執行猶予中の再犯① 再度の執行猶予を得られるのは5%程度? 統計からみた割合について

執行猶予付きの刑を科された後、その執行猶予期間中に再び犯罪を行い懲役刑や禁錮刑を科される場合、原則としてその執行猶予は取り消されます。

ただし、一定の場合には、例外的にもう一度執行猶予が付くことがあります。
これを「再度の執行猶予」といい、再度の執行猶予が付く場合には前の執行猶予は取り消されません。

もっとも、1回目の執行猶予と比べれば、再度の執行猶予を得るのはハードルが格段に高くなるといわれます。
では、実際に再度の執行猶予が認められる割合はどの程度なのでしょうか。

これを直接集計した統計データがないため、さまざまな数値からその割合を推計してみます。
(なお、以下では、全部執行猶予の場合を念頭に置いています。一部執行猶予のケースは考慮していません。)

また、次回の記事では、2回目の犯罪により罰金刑となった場合に執行猶予が取り消される割合はどれくらいなのか、についても調べてみましたのでご参照ください。

なお、推計に当たっては2018年(平成30年)の検察統計年表の数値をもとにしました。

法務省:【検察統計統計表】

検察統計調査 検察統計 年次 2018年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

 

執行猶予の取消し、再度の執行猶予とは

まずは、執行猶予の取消し、再度の執行猶予の要件について確認(※参照条文末尾)。

執行猶予付の有罪判決を受けた場合、何事もなく猶予期間を過ごせばその有罪判決の効力はなくなります。
しかし「猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき」(刑法26条1号)などの場合には執行猶予は必ず取り消され、また、「猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき」(刑法26条の2第1号)などの場合には執行猶予が取り消されることがあります

一方、猶予期間中に罪を犯しても「一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるとき」(刑法25条2項本文)にはもう一度執行猶予を付すことができます。これを再度の執行猶予といいます。
再度の執行猶予が付された場合には、最初の執行猶予は取り消されません

※ただし、最初の執行猶予が保護観察付きであった場合には再度の執行猶予を付すことができない(刑法25条2項ただし書き)ため、最初の執行猶予は必ず取り消されることになります。

まとめると、こうなります。懲役刑などの宣告を受けたが執行猶予を付された場合で、執行猶予期間中に、再び犯罪を行い懲役刑・禁錮刑の宣告を受ける場合には、執行猶予が取り消されるか、再度の執行猶予を付されるかのどちらかです。
一方、罰金刑の宣告を受ける場合には、執行猶予が取り消されるか取り消されないかのどちらかです(ただし、次回に説明するとおり取り消されることはほぼありません)。

 

懲役・禁固の場合で、再度の執行猶予が付される割合は5%前後?

一般的に再度の執行猶予はかなりハードルが高いと言われています。
では、実際に再度の執行猶予が付される事例はどのぐらいあるのでしょうか。

これをダイレクトに示した統計情報が見当たらなかったため、他の数字から推計してみました。

結論としては、起訴されて懲役・禁固の判決を受けた場合再度の執行猶予が付されるのは全体の5%前後ではないかと考えます(一審判決の結果のみをもとに計算)。

一審判決で25条2項により執行猶予がついた人数(※1)は161人であるのに対し、26条1号により執行猶予が取り消された人数(※2)は3,160人です。

※1 執行猶予中(保護観察付の場合を除く。以下同じ)の犯罪により懲役刑・禁錮刑を宣告されたが、再度の執行猶予が付された人数
※2 執行猶予中の犯罪により懲役刑・禁錮刑を宣告されたことを理由として執行猶予を取り消された人数

このことから、執行猶予中の犯罪により懲役刑または禁錮刑を宣告されたが再度の執行猶予が付された割合は、

161÷(161+3,160)=4.85%

となり、諸々の誤差(※3)を考えても5%前後ではないかと考えられます。

※3 年をまたぐ事件があるため。ただし、ほどんとの事件は1年以内で終了しており(※4)、また毎年の人数も大きくは変わらないので、誤差は無視できるものと考えます。
※4 なお、第一審の審理は、全体の約90%が6か月以内に、約98%が1年以内に終了しています。

やはり、再度の執行猶予のハードルは高いといえますね。

 

次回は、2件目の刑が罰金となる場合に執行猶予が取り消される割合について説明します。

(補足:なお、上記の「26条1号により執行猶予が取り消された人数」には、最初の執行猶予が保護観察付ではなかったとしても、2件目が例えば強盗罪(5年以上の懲役)である場合のように再度の執行猶予を付すことがそもそも不可能であったケースも含まれていることに注意。)

※参照条文(刑法)

第25条(刑の全部の執行猶予)
1 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

第25条の2(刑の全部の執行猶予中の保護観察)
1 前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。
2 前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
3 前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、前条第二項ただし書及び第二十六条の二第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。

第26条(刑の全部の執行猶予の必要的取消し)
 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

第26条の2(刑の全部の執行猶予の裁量的取消し)
 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。