建築トラブルの時効について

※以下の記事は2017年当時の民法を前提としており、2020年施行の民法改正を反映していませんのでご注意ください。
(近日中に改定予定です)

建築工事に瑕疵があった場合、請負人である施工業者は、瑕疵担保責任として、損害賠償や修補工事などの責任を負うことがあります。

ただし、施工業者はこれらの責任を永久に負い続けるわけではありません。法律の規定により責任の存続期間が限られており、定められた期間が経過すると責任は消滅します。

しかし、その存続期間は、工事の対象物や瑕疵の内容などによってそれぞれ異なっているため、一概に「建築トラブルに関する時効は●年です」と説明できるものではありません。
そのため、施工業者側としては、いつまで責任を負い続けなければならないのか不安を感じていることと思います。
実際に、「こういった工事の場合はいつまで責任を負うのですか?」というご相談は多くあります。

そこで、今回は、施工業者の責任の存続期間について、場合を分けて見ていきたいと思います。
(なお、「そもそも瑕疵担保責任とは何か」についてはここでは割愛します。)

1.リフォーム工事の場合

内装のリフォームのような通常のリフォーム工事の場合は、基本的には契約書の定めに従います。定めがなければ、民法の規定に従い「引渡しから1年間」となります。

この期間内に権利の行使(損賠賠償や修補の請求)をされなければ、それを超えて瑕疵担保責任を負うことはありません。

ただ、注意点があります。
上記のとおり、契約により責任の存続期間を自由に定めることができるのが原則ですが、事業者と個人との契約などでは、消費者契約法により、民法の規定より短い期間を定めた契約が無効と判断されることがあります。
契約で期間を定める場合には、1年以上としておくのが無難です。

※なお、リフォーム工事であっても、増減築を伴うような大規模リフォームの場合には、次の新築工事の場合と同じ扱いとなることがあります。

2.新築工事の場合

新築工事の場合も基本的には契約書の記載が優先されます(後記3を除く瑕疵の場合)。

前述の消費者契約法の問題もあるため、民法の規定に合わせた(民法の規定を下回らないような)期間とするのが無難ですし、契約書のひな形もそのようになっています。

民法の規定では、木造の場合は引渡しから5年間、鉄骨造やコンクリート造の場合は引渡しから10年間とされています。

3.新築住宅工事の場合の特例

住宅の新築工事の場合にはさらに特例があります。

品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)の規定により、「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」の瑕疵については、その責任の存続期間は引渡しから10年間とされ、契約によってこれ未満の期間と定めることができません。
住宅の新築工事であっても、上記以外の瑕疵については2で述べたとおりです。

4.さらに長期間となる場合も

さらに、近年の判例(平成19年・平成23年の最高裁判例)によれば、契約の定めにかかわらず、存続期間が最長20年となる可能性も出てきています。

上記判例では、設計者・施工者の故意・過失により、建築された建物に「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」があり、これによって居住者等の生命・身体・財産が侵害された場合には、設計者・施工者は、不法行為責任としてその損害を賠償する義務を負う、とされています。

また、ここでいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命・身体・財産を危険にさらすような瑕疵をいうとされています。

これらの判例については別の機会に触れますが、この場合に施工業者が負う責任は、前記1~3の「瑕疵担保責任」ではなく、「不法行為責任」です。そのため、責任の存続期間は、工事の類型にかかわらず最大20年です。
また、不法行為責任の場合には、施主だけではなく、居住者や、施主から譲り受けた新所有者に対しても責任を負うことになります。

まとめ

このように、施工業者の責任は日に日に拡大化・複雑化しています。
当然、そもそも責任を負わないような工事を行うべきでありますし、契約において責任の範囲を明確化しておくことが大前提であることは言うまでもありませんが、いざという時に備え、まずは責任の存続期間を確認してみてはいかがでしょうか。