【民事編1】司法を語る上で頭に入れておくとよい数字(司法統計)

日本では年間に何件の訴訟が起きているでしょうか。
そのうち、何割が和解で終わるのか、あるいは判決言渡しとなるのか。訴訟が終わるまでにかかる期間は何か月くらいか。

これらの数値は、弁護士であれば経験からだいたいの予測がつくことが多いですが、普段あまり訴訟に接しない業種の方からすると、全く想像がつかないかもしれません。

そこで今回は、法律関係職の方や報道関係の方向けに、司法に関する主要な(私の目線ではありますが)数字を、司法統計の中から抜粋してお伝えします。

今回は民事事件について(なお、家事事件・行政事件も分類としては民事に含まれますが、今回はこれらは除きます)。
最高裁判所の司法統計(2019年版)をもとに解説します。

※最新版は2020年ですが、この年はコロナの影響を大きく受けているため参考にならないと考え、2019年版をもとに解説します。

サマリー

以下を要約すると、次のとおりです。

2019年中、全国で新たに起こされた民事訴訟(家事・行政を除く)は約48万件。

終結した訴訟のうち、判決言渡しで終わったのが簡裁・地裁とも4割。
和解で終わったのが、簡裁だと1割、地裁だと4割。

※なお実質的な和解率については後述。

簡裁では訴訟の9割が6か月以内に終結。
地裁では6か月以内に終わるのは5割。9割は2年以内に終結。

高裁での控訴審(二審)では、判決が6割、和解は3割。
判決のうち、一部でも一審判決が変更されたのは2割、変更されなかったのは8割近く。

最高裁での上告審(三審)では、ほぼ全て判決または決定。
そのうち、一部でも二審判決が変更されたのは1%未満。

以下、詳しく見ていきます。

 

訴訟は何件起こされている?

第一審

2019年中に、全国に起こされた民事訴訟(第一審・通常訴訟)の件数は、簡易裁判所で344,101件、地方裁判所で134,934件です。
全国で約48万件の民事訴訟が新たに起きていることになります。

※ちなみに東京簡裁では134,620件、東京地裁では38,801件。全国の訴訟のうち3~4割は東京で起きています。

控訴審(二審)

第一審判決に対して控訴された件数は、地方裁判所(一審が簡易裁判所の場合)で3,999件、高等裁判所(一審が地方裁判所の場合)で12,416件です。
合計して約1.6万件

上告審

控訴審(二審)判決に対して上告された件数は、高等裁判所(二審が地方裁判所の場合)で422件、最高裁判所(二審が高等裁判所の場合)で3,807件です。合計して4千件強

※ただし、最高裁の件数は注意が必要です。
3,807件の内訳は上告1,700件、上告受理申立2,107件ですが、1つの事件につき両方行うことが多いので実質的な件数はこれより少なくなるでしょう。

 

判決の件数は?

2019年中に終了した訴訟の件数は、概ね上記と同様です。
もっとも、判決が言い渡される件数はそれほど多くはありません。

第一審

2019年中に終結した民事訴訟(第一審・通常訴訟)の件数は、簡易裁判所で339,903件、地方裁判所で131,560件。

うち、判決が言い渡されたのは簡易裁判所で140,615件、地方裁判所で57,543件。
ともに全体の約4割に過ぎません。

残りの約6割がどうなったのかは後述します。

控訴審(二審)

2019年中に終結した二審の件数は、地方裁判所(一審が簡易裁判所の場合)で3,943件、高等裁判所(一審が地方裁判所の場合)で12,228件。

うち、判決が言い渡されたのは地方裁判所で1,858件、高等裁判所で7,176件。
全体の約5.5割です。

上告審

2019年中に終結した上告審の件数は、高等裁判所(二審が地方裁判所の場合)で445件、最高裁判所(二審が高等裁判所の場合)で3,819件。

うち判決が言い渡されたのは高等裁判所で417件、最高裁判所で3,758件(※決定も含む)。

※最高裁での上告審では、棄却(逆転せず)の場合には判決のほか決定が下される場合もあるため。

 

訴訟はどうやって終わるのか?

