執行猶予中の再犯② 罰金刑の場合に執行猶予が取り消される割合は低い?

前の記事では、執行猶予中の犯罪により懲役刑・禁錮刑を科される場合に執行猶予が取り消される割合について説明しました。

では、同じく執行猶予中の犯罪により罰金刑を科される場合はどうでしょうか。
あわせて、そもそも罰金刑が科される割合についても説明します(さらに、参考までに起訴猶予となる割合についても簡単に触れます)。

今回も推計に当たっては2018年(平成30年)の検察統計年表の数値をもとにしました。

法務省:【検察統計統計表】

検察統計調査 検察統計 年次 2018年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

 

罰金の場合

執行猶予が取り消される割合

執行猶予中の犯罪により罰金刑を宣告する場合には、刑法26条の2第1号により執行猶予を「取り消すことができる」とされています。

しかし、現実にはその実例はほぼありません

2014年~2017年の間の人数は年間2件~12件、2018年では0件です。
罰金刑の宣告に伴い執行猶予が取り消される事例はかなりレアケースだといえるでしょう。

罰金刑が科される割合

ではそもそも、執行猶予期間中の犯罪により罰金刑を宣告される割合はどのくらいあるのでしょうか。

ダイレクトな統計がないので推計してみます。

起訴された者のうち、犯行時に執行猶予期間中(保護観察付きを除く)であったものは5,682人とのことです(※1、※2)。
(ただし、この数字は自動車運転過失致死傷及び道路交通法違反事件が除かれていますので、以下の数字でもその調整を行います。)

一方、前記のとおり懲役刑・禁固刑の宣告に伴い執行猶予が取り消されたのが3,160人ですが、ここから大まかに過失致死傷と道交法違反を除くと2,749人となります(元のデータからは、自動車運転過失致死傷と道交法違反だけを除くことができないため、あくまで参考数値として。以下同じ)。

そして、前の記事のとおり再度の執行猶予が付されたのが161人ですが、同様に、大まかに過失致死傷と道交法違反を除くと145人となります。

したがって、残りの2,500人ほど(※3)には罰金刑が宣告されたものと思われます。

※1 執行猶予の取消対象となるのは、「犯行時に執行猶予期間中」ではなく正確には「判決確定時に執行猶予期間中」ですので、取消対象となり得る人数はこの人数よりも少なくなります。「判決確定時に執行猶予期間中」の人数の統計がなかったため上記で代替しました。
※2 この5,682人が全員平成2018年中に起訴されかつ判決を受けたわけではありませんが、毎年の人数は大きく変わらないので、ここでもその誤差は無視しています。
※3 ※1記載の理由のほか、「犯行時には執行猶予期間中であったが判決確定時には期間が満了していた」というケースはそう多くはないと思われることから、ひとまず「2,500人ほど」としました。また、無罪や公訴取消し等の件数は極めて少数ですので無視しています。

すなわち、執行猶予期間中の犯罪により起訴された場合、罰金刑が宣告される割合はおおよそ半分弱だといってよいでしょう。
(なお、前述のとおり、罰金刑となった場合には執行猶予が取り消されることはほぼありません。)

 

まとめ

さまざまな誤差を無視した推計ですのであくまで参考数値にすぎませんが、以上をまとめると下図のようになります。

補足:起訴猶予となった割合について

ちなみに、前記のとおり犯行時に執行猶予期間中(保護観察付き執行猶予の場合を除く)であった者で起訴された(自動車運転過失致死傷及び道路交通法違反事件を除く)のは5,682人ですが、これに対し起訴猶予となったのは2,149人でした。

約27%が起訴猶予となっていることになります。意外と起訴猶予の事例も多いのですね。

※参照条文(刑法)

第25条(刑の全部の執行猶予)
1 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

第25条の2(刑の全部の執行猶予中の保護観察)
1 前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。
2 前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
3 前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、前条第二項ただし書及び第二十六条の二第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。

第26条(刑の全部の執行猶予の必要的取消し)
 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

第26条の2(刑の全部の執行猶予の裁量的取消し)
 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。