印鑑の種類(認印・実印・角印・丸印・ゴム印(シャチハタ))について

本日は印鑑について。

印鑑といえば、個人ではシャチハタ、認印、実印、会社では角印や丸印など、様々な印鑑が登場します。
そのため「この書類にはどの印鑑を押したらいいの?」と悩む場面もあるかと思います。

それぞれの印鑑は、どのような場面で使うのでしょうか。また印鑑には何か法的な効力があるのでしょうか。

これらの点については以前の記事(ハンコの法的効力)にも説明しておりますが、個人の依頼者の方や会社の法務担当者の方(特に経験の少ない方)からのご質問が多いため、再度まとめたものを今回ご紹介します。

なお、押印の仕方(消印、割印、契印の違い)については、以前にまとめたこちらの記事(あなたの契約書は大丈夫?①)をご参照ください。

 

印鑑に関する基本的な用語

最初に、印鑑にまつわる基本的な用語をここでおさらいしておきましょう。

印章:いわゆるハンコの本体ことです。木やプラスチック、金属などでできています。
印影:ハンコを押した結果紙におされる模様のことです。
印鑑:印影の一覧の名簿です。どの印影が誰のものか分かるようにするためにまとめられたものです。

よくハンコの本体のことを印鑑と呼びますが、実は、本来の用語の意味としてはこれは正しくありません。

ただし、以下では分かりやすいようにこの一般的な用法に従い、特に断りがない限り、ハンコ本体のことを「印鑑」と呼んで説明します

 

印鑑の種類と用途

まずはそれぞれの印鑑の種類と、代表的な用途についてです。

シャチハタ(ゴム印)

印影はだいたいこんな感じ。

用途:簡単な文書や、宅配便の受取書、 FAXで送る注文書など

スタンプのように押すタイプで、本体の中にインクが入っていることが多いです。表面がゴム状の樹脂でできています。
(※なお、一般的にこのタイプを総称して「シャチハタ」と呼ばれることが多いですが、正しくは、そう呼んで良いのは「シヤチハタ株式会社」製のゴム印のみです。)

全く同じ形のものが大量に出回っており、また押すときの強さにより印影も異なることから、契約書などの正式な文書には使えません。

認印に使われる普通の印鑑(三文判など)

印影はだいたいこんな感じ。
姓(苗字)のみのタイプが多いと思います。

用途:認印(みとめいん)として通常の契約書、申込書など正式な文書など

木やプラスチックなど硬い素材でできている印鑑です。特に名前がないため「普通の印鑑」としかいいようがないのですが、特に安いものは三文判と呼ばれます。
認印として、個人の方が接する通常の契約書や申込書などに使われることが多いです。

日常生活で「押印してください」と言われたら、ほとんどこのタイプを使うことになるでしょう。

他方、以下のようにフルネームが入ったタイプもあります。

実印として登録するのはこのタイプが多いです。また女性の方は姓が変わる可能性を考えて下の名前だけにすることもあります。
後ほどご説明しますが、このタイプの印鑑でも、実印として登録していなければ扱いは「認印」です。
(※認印と実印の違いについては後述します)

角印

法人で使われる印鑑で、このように四角く配置された印影です。「株式会社○○」「株式会社○○之印」などと社名が彫られるのが一般的です。
一辺がだいたい25mm以上と、サイズは比較的大きめです。

用途:法人の認印として契約書や領収書など

次の「丸印」と併せて「社判」「社印」と呼ばれることもあります。
また、このような印影でゴム印を作ることもあります。

丸印(代表印)

こちらも法人で使われる印鑑で、丸型のものです。
直径は20mm~25mmくらいで、外側には会社名、内側には「代表取締役印」「代表者印」などと彫られるのが一般的です。

用途:法人の実印(登録印)として、重要な契約書、議事録、登記申請書類など

このタイプが実印として登録されることが多いです。

代表印とも呼ばれます。

その他

その他、職業の肩書きを付した職印(「弁護士関口郷思之印」など)や、公文書に使われる公印(四角いタイプで「○○市長之印」など)、天皇陛下が詔書に使う御璽(非常に大きい四角のタイプで「天皇御璽」)など様々なものがあります。

まず使うことがないので説明は割愛。
その他拇印(指印)については後述します。

 

実印・認印

上記のような形状の分類とは異なり、実印か認印かという分類もあります。

実印と認印の違い

実印とは、市町村(個人の場合)または法務局(法人の場合)に登録した印鑑のことをいいます。

他方、実印以外の印鑑を一般的に認印といいます。

重要なのは、実印として登録したものが実印であるという点です。
どんな簡単な印鑑でも登録すればそれが実印になる一方で、どんな仰々しい印鑑でも登録しなければそれは認印です

なお、法人の場合は登録(届出)が必須ですが、個人の場合には必須ではありません。

実印であることの意味

実印として登録すると、「印鑑登録証明書」(個人)や「印鑑証明書」(法人)によって、その印影が自分のものであることを市役所や法務局が証明してくれます。

そして、この印鑑(登録)証明書は本人でないと取れません。
(証明書の取得には、個人番号カードや印鑑カードが必要です)

そのため、実印を押した文書と証明書がセットになることで、「この文書に押された印鑑は本人のものである」ということの強い証明となり、ひいてはそれが「この文書は本人が記載したものである」ということの強い証明となります。