前記のとおり、訴訟は必ずしも判決で終わるわけではありません。
判決まで行かずに、途中で和解で終わったり、訴えそのものが取り下げられたりすることも多くあります。

では、和解で終わる割合はどの程度なのか。
また、訴訟が終わるまでの期間はどの程度なのか、判決で勝訴する割合はどの程度なのか、など私が個人的にピックアップしたデータを、以下紹介します。

 

第一審・簡裁

請求する金額が140万円以下の場合は、一審は簡易裁判所で行います。

内訳

2019年中に終結した件数は339,903件。

うち判決で終了したのは140,615件(41.4%)、和解は35,121件(10.3%)、取下げなどその他(※)が164,167件(48.3%)。

※なお、「その他」の大半が取下げで112,033件、次に多いのが決定で50,309件。
特に簡裁の場合は、上記のうち「訴訟手続外で和解が成立したため訴訟は取下げ」というパターンや、裁判所による「和解に代わる決定」の例が多いのだろうと想像します。

勝敗の割合

判決となった件数から、欠席判決(※)を除いた件数(=被告が何らかの対応を行ったケースの件数)は43,636件。
このうち認容判決(原告勝訴)は40,920件(93.8%)、棄却判決(原告敗訴)は2,678件(6.1%)、却下判決(同)は38件(0.09%)です。

※いわゆる欠席判決とは、相手(被告)が訴状を受け取ったのに無視して裁判所にも来ないなどの場合に、裁判所が原告の主張を真実とみなし判決を行うことをいいます。
基本的に、争いがないものとみなされ即座に審理が終結します。

もっとも、欠席判決を除いた件数といっても、「被告が裁判所に出てきたものの実質的には何も反論せずに終わった」というケースもカウントされるため、勝率を論じる意味はあまりなさそうです。

大半が本人訴訟

ちなみに当事者の少なくとも一方に弁護士か司法書士が代理人としてついた件数は84,597件(24.9%)、双方ともに代理人をつけなかった件数は255,306件(75.1%)。
簡裁では大半が本人訴訟ですね。

ほとんどが6か月以内に終わる

全体のうち318,115件(93.6%)が6か月以内に終了しています。

※和解率について(実質的な和解率は?)

なお、前記のとおり、339,903件のうち判決で終了したのは140,615件(41.4%)、和解は35,121件(10.3%)。
つまり和解で終わる割合(和解率)は1割程度。ずいぶん低いな、との印象を受けるかもしれませんが、上記の判決には欠席判決のケースが含まれるため注意が必要です。

そこで、実質的な和解率を考えるため欠席判決を除いた数字を見てみます。

判決で終わった140,615件のうち欠席判決のケースは96,962件(69.0%。何と簡裁では7割近くが欠席判決)、これに対し被告側が何らかの対応を行ったうえで終了した「対席判決」のケースは43,636件(31.0%)です。

この対席判決の件数(43,636件)と、和解となった件数(35,121件)を合計して各割合を計算すると、判決55.4%・和解44.6%となります。

つまり、実質的には4割半は和解で終わる(簡裁・第一審の場合)といえるでしょう。

※なお、私も含め弁護士の体感では和解率はもっと高い印象です。おそらく代理人がついた案件では和解率が高くなるのではないかと想像しています。
※また、前記「その他」164,167件(48.3%)のうち99%を占める「取下げ」と「決定」の内訳は、前述のとおりそれぞれ「訴訟手続外で和解が成立」「和解に代わる決定」が大半ではないかと思われますので、これらを和解に含めれば実質的な和解率はさらに上がることになります。

 

第一審・地裁

請求する金額が140万円を超える場合などは、一審は地方裁判所で行います。

内訳

2019年中に終結した件数は131,560件。

うち判決の言渡しは57,543件(43.7%)、和解は50,626件(38.5%)、取下げなどその他(※)が23,391件(17.8%)。
簡裁と異なり、取下げなどその他の割合が大きく下がります。

※簡裁の場合と同様、「その他」の大半が取下げで19,413件、決定が1,111件。なお、決定の中身は、地裁の場合は「和解に代わる決定」がないのでいわゆる「17条決定」(付調停の上で)でしょうか。

実質的な和解率

また、上記の数字では和解で終わる割合は4割弱ということになりますが、前記簡裁の場合と同様に実質的な和解率を計算してみます。
判決言渡し(57,543件)のうち、欠席判決は24,780件(43.1%)、対席判決は32,722件(56.9%)(※)ですので、対席判決の件数と和解となった件数(50,626件)を合計して割合を計算すると、判決39.3%・和解60.7%となります。

