不動産取引

過去の浸水事故についての説明義務違反により、売主・仲介業者が損害賠償義務を負うとされた事例

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不動産の売買契約において、売主や仲介業者は買主に対し、重要事項について調査・説明する義務を負っています。

この義務に反して、重要事項を説明(告知)しないまま契約を締結し、買主に損害を与えた場合には、売主や仲介業者は債務不履行または不法行為による損害賠償責任を負います。

今回はその一つの事例として、東京地裁2017年(平成29年)2月7日判決を紹介します。
過去に対象物件の地下駐車場にて大雨による浸水があったのですが、売買契約に先立ち売主・仲介業者がその事実の調査・説明を怠ったために、買主に対する損害賠償責任が認められた事例です。

 

事案の概要

事実関係

原告がマイホームとして地下駐車場付きの中古戸建物件を購入したところ、購入後、地下駐車場に雨水が流れ込むということがありました。

その物件では過去にも同様のことがありましたが、契約に際してそのことを売主業者と仲介業者は告知していなかったため両者に対して買主が損害賠償を求めた、というのが本件です。

なお、本件では隣地の越境についても損害賠償を請求していましたが、この記事ではその点は割愛します。

判決において認定された事実関係はこちら。
(原告:買主、被告1:仲介業者、被告2:売主業者、D・E:被告1の従業員)

  • 地下駐車場と建物出入り口との間に敷居があったことから、内見の翌日、原告は担当者Eに、駐車場内の排水の状況を調べてほしいと伝えた。
  • これを受け、翌日、D・Eは市役所にて調査を行い、当該街区には浸水履歴があることが分かった。
    また、Dが被告2(売主業者)に浸水履歴について問い合わせたところ、「平成17年に発生した大雨の際にも浸水はなかった」との説明を前所有者(被告2の前の所有者)から受けたとの回答を得た。さらに、D・Eは、本件地下駐車場の入口に設置された排水ポンプの動作確認作業を行い、正常に作動することを確認した。
  • これらを踏まえ、Eは原告に対し、地下駐車場の排水状況は問題ないことや、平成17年の大雨の際にも地下への浸水はなかったことを伝えた。
  • その2日後である平成25年12月11日、原告は被告1の店舗において契約手続を行った。
    なお、重要説明事項書及び物件状況確認書(告知書)には、過去の浸水履歴についての記載はなかった。
    またその際、被告2(売主業者)の担当者は、本件不動産の浸水被害については、今まで浸水被害に遭っていない旨説明した。
  • 原告が本件不動産を購入した後、少なくとも平成26年7月24日及び同年9月10日、本件地下駐車場に雨水が流入するという浸水事故が発生した。
  • その後、原告が市に対して情報開示請求を行ったところ、平成17年9月4日に地下駐車場において浸水事故があった旨回答した。

なお、売主となった被告2は過去の浸水事故のことを知らなかったようです(その前の所有者の時代の出来事なのでしょう)。

請求の内容

上記の事実関係をもとに、原告は、被告らの説明義務違反によって次の損害が生じた、として合計約1750万円のうち1663万円を被告らに請求しました。

  • 新たに必要となった止水板設置工事費用 526万1760円
  • 本件を前提にした再評価額と売買代金との差額 535万円
  • 自動車の修理費用 35万9560円
  • 慰謝料 500万円
  • 弁護士費用 150万円

 

判断

説明義務違反について

判決ではまず、どのような場合に浸水履歴の説明義務があるのかについて、以下のとおり述べています。

浸水事故が発生するような場所的・環境的要因からくる土地の性状は、その地域の一般的な特性として、当該土地固有の要因とはいえない場合も多い上、そのような性状は、同土地の価格形成の要因として織り込まれている場合も多いと考えられるのであるから、浸水履歴について説明義務があるというためには、浸水事故が発生する可能性について説明義務があることを基礎づける法令上の根拠や具体的事情等があり、また、そのような事態の発生可能性について、仲介業者等が情報を入手することが可能であることが必要と解される。

そのうえで、以下のとおり述べ、本件では説明義務違反があったと判断しました。

ポイントとなったのは、

  • 原告(買主)が地下駐車場への浸水について懸念を示していたこと
  • 被告1(仲介業者)が調査した結果、同一街区にて浸水事故があったことが判明していること
  • 対象物件の地下駐車場には過去に浸水事故があったことを推察させる設備があったこと
  • 被告2(売主業者)は市役所への情報開示請求制度により容易に浸水履歴を入手できたこと

といった点です。以下、判決を引用します。

本件においては、前記……のとおり、原告は、本件不動産の内見の翌日、本件地下駐車場と建物出入口との間に設置されている敷居につきEに問い合わせた際、本件地下駐車場への雨水の流入について懸念を示しており、被告1(仲介業者)としては、本件不動産の浸水事故に関する原告の上記懸念を十分理解していたものといえる。
また、被告1(仲介業者)は、原告からの上記指摘を受けて、実際に三鷹市役所へ問い合せ、少なくとも本件不動産所在の街区に浸水履歴があるとの回答を得ていたのであるから、本件不動産についても浸水事故発生の可能性があることを認識し得たものと解される。
そして、これらの事情に加え、本件地下駐車場の入口には排水ポンプが設置され、本件地下駐車場と建物出入口との間に敷居が設置されるなど、本件地下駐車場への雨水流入に対する対策とも考えられる設備が備え付けられていることに鑑みるならば、被告らには、本件不動産の浸水履歴につきさらなる調査をし、正確な情報を原告に説明すべき義務があったというべきである。
さらに、前記……によれば、本件不動産の所有者であった被告2(売主業者)は、情報開示制度を利用して本件不動産の浸水履歴を容易に入手することができたと認められることを併せ考えると、本件売買契約締結に際し、被告らが、本件不動産所在の街区には浸水履歴があることを説明しなかったのみならず……前記……のとおり、被告2(売主業者)の前所有者の浸水事故はなかった旨の説明をそのまま信じ、本件不動産については、今まで浸水被害に遭っていないとの事実に反する説明をしたことについては、上記説明義務の違反があるといわざるを得ない。

