土砂崩れと行政責任について――規制権限の不行使と国家賠償請求


以前の記事で、がけ崩れなどが起きた場合の土地所有者などの責任について説明しました(がけ崩れ(斜面崩落)の責任は誰が負う? 土地所有者が負う法的リスクについて)。

上記の記事は私有地(民有地)での話ですが、この話は公有地であっても基本的に同じです。
国や自治体が管理する土地などの管理に不備があり事故が起きた場合には、国家賠償法(国賠法)2条により国や自治体が損害賠償責任を負います。

※場合によっては民法717条が適用される場合もあります。

基本的にはこのように私有地であっても公有地であっても土地の所有者(あるいは占有者、管理者)が賠償責任を負うこととされています。

もっとも、私有地での事故であっても、国や自治体が適切に規制権限を行使しなかったことが原因で事故が起きたような場合には、国賠法1条により国や自治体が賠償責任を負うことがあり得ます。

今回は、土砂崩れや斜面の崩落などが起きた場合の国や自治体(以下「行政」といいます)の賠償責任について、国賠法とともに解説します。,

公有地の場合に行政が負う責任

土砂崩れなどが公有地で起きた場合は、適用される法律は異なるものの、基本的に私有地の場合と同じです。

公有地の擁壁の安全性に問題があったため崩落などの事故が起こった場合には、国賠法に基づき、行政が損害賠償責任を負うことになります。

私有地の場合は民法717条の「土地工作物責任」の規定が適用されますが、公有地の場合は国賠法2条1項の「営造物責任」の規定が適用されます。

以下、参考までに、国賠法の営造物責任について簡単に触れます。

※参考 営造物責任とは

国賠法2条1項では次のとおり定めています。

国家賠償法第2条第1項
 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

営造物責任は土地工作物責任より広い範囲を対象としており、「営造物」には土地の工作物のみならず動産をも含むとされています。

営造物の設置または管理に瑕疵があったため損害が生じた場合に行政が損害賠償責任を負うとされています。

ここでいう「瑕疵」とは、その営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいい、①営造物の客観的・物理的な安全性が不足している場合のほか、②営造物の管理や運営の問題により安全性が不足していた場合も含むとされています。

行政が管理する道路などが、構造上の問題(強度不足など)により崩落して被害が発生した場合には、①の類型となります。

※これに対し、道路に穴が開いたり障害物が落ちたりしたのにそれが放置されていた結果事故が起きたような場合は②の類型となります。

なお、土地工作物責任における所有者の場合と同様、行政の過失は必要ありません(無過失責任)。

もっとも、上記「瑕疵」と損害の発生との間には因果関係が認められることが必要です。
したがって、想定外の災害により瑕疵とは関係なく事故が起きたような場合(仮に安全基準を満たしていたとしても事故が起きたといえる場合)には、賠償責任は発生しません。

 

私有地の場合に行政が負う責任

私有地で崩落事故などが起きた場合には、民法の土地工作物責任の問題となります。
土地などの占有者または所有者が損害賠償責任を負うのはもちろんです。

もっとも、場合によっては私有地での事故についても国賠法1条1項により行政が損害賠償責任を負うことがあります

例えば、ある私有地の擁壁などが危険な状態となっている場合に、行政が規制権限を行使してその状態を是正させる義務があったにもかかわらず、それを行わなかったために事故が起きたような場合です。

ただし、後述のとおり賠償責任が認められるためのハードルは高いといえます。

不作為による違法行為

行政が故意または過失により違法行為を行い、これにより損害が生じた場合には、行政が損害賠償責任を負います。

国家賠償法第1条第1項
 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

この規定は、基本的には行政が違法な行為を行った場合に適用されますが、行うべき行為を行わなかった場合(不作為といいます)にも適用されることがあります。

後者の典型例は、ある場面である行為を行うことが法律上行政に義務付けられている場合です。
例えば、法律上「市町村は、○○の場合には、●●をしなければならない」と定められている場合。この場合、行政の不作為が違法であることは明らかです。

作為義務

このように、行政の不作為が違法であるというためには、法律上、一定の作為を行う義務(作為義務といいます)が課されている必要があります。
行政が作為義務に違反したと認定されて、はじめてその不作為が違法となるわけです。

しかし、行政の規制権限の場合は、法律の規定上作為義務が明確でないことがあります。

行政に規制権限が与えられている場合の法律の規定は一般的に「市町村は、○○の場合には、●●をすることができる」とされているのです。
具体的には、「許可条件に反していたことが判明した場合は、その許可を取り消すことができる」といった具合です。

このような規定の場合、一般的には、行政がその行為(許可取消処分など)を行うかどうかは行政の裁量に委ねられているものと解釈されています。

行政裁量の壁

これを行政裁量といいます。
法律の規定上は規制権限を行使するかしないかを行政の裁量に委ねているわけですから、ある場合に規制権限を行使すべきという作為義務は当然には認められません。

多くの国賠訴訟でもこの行政裁量が大きなハードルとなっています。
判例では、行政がその裁量を逸脱・濫用して規制権限を行使しなかった場合(※)には行政の不作為が作為義務違反として違法となるとされていますが、そのような例は少数です。

※一般的には、危険が切迫していたか、危険を予見できたか、行うべき行為を行っていれば結果を回避できたか、結果を回避するための他の方法がなかったか、などの事情を総合考慮して判断されています。

因果関係の壁

また因果関係の問題もあります。
つまり、適切な規制権限を行使していれば事故は起きなかったといえるか、という問題です。

因果関係の議論は「仮に規制を行っていたらどうなっていたか」という仮定の話である以上、この点の立証のハードルも高いものとなります。

※なお、行政裁量が問題となる事例では、実際には因果関係に関する議論の多くの部分は作為義務の議論の中(結果回避可能性の部分)に含まれて判断されています。

立証責任

そして、(これは他の類型の賠償請求でも同じですが)以上の立証責任は全て原告側(被害者側)が負います。
つまり、全てを立証しなければ賠償請求は認められません。

このように、行政の規制権限の不行使の責任を問うためのハードルは非常に高いものとなっています。


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