弁護士の活用方法  弁護士に「絶対」を求めてはいけない

弁護士に何かを相談する際、どのような回答・アドバイスを期待しますか?

一般の法律相談でも法律顧問サービスの相談でも同じですが、相談者は、多かれ少なかれ今の状況に不安・不満を抱いています。
そのため弁護士は、有益なアドバイスによってその不安・不満を解消させなければなりません。

そうはいっても、相談者が求める内容によっては、そのような有益なアドバイスをできないことがあります。

今回は、弁護士への相談では何を求めるべきか、という話です。

「絶対」はない!

よくいわれることですが、

「絶対」はありません。

まずはこの点をご理解ください。

何でもそうですが、「絶対に大丈夫」ということはありません。
後述するように、弁護士のアドバイスに絶対を求めれば、それこそ「絶対に」満足する結果にはなりません。

 

確かに、相談や依頼の際にお聞きした事実関係からすれば、まず間違いなくこちらの法的請求が認められるといえる場合はあります。

しかし、ここで「請求が認められる」と判断できるのは、「その事実関係以外の事情は一切なく、かつその事実関係が今後も一切変化しない場合」に限ります。
案件を進めてみて、お聞きしていない「意外な事実」が出てくれば、結論が真逆になることもあります。

そして、われわれが関わる実務の場面では、なぜか、往々にしてその「意外な事実」が出てくるものです。

 

さらにいえば、「法的には全く問題が無いが絶対大丈夫とはいえない」という場合だってあります。

例えば以前に担当した件ですが、ある公正証書の効力を訴訟で争い、無効とする判断がなされました。
では、今後その(相手方が持っている)無効な公正証書で差押えを行うことはできるでしょうか。

当然、法律上は「無効な公正証書による差押えはできない」という結論に間違いないのですが、実際の手続上は違います。
実際には「無効な公正証書でも悪用すれば差押えはできてしまう。ただし、異議申立てをすれば差押えは確実に取り消される」となります。

法的に無効な公正証書であっても、悪用すれば嫌がらせ目的の差押えはできてしまうのです。

 

さらに極端な例では、えん罪の場合があります。
法律上は、犯罪を行った場合は刑罰を科されることになっています。犯罪を行っていなければ、刑罰を科されることは法律上は絶対にないことになっています。
しかし、検察官・裁判官に誤認されれば、無実の人間も刑罰を科されてしまいますよね。

これらのような事態すら考えられるわけですから、弁護士は「絶対に大丈夫」とは絶対に言いません

そもそも「絶対に大丈夫」という事態がない以上、「絶対に大丈夫ですか?」という質問自体が間違っているのです。

このことを説明しても「絶対」を求める方には、依頼ならお断りしますし、相談であれば、絶対に大丈夫な範囲しか回答しません。すなわち「法律の条文はこうなっています」ということだけお答えすることになるでしょう。
これでは満足のいく結果にはなりませんね。

リスクの度合いを測るという観点で

前置きが長くなりましたが、一般の法律相談や顧問サービスによる相談の際に、どうすれば弁護士から価値のある回答を得ることができるでしょうか。

前述したように、やはり「絶対」を求めないという視点が必要です。
「絶対に大丈夫な対処法」はないわけですから、それぞれの対処法について「比較のために各対処法のリスク度合いを知りたい」という視点で弁護士の回答を利用するのが有益です。

例えば、はっきりとした規制のない領域で新しい事業を始めたいが、自身で調べたり行政(監督官庁)に問い合わせたりしても、規制を受けるのかどうかが分からず不安である、という企業があったとします。
この企業から相談を受けて、実際に行政の規制(措置命令や公表処分、業務停止命令や許認可の取消処分)を受ける可能性があった場合、まずは次のような回答をすることになります。

・適用される法律の目的からすればそのビジネスの●●の部分が規制対象になり得る

そうすると、相談者によっては「では●●の部分をカットすれば絶対に大丈夫か?」と聞いてくる方もいます。繰り返しになりますが、絶対大丈夫な方法はありません。
唯一あるとすれば、そもそもそのビジネスを止めることです。止めてしまえば、少なくともそのビジネスを行うことによるリスクはゼロになりますからね。

結局、絶対大丈夫な方法を求めれば、話はここで終わってしまいます。

そうではなく、何か行動を起こすのであれば、リスクはゼロにはできないという前提で、リスクと向き合う(付き合う)視点が重要です。
そのうえでリスクをコントロールするのです。

私も、私の考え方に同調いただける方には、この点を説明したうえで以下のような説明をします。

・このまま進める場合は将来的に規制を受ける可能性は60%くらい
・サービスの価値は下がるかもしれないが●●の部分を△△に変えれば40%くらい
・●●の部分を完全にカットしてしまえば10%以下
・最悪の場合に生じるコスト(金銭、手間、風評損害など)
・万一の場合の監督官庁への対応方法(その他コストを下げる手段)

厳密な確率は算定できるものではありませんが、経験・知識とそれに基づく感覚から、なるべく数値化して伝えるようにしています。

これにより、経営者は、期待値に基づく経営判断(得られる利益と生じる損失の、確率的な見積り)ができるようになるわけです。

存在しない「絶対大丈夫な方法」を求めて落胆するより、このような有益な情報を得るために、弁護士を活用する方が有意義です。