(中略)

以上によれば、被告らによる本件不動産の浸水履歴に係る説明義務違反が認められるから、本件売買契約上の債務不履行ないし、不法行為が成立するというべきである。

(注:当事者名は編集、証拠の標目は削除、適宜改行・下線を追加。以下同じ。)

損害額について

このように債務不履行または不法行為により損害賠償責任を負うことを前提に、さらに、その損害額については以下のとおり判断しました。

まず、止水板設置工事費用及び評価損については「被告らには、本件不動産の浸水被害につき説明義務違反が認められるところ、原告は、同義務違反により、本件売買契約締結に際し、同浸水履歴及び浸水被害の対策のための工事費用を考慮して価格交渉する機会を奪われた」として、また自動車の修理費用については、「被告らによる本件不動産に係る浸水履歴の説明が尽くされていれば、原告は事前にその対策をとることが可能であった」として、それぞれ請求の一部が認められました。

請求が認められた金額は次のとおりです。

  • 止水版設置工事費用 212万6000円
  • 本件を前提にした再評価額と売買代金との差額 274万円
  • 自動車の修理費用 35万9560円
  • 慰謝料 なし
  • 弁護士費用 52万円(上記合計の約1割として)

結論

以上の合計として、損害賠償額として574万5560円が認められました。

 

コメント

説明義務が生じるとした根拠

本判決はあくまで本件の事例に基づく判断でですが、上記で挙げた一般論の部分は参考になるかと思います。

再度引用しますと、

浸水事故が発生するような場所的・環境的要因からくる土地の性状は、その地域の一般的な特性として、当該土地固有の要因とはいえない場合も多い上、そのような性状は、同土地の価格形成の要因として織り込まれている場合も多いと考えられるのであるから、浸水履歴について説明義務があるというためには、浸水事故が発生する可能性について説明義務があることを基礎づける法令上の根拠や具体的事情等があり、また、そのような事態の発生可能性について、仲介業者等が情報を入手することが可能であることが必要と解される。

と述べているとおり、一般的には、浸水事故はその物件単独の問題というよりもその地域の問題(例えば、低地で水が流れ込みやすくなっている地域であるなど)であって、かつ、そのように「浸水しやすそうな地域」の場合には通常はその事情が価格に反映されているだろう、ということが前提となっています。

すなわち、(自殺や殺人事件の履歴のような場合とは異なり)一般論として浸水事故の履歴についても説明義務があるわけではない、ということを前提にしているようです。

そのため、説明義務があるというためには、①説明義務を基礎づける法令上の根拠、または②説明義務を基礎づける具体的事情があり、かつ、③浸水事故の発生可能性について仲介業者等が情報を入手することが可能であることが必要だ、としています。

このうち①については、現状では浸水履歴そのものは重要説明事項に含まれておりませんので、①の法令上の根拠は認められません。

他方、②については、前記のとおり原告(買主)が懸念を示していたことや、地下への水の流入防止のための装置が実際に備え付けられていたこと、仲介業者の調査の結果、対象地の街区で過去に浸水事故があったことが判明したことなどの事情が、説明義務を基礎づけるものと判断されています。

そして、③については、実際に原告が購入後に開示請求を行うことで容易に過去の浸水履歴が判明したわけですから、当然、当時の所有者であった売主業者においてもこの情報を入手できたわけです。

その結果、上記の事実関係のもとでは過去の浸水履歴についてもさらに調査し、原告に説明する義務がある、と判断されました。

判決をどう見るか

本件では、過去の浸水事故は被告2(売主業者)が購入する前の話だったようであり、それについてまで調査・説明義務を負わせるのは酷ではないか、とも考えられます。
また、浸水履歴については、宅建業法や施行規則における重要説明事項の範囲には含まれていません。

しかし、過去の浸水事故を疑わせるような事情があり、また買主が実際にそれを懸念していたのを聞いていたという事情があったわけですから、売主はもちろん仲介業者の責任が認められたのは妥当です。

どのような事情があればどこまでの調査・説明義務があるのか、の法的な限界はケースバイケースになってしまいますが、通常の人なら気にするはずの事情や、顧客が特に気にしている事情については可能な範囲で調査・説明しておくのが無難ですね。

なお、たまに誤解されている方もいますが、宅建業法35条などに規定される仲介業者の説明義務(重要事項説明義務)と、損害賠償責任を基礎づけるような説明義務(民法における説明義務)とは範囲が異なります(基本的には後者の方が広い)ので、注意が必要です。
安易に「重説事項の範囲外だから調査・説明は不要」と判断しないようにしましょう。


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