企業法務

アルバイトに有給を与えることで、発生するコストについて。


法律上、従業員には有給休暇を付与して使わせなければなりません。
これはアルバイトスタッフであっても同じです。

ところが、このことを説明すると、「金銭的な余裕がない」「ただでさえ少ない人数で回しているのに急に有給で休まれたら店が回らない」との返答がよくあります。

では、ちゃんと有給休暇を付与して使わせることが、そんなに大変なことなのか。
今回はこの点について見てみます。

結論としては、金銭コストは割合的に見て大したことなく、また人員不足の問題も、計画的なシフト調整で対応可能です。
経営に及ぼすダメージはさほど大きくありません。

以下、有給休暇に関する法律の規定、有給休暇を付与した場合に増える金銭的コスト、人員不足問題を避けるための方策について詳しく説明します。

 

アルバイトの有給休暇に関する法律の規定

労働基準法(労基法)の規定では、雇い主は、雇用から6か月以上継続して勤務する従業員に対しては、毎年有給休暇を付与しなければなりません(労基法39条1項、2項)。

これはフルタイムのいわゆる正社員だけでなく、パート・アルバイト従業員であっても同様です。
ただし、出勤日数に応じて付与される有給休暇の日数は減ります(労基法39条3項)。

付与する日数

契約で決まっている1週間当たりの勤務時間が30時間未満で、かつ1週間当たりの勤務日数が4日以下(または年間の勤務日数が48日~216日まで)の場合は、最低限、以下の表のとおりの日数の有給休暇を、毎年付与しなければなりません(労基法39条3項、労基法施行規則24条の3)。

アルバイトの有給休暇付与日数

厚生労働省のwebページより)

支払う金額

では、従業員が有給休暇を使って休んだ場合には、その従業員にはいくらを支払えばよいのでしょうか。

「当然、出勤した場合と同じ金額ではないのか?」とお思いかもしれません。
もちろん、それでも間違っていません(むしろ、私としてはそれをお勧めします)が、計算方法はほかにもあります。念のため簡単に見てみましょう。

支払金額の計算方法については労基法39条7項、労基法施行規則25条で定められており、次の3つの計算方法があります。

  1. 平均賃金
  2. 通常の勤務をした場合に支払う通常の賃金
  3. 健康保険法に定める標準報酬日額

どの計算方法にするのかは、就業規則・賃金規程で定めておきましょう。

このうち、私がお勧めするのは2の通常賃金
理由は、計算が簡単だからです。

金額は、通常どおり勤務していたら支払われる金額です。
つまり、単にその日を出勤扱いにすればOKということ。

確かに、通常は2の計算方法が金額が一番高くなりますが、アルバイト従業員の給与額であれば後述のとおり大きな差にはなりません。

なお、1の平均賃金ですが、言葉からイメージする計算方法とは大きく異なりますので注意。
平均賃金の計算方法は労基法12条に規定されており、直近3か月間の賃金総額を暦上の日数で割るのが原則です(詳しくはこちらのページ(平均賃金について【賃金室】 | 神奈川労働局)などをご参照)。

アルバイトのように月の勤務日数がフルタイムの人よりも少ない場合には、計算上金額が少なくなってしまい、2の通常賃金の6割程度まで下がることがあります。

また、上記の計算が少し面倒なうえに、平均賃金が毎月変わり得るわけですから、従業員が有給休暇を取得するたびに計算しなければならず管理の手間もかかります(この点は専用ソフトがあれば全く問題ありませんが)。

(3の方法は、アルバイトの場合にはまず使われない計算方法なので省略します。)

よって、単にその日を出勤扱いにすればOKという2の通常賃金で計算することをお勧めします。

 

実際に有給休暇を付与してみると…

前置きが長くなってしまいましたが、ここで、実際に有給休暇を付与してみた場合の金額をシミュレーションしてみます。

仮に、次の条件のアルバイトスタッフを考えてみます。

  • 時給1,500円
  • 勤務時間は1日7時間
  • シフトは基本的に週3日
  • 現在、勤続3年6か月

単純化するため、諸手当は考えないこととします。また、今まで事前に決めたシフトには8割以上出勤しているという前提で考えます。

前記の表によれば、付与される有給休暇は8日。
これを、シフト上休みにしていた日や、夏休み・冬休みの期間に割り振って充てたものとします。

この人の、年間を通しての出勤日数が週3日だったとして、年間52週とすると、年間の給与総額は、

1,500(円/時間)×7(時間/日)×3(日/週)×52(週/年)=1,638,000(円/年)

となります。

これに加え、シフト上休みだった日に有給休暇を付与・取得したとすると、増える金額は、

1,500(円/時間)×7(時間/日)×8日=84,000円

になります。

つまりこの場合、給与総額の5%が新たな負担ということになります。

(まぁこれを多いと考える人もいるかもしれませんが、当然ながら有給休暇の付与は法律上の義務だということは忘れてはなりません。)

 

自由に取得されては困る?

では実際に有給休暇を付与するとして、どのように使わせればよいのでしょうか。

もちろん、原則として従業員が「有給を使いたい」と言った日に使わせなければなりません(労基法39条5項本文)。

※例外として、その日に使わせることが事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は別の日に変更させることができます(これを時季変更権(同項ただし書き)といいます)が、裁判例上、そう簡単には認められていません。

とはいっても、ギリギリの人数でシフトを組んでいるのに急に「明日は有給を使わせてください」と言われても困ります。

そこで、シフトを決める際に、事前に従業員と話し合っておくのがよいでしょう。

そもそも週3などで勤務している従業員は、休みたい日にはもともとシフトを入れません。そこで、例えばシフトを決める際に、休む予定の日についてあらかじめ「来月の○日は有給ということにしましょう」と話し合っておくのです。

また、お盆や年末年始などにある程度長期に休む期間があるなら、そこでまとめて有給を消化してもらうことも考えられます。

さらに、病気などでやむを得ず欠勤してしまった日があれば、後からその日を有給だったことにすることも可能です(雇い主としてはそのようにする義務はないのですが、雇い主側がそのような取扱いを認めることは違法ではありません)。

以上のような運用をしておけば、業務へのダメージは抑えられるでしょう。

※ただし、それでも従業員が急に「明日は有給を使わせてください」と言ってきた場合は、法律上は拒否できないのが原則です。このリスクは、日ごろの信頼関係により回避するほかありません。

 

まとめ

以上のとおり、金銭コストは人件費の割合的に見て大したことなく、また人員不足の問題については計画的なシフト調整で対応可能です。
経営に及ぼすダメージはさほど大きくないといえるでしょう。

また、あえて表題で「有給を与えることで発生するコスト」と表記しましたが、コストうんぬん以前に法律上の義務です。
有給休暇は法律上当然に付与されるものであり、使わせないことは労基法違反です。

無視し続けていれば、場合によっては、従業員の退職時にまとめて有給申請されることもあります(例えば「来月末で辞めます。ただし明日からは出勤しません。残りの日数はたまってる有給●日分を充てます」と言われてしまうケース。これでもし有給休暇分の給与を払わないと賃金未払いの問題となり、労働基準監督署がすぐに動きます)。

労基法の話など知らない従業員も多いでしょうが、ネットにより知識を得ている人も増えてきているはず。
もし「アルバイトでも有給ってもらえるんですよね?」ときかれたら、どんな顔をしてどう答えますか?


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