昔の抵当権の登記を抹消するには
自分がよく知っている不動産であっても、相続で名義変更(所有権移転登記)を行う場合など、その不動産の登記簿を初めて見ることがあるかと思います。
そして、登記簿を見てみると、数十年前に登記された(聞いたことのない)抵当権の登記が残っていることがあります。
もちろん、昔の話であるため、実際には、もとの貸金は既に返済済みであったり、時効が成立していたりして消滅していることも多くあります。
このように、もとの貸金債権が消滅している場合には、法律上は抵当権も消滅することになります。
しかし、法律上抵当権が消滅したからといって、ただちに登記簿上の抵当権が抹消されるわけではありません。登記を抹消するには別途手続きが必要なのです。
そして、登記簿に抵当権の登記が残っていると、後にその不動産を売却する際の障害となります。通常は、抵当権の登記が残っている不動産には買い手が付かないからです。
また、後に述べるように、時間がたてばたつほど抹消の手続きが面倒になります。
そのため、現時点で売却の予定がなくとも、将来その不動産を売却する時に備え、早めに抵当権の登記を抹消しておく必要がでてきます。
そこで、今回は、古い抵当権(数十年に設定された抵当権)の登記の抹消方法について見ていきます。
抹消手続きの方法は、①当事者の同意による方法、②休眠担保権抹消の特例による方法、③訴訟による方法に分かれていますが、それぞれ利点・難点があります。
1.当事者の合意による方法
最初に考え付くのはこの方法ですね。
「あの貸金は既に返済済みだから、抵当権を抹消しましょう」ということで、当事者間で抹消書類を作成して法務局に提出すればOKです(実印・印鑑登録証明書が必要になります)。
同意さえ得られれば、この方法が最も簡単で早く終わります。
しかし、当然ながら相手方(債権者)が抹消に同意していることが前提です。
「昔のことでよく覚えていないから、確認するまでは抹消に同意できない」と言われ協力してくれなければ、手続きはできません。
特に債権者が既に亡くなっている場合は、相続人の方が事情を全く知らないことも多く、簡単に同意を得られないこともあります。また、この場合は亡くなった債権者の相続人を全て特定した上で、各相続人と連絡を取る必要があるのですが、亡くなったのがかなり前であれば、相続人も亡くなっていることもあります。そうすると、さらにその相続人を特定することが必要となり、結果として相続人の数が多くなり、話合いは困難になってきます。
当然、行方不明で連絡が全く取れない人も出てくるでしょう。
この方法では、一人でも同意しない人がいれば手続きを進めることができないため、債権者が既に亡くなっているようなケースでは難しいのが難点です。
2.休眠担保権抹消の特例による方法
昭和初期や、大正・明治時代に設定された抵当権の場合は、この方法が使えることが多いです。
手続の内容は少々複雑なのですが、かなり要約すると、①債権者が行方不明であることと、②弁済期から20年以上経過していること、③貸金の元本と利息を支払ったことを証明して抹消手続きを行います。
ただし、③については、そもそも債権者が行方不明であることが前提であるので、実際には法務局に供託します。
(※この方法はほかにもパターンがありますが、ここでは割愛します。詳細は、多くの司法書士事務所のwebサイトに載っていますので、そちらをご参照ください。)
手続にかかる時間は1~2ヵ月です。この方法は専門家でないと難しいので、司法書士さんに依頼する方がよいでしょう。
この方法の難点は、「登記簿に記載されている金額」を供託しなければならない点です。
昭和初期や、大正・明治時代では現在と貨幣価値が大きく違うので、貸金として記載されている金額が数十円、数百円だったりします。そのため、現在の貨幣価値であればこの金額は難なく支払うことができます。
しかし、比較的近年に設定された抵当権であれば、貨幣価値が現在と変わらないため、額面が数百万、数千万円などとなっています。その金額を供託するのは現実的ではありませんね(もちろん供託金は戻ってきません)。
3.訴訟による方法
上記1・2の方法での抹消ができない場合には、最終的に訴訟(裁判)によって抹消するしかありません。
手続はさらに複雑になりますが、元の債権者が亡くなっている場合でも、戸籍類を全て取り寄せて相続人を確定した上で、全員に対して訴訟を行います。
一部の相続人が行方不明となっている場合であっても、必要な手続きを踏めば訴訟を行うことができます。
また、当時の貸金に関する記録が残っていなかったとしても問題ありません。
この方法の難点は、手続きにかかる期間が読めず、かなり長くかかる場合もあることです(とはいっても、1・2の方法が使えなければ、どんな難点があっても訴訟をせざるを得ないのですが)。
早ければ3ヵ月程度で終わりますが、場合によっては1年以上かかることもあります。
例えば、相続人の調査だけで半年近くかかった例もありますし、行方不明者がいる場合には特別な調査・申立てが必要になります。
また、債権者が法人で、かなり昔に解散している場合や、そもそも法人登記が残っていない場合には、その法人を訴えるために別途調査・申立てが必要になります。
ただし、最終手段というだけあって、時間はかかっても必ず終わるのが、唯一の利点ともいえます。
そうはいっても、実際には「そこまで手間をかけてまで、現時点で抹消する必要があるのか?」との思いで、ずるずると子の代、孫の代まで放置されてしまうことが多いのですが…
まとめ
以上のとおり、抹消手続の方法にはそれぞれ利点・難点があります。
しかし、どの方法であっても確実に言えることは、「時間がたてばたつほど面倒になる」という点です。
このような面倒を子の代、孫の代に残したくないとお考えであれば、まずは、現時点ではどの方法が可能なのか・どの程度面倒なのかを確認するだけでも、専門家にご相談されることをお勧めします。