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長年放置されてる昔の仮差押登記を抹消するには


土地の相続などの際に初めて登記簿を見ると、聞いたことの無い登記がされていることがあります。
以前の記事(昔の抵当権の登記を抹消するには)でお伝えした抵当権の登記もそうですが、仮差押えの登記が残っていることもあります。

抵当権の場合と同様、仮差押えの登記も後々の取引の障害となります。

そこで、抵当権の場合と同じように抹消してしまいましょう……と言いたいところではありますが、実は仮差押えの方はそう簡単には行かないことが多いのです。

以下、仮差押えの登記の抹消について、その問題点と対策を見ていきましょう。

古すぎる仮差押登記の場合は注意

最初に申し上げておきますと、「20年以上前の登記で、かつ、当時の資料が全く残っていない場合」はハードルが上がります。
その理由は、「どの事件の仮差押命令によって登記がされたか」の特定が難しくなるからです。

仮差押命令の特定

後に見るように、抹消手続の大前提として「どの事件の仮差押命令によって登記がされたか」を特定しなければなりません。

通常は、当事者の手元に裁判所から送付された「仮差押決定書」があるので問題はありません。
また、仮に無くしてしまっていても原本が裁判所に保管されているので、閲覧手続によりそれを確認することができます。
さらに、仮に裁判所に無くとも、法務局に登記申請の際に提出された決定書が保存されている可能性がありますので、そこから決定書の内容を確認できれば問題ありません。

保存期間の問題

しかし、裁判所での保存期間は10年間ですし、法務局での保存期間は30年間ですので、これを超えると両方とも廃棄されている可能性があります。
さらに、法務局での保存期間が30年間となったのは2008年のことで、それ以前の保存期間は10年間でしたので、要するに1998年よりも前の書類は法務局でも廃棄されてしまっている可能性があるのです。

そうなってしまうと、出発点の「どの事件の仮差押命令によって登記がされたか」の特定ができないので、その後の手続が難しくなるのです。

特定できなくても不可能ではない

ただ申し上げられるのは、それでも「早ければ早いほど何とかなる可能性が高い」ということです。

廃棄を免れて書類が残っているかもしれません(保存期間を経過してもすぐに廃棄されないこともあるので)し、裁判所に別な形で記録が残っていることもありますし(※)、当事者の子孫が生きているかもしれませんし、どうしても無理なら詳細は不特定のままでも手続を進めることもあります(※)。

※実際には、だいたいこれで何とかなります。

では、こうして事件を特定できたとして、実際に抹消手続はどのように行うのでしょうか。

 

当事者の合意(取下げ)

抵当権のときと同様、まず最初に思いつくのは当事者の合意による方法です。

仮差押えを行った者(債権者)あるいはその相続人との交渉により、裁判所に対してその仮差押命令の申立てを取り下げてもらいます。
これが一番簡単で、最短で手続が終わります(ただし、用意する書類が少し複雑ですので専門家に頼んだ方がよいでしょう)。

しかし、やはり抵当権の場合と同様に、債権者やその相続人の同意が得られなかったり、行方不明になっていたりすると手続を進めることができません(債権者が亡くなっている場合には相続人全員の同意が必要になります)。
また、住民票が追えず戸籍も取れないためそもそも生死も不明、という状態も実際にはよくあります。

では、債権者などの同意を得るという方法が不可能な場合には、どういう手段があるのでしょうか。

 

保全取消の申立て①(起訴命令)

法律上、一定の場合には裁判所が仮差押命令を取り消すことができます。これを「保全取消」といいます。

債権者などの同意を得られない場合は、この保全取消の申立てを検討することになります。

冒頭のケースでは、起訴命令の申立ておよびその期限徒過による保全取消(民事保全法37条)と、事情変更による保全取消(同法38条)の申立てが考えられます。

起訴命令とは

まずは、起訴命令の申立て(民事保全法37条1項)について。

これは、裁判所から相手方に対して「●日以内に本裁判を起こしてください。そうしないとこの仮差押えは取り消しますよ」という命令(起訴命令といいます)を出してもらう手続です。

仮差押えとは後の手続に備えた「仮」のものであり、本来は、その後に本裁判(「本案訴訟」といいます)が起こされ、そこで法律上の権利関係が確定されることになります。
しかし、いつまでたっても本案訴訟が起こされない場合、差し押さえられた側は、権利関係が確定しないまま差押えの状態が続くことになってしまいます。

