根抵当権の場合の抹消手続き

前回の記事では、昔に設定された抵当権の登記を抹消する方法をお伝えしました。

では、「抵当権」ではなく「根抵当権」の場合も同様の手続きで抹消することができるのでしょうか。
結論としては、前回の、①当事者の合意による方法と、②休眠担保権抹消の特例による方法による場合は問題ありませんが、③訴訟による方法の場合は、少々厄介な問題が生じます。

1.当事者の合意による方法

抵当権の場合と同様、これが一番簡単で早く済みます。

ただし、債権者の同意を得られなかったり、債権者(またはその相続人の一部)が行方不明であったりして、同意を得られないような状況であると、やはりこの方法では不可能になります。

2.休眠担保権抹消の特例による方法

これも抵当権の場合と同様で、かなり昔(現代と貨幣価値が大きく異なる時代)に設定された根抵当権であれば、この方法が有効です。

抵当権の場合と異なる点は、大まかにいうと、「弁済期から20年」ではなく「元本確定から20年」(元本確定の日が明らかでない場合は、設定から3年経過した時点を元本確定の日として扱われます)となることと、供託する金額が債権額ではなく極度額となること、の二点です。

その他は変わりませんが、やはり比較的近年に設定された根抵当権の場合では供託金額が多額になるので、現実的な方法ではありませんね。

3.訴訟による方法

そこで、上記1・2の方法が使えない場合には、やはり訴訟によらざるを得ません。
以下に述べるとおり、抵当権の場合に比べ手続きはより複雑になりますが、最終的には抹消することができます。

根抵当権の場合は抵当権と異なり、単純に「この債権は既に消滅したから抹消してくれ」とは言えない点が問題になります。
抵当権はある特定の債権のみを担保するものですから、その債権が消滅すれば、抵当権も消滅します。これに対し、根抵当権は、ある範囲内の不特定の債権を(極度額の枠の範囲内で)全て担保するものですので、ある特定の債権が消滅したとしても別の債権が残っているかもしれませんし、今後新たに債権が発生する可能性がゼロではないためです。

このように、根抵当権には、担保される債権が不特定であるという性質があるのですが、この性質をなくすために「元本確定」という手続きを経る必要があります。
元本確定手続とは、「不特定の債権を担保する」状態を、「その時点で存在する特定の債権のみを担保する」状態に変える手続です。これにより、根抵当権は、特定の債権のみを担保する抵当権と同様の性質の権利に変わります。
したがって、元本確定手続を経た根抵当権については、抵当権と同様に、「この債権は既に消滅したから抹消してくれ」という手続きが可能になります。

では、元本確定手続はどのように行うのかというと、実はこれもそう簡単ではありません。
民法の規定では、あらかじめ確定期日が定められていてその期日を経過した場合や、当事者が亡くなった場合、その不動産が差押えを受けた場合など、ある事由が発生した場合に自動的に元本が確定する場合が定められています。
上記のような事由が無い場合は、こちらから債権者(またはその相続人全員)に対して元本確定請求通知を行う必要があります(請求から2週間経過すると元本が確定します)。

しかし、元本確定請求の通知は内容証明郵便(書留郵便)で行う必要があるのですが、相手方が行方不明であれば通知を送ることもできませんし、行方不明でなくとも相手方が通知を受け取らなかった場合には、通知が有効と判断されません。

そこで、このような場合に備えて、訴訟手続の中で通知を行うという方法をとります(上記の場合に「意思表示の公示送達」という方法が無くはないのですが、期間がかかる上に二度手間になってしまいますので、訴訟手続の中でやってしまうのが最も早いです)。

最終的に、訴訟においては「●年●月●日の時点で元本が確定したという登記をしてくれ」という請求と、「その時点では債権が存在しなかった(またはその時点で存在していた債権は弁済または時効により消滅した)ので根抵当権の登記を抹消してくれ」という請求を二本立てで行い、これらが判決で認められれば、晴れて抹消登記を行うことができるようになります。

まとめ

以上お伝えしましたように、通常の手続きで抹消が難しい場合であっても、ほとんどの場合は訴訟で最終的に解決させることができます。
ただ、実際の訴訟手続においては上記のほかにも考慮する要素が多々あり(例えば、債権者が亡くなっている場合には、時効をいつからカウントするかによって登記の手間・費用が変わってくることもあります)、必ずしも記載したようにすんなり行くものではありません。

いずれにしても、前回もお伝えしたとおり、この問題は早く解決した方が後々のためでもありますので、これを機に一度登記簿をご覧になってみてはいかがでしょうか。