つまり、実質的には6割は和解で終わる(地裁・第一審の場合)といえます。

勝敗の割合

欠席判決を除いた件数(対席判決)は32,722件。このうち認容判決(原告勝訴)は76.1%、棄却判決(原告敗訴)は23.4%、却下判決(同)は0.5%です。
ただ、前述のとおり勝率を論じる意味はあまりなさそうです。

大半が弁護士を選任

ちなみに当事者の少なくとも一方に弁護士(地裁以降では司法書士は代理人となれない)が代理人としてついた件数は120,367件(91.5%)、双方ともに代理人をつけなかった件数は11,193件(8.5%)。
簡裁と異なり、地裁ではほとんどのケースでどちらかに弁護士がついています

6か月以内に終わるのは半数、ほとんどは2年以内に終わる

また、全体のうち6か月以内で終了したのは69,884件(53.1%)、6か月超1年以内は26,950件(20.5%)、1年超2年以内は24,854件(18.9%)。
つまり全体の73.6%が1年以内に、92.5%が2年以内に終わることになります。

 

控訴審・高裁

続いて控訴審の概要は以下のとおり。
控訴審以降については主要なデータのみ触れます。

高裁での控訴審のみを取り上げています。第一審が簡裁の場合は控訴審は地裁となりますが、あまり多くない(3,943件)ので今回は割愛。

2019年中に終結した件数は12,228件。
うち判決の言渡しは7,176件(58.7%)、和解は3,978件(32.5%)、取下げなどその他(※)が1,074件(8.8%)。

※そのうち取下げは757件。

判決となった7,176件のうち、取消判決(一審判決を変更)は1,596件(22.2%)、控訴棄却判決(控訴は認められず一審判決のまま)は5,494件(76.6%)、その他が86件。

当事者の少なくとも一方に弁護士が代理人としてついた件数は11,677件(95.5%)、双方ともに代理人をつけなかった件数は551件(4.5%)。

口頭弁論期日を経た11,375件のうち、その回数が1回の場合(いわゆる一回結審)が8,844件(77.7%)、2回が1,879件(16.5%)、3回が409件(3.6%)。
口頭弁論期日を経たケースのうち97.9%3回以内で終わります。

本人尋問を行った件数は133件、証人尋問を行った件数は133件。
両者の大半は重なっていると考えられますので、控訴審で尋問を行った割合は1~2%といえそうです。

全体のうち6か月以内で終了したのは9,335件(76.3%)、6か月超1年以内は2,234件(18.3%)。
つまり全体の94.6%が1年以内に終わることになります。
地裁での一審とは異なり6か月以内で終わる件数が多いのは、1回結審で終わることが多いからでしょう。

なお、一審から控訴審の終結までにかかった期間は、2年以内が49.9%、3年以内が81.1%、4年以内が93.2%、5年以内が97.7%。
一審から控訴審までで、半数が2年以内に終わっていることになります。

※ちなみに1か月以内で終わった件数が1件あったようです。何をどうしたら一審から控訴審まで1か月で終わるのか、詳細が分からないため非常に気になります…

 

上告審・最高裁

最後は上告審。最高裁での上告審のみを取り上げます。

2019年中に終結した件数は上告1,679件、上告受理申立て2,079件。
単純合計で3,758件ですが、実際には多くが重複していると思われます(上告の際、念のため上告受理も申し立てておくような場合)。

ちなみに上告1,679件のうち破棄はゼロ上告受理2,079件のうち破棄は27件
やはり、最高裁での逆転は非常にハードルが高いといえます(そもそも、一審・二審と違って実体の審理に入らない門前払い(上告棄却決定・上告不受理決定)がほとんどです)。

6か月以内で終わるのは全体の89.5%、1年以内に終わるのは98.5%。
9割近くが6か月以内で終わるのは、上告棄却決定や不受理決定が非常に多いためでしょう。

一審から上告審の終結までにかかった期間は、2年以内が23.5%、3年以内が58.9%、5年以内が92.7%、7年以内が98.3%です。

 

次回は民事執行、倒産、家事事件について説明します。