このように、実印は証明書とセットでなければ意味がないという点にご注意ください。
証明書がなければ、扱いは認印を押したのと同じです。

用途

不動産登記や法人登記の申請、自動車の所有権移転登録などの一部の手続では、法令上実印が要求されます。

また、契約において本人確認が重要だと相手方が考えれば、実印が要求されることもあります。
(不動産の賃貸借契約や、ローンの契約の際に要求されることが多いです)
上記のとおり実印は印鑑(登録)証明書とセットでないと意味がないので、「実印を押してください」と言われたら「併せて印鑑(登録)証明書も取ってきてください」という意味ですから、ご注意ください。

 

銀行印

なお、「銀行印」というのも聞いたことがあるかと思いますが、これは特別な印鑑ではありません。
銀行との間の取引に使う印鑑として、あらかじめ銀行に登録した印鑑のことを銀行印といいます。

預金の引き出しや振込など、その銀行との間の取引においてはこの銀行印を使わなければなりませんが、それ以外で使うことはありません

はんこ屋さんなどでは、三文判よりも少し大きな印鑑を銀行印として作ることもありますが、実印と同じ印鑑でも、三文判でも問題ありません。
法人では、丸印を銀行印として使う例もあります。

 

印鑑自体に特別な法的効力はない

さて、契約書についてよく聞かれる質問で「契約書に印鑑を押していない場合は契約は無効ですか?」というのがあります。

これに対しては「署名があれば、印鑑の有無にかかわらず有効です」と回答することになります。

実は、原則として印鑑自体には何か特別な法的効力があるわけではないのです。
署名があればそれで十分なんです。

契約が有効に成立したかどうかという問題は、あくまで「当事者間で○○という合意がなされたかどうか」の事実認定の問題です。
一方、本人の署名があれば、合意が書面に表れていることは間違いないわけですから、印鑑がなくとも契約は有効に成立します。

さらにいえば、契約書などなくとも、口頭や、メール・LINEでのやり取りであっても、そこで合意がなされれば契約は有効に成立するのです。
つまり、何らかの方法で合意が成立していればよいわけで、それが印鑑である必要など全くありません

このように、印鑑の有無と契約の効力は、理論的には全く別次元の話なのです。

これは実印であっても同じで、実印を押してあるということは、単に本人が押したという強い証明力がある、というだけなのです。

※ただし、中には例外的に、署名があっても押印がなければ法律的な効力が発生しない書類もあります(遺言書など)

 

結局、印鑑って何のため?

法的な効力とは関係ないのであれば、日常生活において印鑑が使われているのは一体なぜなのでしょうか。

確かに、次の2つの場面に限っては印鑑を押す意味はあるかと思います。
・名前の部分が記名(プリンタでの印字やスタンプなど)であるため署名の代わりに印鑑を押す、という場面
・本人が自分の意思で押印したことの証拠を特に残すために実印を押させる、という場面

しかし、それ以外の場面においてはどうでしょうか。

自筆の署名があるのにさらに印鑑を要求する意味は?
シャチハタがダメな一方で、どこの100円ショップでも売っているような三文判でもOKという意味は?
――と考えるとよく分かりません。

そもそも、ほとんどの外国には印鑑という文化がありませんしね。

身も蓋もない言い方をしてしまうと、私は、結局のところ感覚的なものに過ぎないのだと思います。
つまり「何となく印鑑が押してある方が正式っぽい・信用性が高そう」という(日本独自の)感覚です。
この感覚に基づいて、会社や役所などでは内部規則により印鑑が要求されているわけです。

なので、結局どの印鑑を押すのが正解か?という問いには、深く考えてもあまり意味がありません。
内容のない答えになってしまいますが「その会社なり団体の規則に従っておけばいいんじゃないか」と思います。

※なお、前項で「印鑑自体には法的効力はない」と説明しましたが、契約等の法的効力とは別の話で、刑法の文書偽造罪においては押印の有無によって扱いが変わります。
押印がない文書を偽造した場合(私文書・公文書偽造罪)に比べ、押印がある文書を偽造した場合(有印私文書・公文書偽造罪)の方が刑が重くなっているのです。
これは、押印がある文書の方が一般に信用性が高いと考えられていることから、より信用性の高い文書を偽造した場合にはより重い刑を科すべき、という考え方によるものです。

 

余談

余談その1。
100円ショップの三文判なんか押させるくらいなら、指印(拇印など)の方がよっぽど確実で意味があるのでは、とう疑問もあるかと思います。

私もそう思うのですが、一部の状況を除いては、なぜか指印は一般に不可とされています。
その理由は「指紋鑑定など手間のかかる方法でないと同一性を確認できないから」だそうですが、それならなぜ(機械的に大量生産されている)100円ショップの三文判はOKなのでしょうか…

そう考えると、世の中の印鑑に関するルールはやはり不合理に思えてなりません。

余談その2。
なお、上記の「一部の状況」とは、逮捕・勾留されていて留置場や拘置所にいる場合です。
この場合、通常は全ての押印を指印で行います。

利き手と反対側の人差し指で押すのが一般的です。

 

(※ハンコについて、法的な観点から掘り下げた記事をアップしました。あわせてご参照ください(ハンコ(押印)の法的な意味(1/4) なぜ人はハンコを押すのか))