交渉で言いくるめられないための3つのポイント(その1)

交渉などの議論において、自分の思いどおりの結果が得られず悔しい思いをしたことはないでしょうか。

相手の言い分が至極まっとうで、自分も納得できる(納得せざるを得ない)結論であれば問題ありません。
これに対し、後でよくよく考えてみると、相手の言っていたことはどうも筋が通っていない、やはり自分の考えが正しいはずだ、ということもあるのではないでしょうか。

相手の主張には無理があり、思い返すと納得できないことばかりでムカムカしてきますよね。
しかし、交渉の場では、なぜか言いくるめられ納得してしまったのです。

では、なぜその場で言いくるめられてしまったのでしょうか。

今回は、厄介な相手との議論において無理やり言いくるめられないよう、気を付けるべきポイントを3点に絞ってお伝えします。
そのポイントとは、

1.主導権を渡さない
2.議論の軸をずらさせない
3.相手のペースに乗らない

の3点です。

今回は、1.の「主導権を渡さない」について、相手が使ってくるテクニックと、その対処法をお伝えします。

1.相手はどのようなテクニックを使ってくるのか

本来、議論は対等に行われるべきです。
しかし、議論の主導権が大きく相手方に渡ってしまうと、議論は相手方によってコントロールされ、こちらが言いくるめられてしまう可能性が高まります。

そのため、相手方は意識的・無意識的に、主導権をにぎるためのテクニックを使ってくることがあります。
それは、「相手に考えさせる」「相手に説明させようとする」というテクニックです。

よく言われる例ですが、例えば、警察官の職務質問の際に「カバンの中を見せてください」と言われてそれを拒否すると、大体「なぜ見せられないのですか。何かやましい物でも持っているのですか」「そうでないなら、なぜ見せられないのですか」と言われ、答えに困ってしまうことがあります。
そして、見せられない理由を答えることができず、結果として応じてしまうのです。

本来は、要求する側にその要求の根拠がなければならないのですが(なお、上記の所持品検査の場合も法律的にそうなっています)、そのような根拠がない場合、相手方がこのテクニックを使ってくることがあります。

なぜこのテクニックが有効なのでしょうか。
それは、質問をされると、人は無意識に「答えなければならない」と思ってしまうからです。この点を巧みに利用したテクニックなのです。
質問をされて「答えなければならない」と思っている側は、防御に回ってしまうことになるため、攻撃(議論)の主導権は相手方に移ってしまいます。
その結果、議論の場が相手の土俵になってしまうのです(就職面接を思い浮かべてみてください)。

さらに、あえて答えられないような質問を行い、相手に「答えられない自分が悪い(不利だ)」と思わせるのです。

2.議論における使われ方

このように、主導権をにぎり、相手を防戦一方にさせ、相手が疲れるまで追い詰めます。
例えばこのような感じです。

※事例は、「相手方に納品した商品の一部に破損がありクレームを受けている。そんなに急ぎではないはずだし、謝罪の上、商品を交換すれば損害はないはず。しかし、相手方からは商品全額の返金プラス損害賠償を求められている。ただし、どうみても損害賠償に根拠はない」というケース。
相手方からは、こんな質問が想定できそうです。

「なぜ賠償金を支払わないのか」
「御社がミスをしたことについて、どう思っているのか」
「御社のミスのせいで当社の取引先にも迷惑がかかってしまっていることを、どう思うか」
「御社では、ミスをして相手に損害を与えた場合、どうすべきだと考えているのか」
「当社の請求が不適正だというのか。なぜ被害者を詐欺師呼ばわりするのか」
「注文した商品が破損していたというのに、なぜ当社に一円も損害が発生しなかったと言えるのか」

よく考えてみれば答える必要のない質問に対し、つい中途半端な答えをしてしまったり、答えに詰まって考え込んでしまうような状態になれば、議論は完全に相手方のペースです。
次から次へと質問攻めにされてしまい、自分は不利な状況に陥れられてしまいます。

その上で、相手は「こちらも譲歩する」という逃げ道を用意し、そこに相手を押し込めます。そして、この逃げ道は、相手に有利な条件となっているのです
上の例では、「一円も損害が発生していないというのは無理がありますよね。しかし、こちらもあなたの顔を立てて、金額を下げることは了承しますよ。お互い痛み分けってことにしましょう。これでいいですね」という感じで、相手の用意した道に誘導されます。
そして、いつのまにか議題は「賠償金を支払うかどうか」から「賠償金をいくらにするか」と変わっていくのです。

文字に起こしてみると、相手方の言っていることがおかしいことに気づくと思いますが(だからこそ、後で議論を思い返してみるとムカムカしてくるのですが)、実際に、緊張している議論の場面ではうまく反論ができず、言いくるめられてしまうこともあります。
(なお、実際には、上記の例のように議論の軸をずらすという方法や、誤導質問や極端な二分法など、ほかのテクニックと併せて使われます。これらのテクニックについても別の機会に説明したいと思います。)

3.対処法

では、このテクニックに、どのように対抗したらよいのでしょうか。

対抗手段は、こちら側には質問に答える義務が無いことを示すことです。
具体的には、「質問をそのまま返す」か、あるいは「相手方によって理由が説明されていない、と答える」という方法が有効です。

前記の職務質問の例では、「なぜカバンの中を見せられないのですか」という質問に対し、「なぜ見せなければならないのですか」と質問をそのまま返すか、あるいは「見せるべき理由が無いからです」と答えることになります。
賠償金の例では、「なぜ賠償金が発生すると考えているのか」と質問を返したり、「支払う理由が無いからです」と答えた上で、議題を「賠償金を支払う必要があるか」という点に保つことで、議論の主導権をにぎられないようにすることが重要です。

このような対処法により、理由や根拠を示さなければならない側に説明させる、という本来の状態を保つことができます。

前述したように、相手方は、その主張の理由や根拠を示すことができない(難しい)場合に、この質問テクニックを使って主導権を取ろうとしてきますので、うまく対処して、主導権を渡さないようにする必要があります。
常に、「この質問には私が答える必要は無いのではないか」という疑問を持つようにすれば、術中にはまることも少なくなるのではないかと思います。

 

次回は、「2.議論の軸をずらさせない」についてです。