交渉で言いくるめられないための3つのポイント(その3)

今回は、交渉で言いくるめられないためのポイント3つ目、「相手のペースに乗らない」についてです。

説明の便宜上これが一番最後になりましたが、実は一番重要なポイントです。
というのも、自分のペースを保てずに相手のペースに乗ってしまうと、簡単に「1.主導権を渡さない」「2.議論の軸をずらさせない」のテクニックにハマりやすくなってしまうのです。

相手は、意識的・無意識的にあなたの感情を揺さぶりペースを乱した上で、これまで説明したようなテクニックを使い、自分に有利な場に持ち込もうとしてきます。
そうならないためにも、相手の作戦に乗ってしまってはいけません。

では、あなたのペースを乱すためのテクニックとはどのようなものなのでしょうか。

1.相手はどのようなテクニックを使ってくるのか

後で冷静になって考えてみれば、相手の言っていたことがおかしいことだらけで、やはり自分の主張の方が正しかったことに気づくことがあります。
思い返せば、「相手のあの主張は論理的に間違っていると指摘できた」「あの主張にはこういう反論ができたのに」などと気づき、後悔したことはないでしょうか。

では、なぜそのタイミングで適切な主張・反論ができなかったのでしょうか。

それは、あなたの冷静さが失われていたからです。

冷静さを失ってしまうと、相手の主張が論理的ではないことに気づけなかったり、すぐに適切な反論を組み立てることができなくなってしまったりします。
それに加えて、前々回(1.主導権を渡さない)で述べたような、主導権をにぎられてしまっている状況に気づけず追い込まれた状況になってしまったり、前回(2.議論の軸をずらさせない)で述べたような失言をしてしまい、相手に攻撃材料を与えてしまうことになってしまうのです。

このように、冷静さを失ってしまうと、どんな議論も自分に不利になってしまうのです。
そこで、相手はあなたの冷静さを失わせるためのテクニックを使ってくるのです。

では、どうやって冷静さを失わせるのでしょうか。

それは、「頭を感情が支配するような状況を作る」という方法です。
人は、怒りやいら立ち、恐怖、不安、焦りなどを感じると、その感情に頭が支配されて論理的に考えることが難しくなります。
そこで、上記のようなミスをしやすくなってしまいます。

そのため、相手は、わざとバカにしたような言い方をしたり、怒鳴ったり脅してみたり、あえて沈黙してみたり、早口でまくしたてたり、時間が無いことを強調したり、などといったテクニックを使ってくるのです。
ここで重要なのは、相手が怒鳴ったり早口でしゃべっていても、相手は常に(心の中は)冷静であるという点です。計算の上であえて感情的な表現をして、あなたが冷静さを失うのを狙っているのです。

2.議論における使われ方

実際には、さまざまな手法を混ぜつつ、随所に感情を揺さぶるテクニックを入れてくるものです。
例えばこんな感じです。

①いら立ちや怒りを誘う

関係ない点や些末な事がらについてネチネチ責め続け、怒りに任せた失言を誘う方法があります。
ほかに、「本当にまじめに考えてるの?」「軽く考えてるでしょ」と繰り返し、イライラして「当然でしょ!」と答えたところで「じゃぁ何でできないの?」と言って答えを詰まらせる、という場合もあります。
マスコミ向けの記者会見で、記者が挑発的な質問を行っているのを見たことはないでしょうか。あれも同じで、感情的になって失言をするのを狙っているのです。

②怒鳴ったり脅したりして、恐怖心を誘う

これは分かりやすいですね。
強烈に迫り主張の一部を認めさせた上で(例えば「責任は感じてます」「申し訳ないとは思っています」といった言葉を引き出させる)、そこから議論の本体を切り崩しにかかる方法です。

③沈黙により不安をあおる

相手が黙ってしまい、その沈黙に耐え切れずつい自分の方から言葉を発してしまうことはないでしょうか。
しかし、だいたいそういう時は、沈黙の不安によってあまり考えずに発言してしまうことが多いものです。また、つい相手に与えなくとも良い情報までしゃべってしまうこともあります。
結果的に、相手に付け入るすきを与えることになります。

④焦らせる

早口でまくしたてた上で返答を迫り、考える時間を与えないようにする手法です。または、無理やり「(今日は)もう時間がない」と期限を設定した上で、自分の結論(あるいはその一部)に同意を迫る方法です。
ついつい相手のペースに合わせて焦ってしまい、落ち着いて判断できなくなってしまいます。
これは、セールスにもよく使われる手法ですね。

3.対処法

なぜこのようなテクニックにより相手の思うつぼになってしまうのでしょうか。
それは、人には「無意識に相手の感情に合わせてしまう」という性質があるからです。

そこで、このテクニックに対処するには、まず常に自分の状態を客観的に把握しておくことが必要です。
とはいえ、これはなかなか難しいと思います。そこで、一つの方法として「自分の声の調子に注意してみる」という方法はいかがでしょうか。

感情的になってしまうときは、話すスピードが速くなったり、声が高くなったりしてしまいがちです。
そこで、「いつもより少し早口になってしまっているな」「いつもより声が高くなってしまっているな」と感じたら、あえてゆっくり話すようにしてみたり、低い声で話すようにしてみるのです。

また、沈黙の気まずさに耐え切れないと思った時は、こちらから何か話す必要は特になければ、あえてその沈黙に付き合うという方法が良いと思います。
「この沈黙は相手の作戦なんだ」と思えれば、沈黙の気まずさにも耐えられるかもしれません。

まとめ

以上、3回にわたって厄介な交渉相手の手口をお伝えしてきました。

もっとも、今回の記事でお伝えしたとおり、一番重要なのは今回お伝えした「相手のペースに乗らない」(=冷静さを失わない)ことです。
その上で、論理的な議論から外れないようしっかりとコントロールすることが、議論・交渉で失敗しないコツだと思います。