この状態を解消するために認められているのが起訴命令という制度です。

手続の流れ

差し押さえられた側が起訴命令を申し立てれば、当事者名などの形式審査のみが行われ、通常はすぐに裁判所から債権者に発令されます。

裁判所からの起訴命令を受けてから、一定期間(だいたい1か月前後と定められます)内に債権者が本案訴訟を起こさない場合は、差し押さえられた側の申立てにより、裁判所が仮差押えの取消決定を出します。

こうして仮差押えが取り消されれば、仮差押えの登記を抹消することが可能になります(法務局への抹消の申請は裁判所が行ってくれます)。

この方法は、相手方の同意がなくても可能ですし、行方不明者がいる場合でも(必要な調査・申立をすることで)可能です。

メリット・デメリット

起訴命令による方法のメリットは、起訴命令が発令され期限が経過すれば、仮差押えは必ず取り消されるという点です。
起訴命令の発令に際し事実関係の審理は行いませんので(その後1か月程度の待ち時間はありますが)簡単に進めることができます。

一方、デメリットは、起訴命令により催促することで本案訴訟が起こされてしまう、というリスクが皆無ではない点です。
もっとも、大昔の仮差押えで特に当事者が亡くなっているような場合であれば、債権者の相続人も事情が分からないことが多いですし、わざわざ費用をかけて本案訴訟を起こしてくることはほぼないといってよいでしょう。

また、手続の流れが、起訴命令の申立て→起訴命令発令→1か月程度経過後に取消しの申立て→取消決定、となっており、次の事情変更による申立ての場合と比べ時間がかかるという点もデメリットとして挙げられます。

 

保全取消の申立て②(事情変更)

次に、事情変更による取消し(民事保全法38条)について。

事情変更とは

この申立ては、当初の仮差押命令の後に、仮差押えの元となった債権が消滅したり(被保全債権の消滅)、対象物を差し押さえておく必要性が消滅したり(保全の必要性の消滅)した場合など、事後的に事情の変更があった場合に行うことができます。

冒頭のようなケースであれば、後者の「保全の必要性」の消滅を主張することになります。
通常、本案訴訟が起こされないまま2、30年も経っていれば、裁判所により保全の意思を放棄したあるいは失ったと判断され、保全の必要性が消滅したとして取り消されます。

誰を訴える?

訴える相手方は、もちろん仮差押えを行った人(債権者)です。
もっとも、仮差押後に長期間放置されているようなケースでは、債権者本人は亡くなっていることがよくあります。

その場合は、債権者の相続人を調べて相続人全員を相手にする必要があります。

相続人がいない場合

しかし、中には相続人がいないこともあります。
例えば、配偶者も子もなくかつ親や兄弟姉妹がすでに全員亡くなっている場合や、相続人全員がすでに相続放棄をしている場合などです。

その場合、原則としてはこちらで相続財産管理人の選任の申立てを行ったうえで、選任された管理人を相手に手続を進める必要があります。
もっとも、ある程度の予納金(数十万円)を積む必要がありますし、期間も数か月余計にかかりますから、急を要する場合は特別代理人を選任させて手続を進めることも可能です。

特別代理人を選任させる場合は、予納金は10万円前後で済むことが多く、また期間のロスも3週間程度で済みます。

※参照:訴える相手方が死亡し、相続人がいない場合の訴訟や強制執行手続について(相続財産管理人・特別代理人)

手続の流れ

先ほどの起訴命令の場合は形式審査のみであるのに対し、事情変更による申立ての場合には当該事情についての審理が行われます。

とはいっても、本案訴訟が起こされないまま2、30年も経っていれば、通常はそれだけで保全の必要性が消滅したと判断されます。そのため、多くの場合、審理は1回で終結します。
その後1~2週間で取消決定が出ます。

(※参考 被保全債権は時効消滅するか?)

なお、本案訴訟が起こされずに20年以上も放置されているのであれば、そもそも消滅時効が成立しているのではないか、との疑問もありそうです。

しかし、仮差押えの状態が続いている間は時効が進行しませんので、その間に時効で消滅するということはありません。

 

まとめ

以上、仮差押えの登記を抹消する方法について見てきましたが、やはり最後は「早めに処置を行いましょう」という点に落ち着きます。

機会を見つけて、一度登記簿を確認してみてはいかがでしょうか。


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