屋に入った際にどのような圧迫感を感じるのかは、紙面からは想像できません。

そこで、顧客と業者との間に認識のずれが生じ、トラブルへと発展するのです(これは建築請負契約に限らず、システム開発請負契約や診療契約など、内容が専門的な契約の場合に起こりやすいトラブルです)。

こうした認識のずれから、顧客から「頼んだ内容と違う」「こんな工事は依頼してない」というクレームを受けてしまうわけです。

紛争を防ぐためには

では、紛争を防ぐためにはどのようなコミュニケーションを心がけたらようのでしょうか。

一般的には、「打合せの際には議事録を残す」「施工中の現場で説明を行う」「正しいかどうかはいったん置いて、顧客のクレームをしっかり聞く」などの方策が提唱されています。

確かにこれらは重要です。
しかし、ただ形式的に実践していても紛争の芽を摘むことにはなりませんし、法的にも十分とはいえません。

裁判においても前述の情報格差を考慮した判定がされます。ある工事について、十分な説明をして同意を得たかどうかが争点となっている場合に、業者側が「この程度の説明をすれば十分であろう」と考えていたとしても、裁判では「一般人がその説明で理解できるかどうか」が基準とされます。

単に形式的な対策では意味がありません。
重要なのは実質を伴った対策が必要であり、その要となるのは想像力です。「この説明を聞いて素人であればどう考えるか」を常に想像してコミュニケーションを取らなければなりません。

そのためには、顧客が「何を知っているか」「何を知らないのか」をしっかりと聞き取る必要があります。
また逆に、顧客に「業者としてできること」「できないこと」を知ってもらうことも重要です。
(理想を言えば、顧客側にも情報の格差を埋める努力はして欲しいところではありますが…)

顧客との打合せには、常にこの点を意識して臨むことが必要です。
特に、顧客側が「何を知らないのか」は分かりづらいことも多く、また業者側が「何ができないのか」については言いづらいことも多いので難しい場面もあるとは思いますが、そこを乗り越えてコミュニケーションを成立させることで、後のトラブルの発生を抑えることができると思います。

まとめ

今回のキーワードは「想像力」です。

このような問題が起きるのは建築紛争に限りません。
建築契約やシステム開発契約などの請負契約のほか、医師との診療契約や弁護士に訴訟を委任する契約などの委任契約など、「プロ対素人」かつ「契約時に物が存在しない」という特徴を持った契約では同様の問題が発生します。

自分が専門家になってしまうと、どうしても「専門家でない人間はどう理解するか」を想像するのは難しいと思います。
自戒を込めてですが、常に他の視点を失わないようにしたいものですね。


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