【民泊】 管理規約に違反して民泊を行う人に対する対抗手段について

今年6月に成立した住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)は、来年(2018年)6月15日に施行されることが決まっています。

一方で、マンションで民泊を行う人と他の住民との間のトラブルは絶えません。
民泊に反対の分譲マンションでは、管理規約を改正して民泊営業を明確に禁止するようにしています。

それでは、管理規約に違反して民泊営業を続けた場合、管理組合としてはどのような対抗措置をとることができるのでしょうか。

参考となる裁判例(大阪地裁2017年1月13日判決)を紹介します。

 

事案の概要

管理組合の代表者(原告)が、当時の区分所有者(被告)に対し、民泊営業の停止と損害賠償を請求した事案です。
以下、被告を”Y”と表記のうえ判旨を抜粋します。

民泊営業の実態

・Yは、2014年11月頃から、1日当たり15,000円で居室を賃貸する営業を開始し、その営業は、少なくとも2016年8月上旬ころまでの約1年9か月間続いた。

・利用者は、Airbnb等のインターネット上のサービスを通じて申し込んだ、2人から7人の外国人グループがほとんどであり、利用期間は長くても9日程度であった。

・居室は3LDKの間取りで、居住用のマンションに一般的に備えられている設備(水道、トイレ、浴室、給湯設備、ガスコンロ、エアコン等)を備えているほか、ベッド(フレーム及びマットレスのみ)も備え付けられいる。

管理規約の内容

・管理組合の管理規約では、2015年3月8日頃まで、専有部分の用途について次のとおり定められていた。

第12条 区分所有者は、その専有部分を次の各号に掲げる用途に使用するものとし、他の用途に供してはならない。
 一 住戸部分は住宅もしくは事務所として使用する
(以下略)

・2015年3月8日に管理規約第12条1号の内容が、以下のとおり変更された。
「住戸部分は住宅もしくは事務所として使用し、不特定多数の実質的な宿泊施設、会社寮等としての使用を禁じる。尚、本号の規定を遵守しないことによって、他に迷惑又は損害を与えたときは、その区分所有者はこの除去と賠償の責に任じなければならない。」

民泊営業によって生じた問題

・Yは、居室の利用者のために、マンションの東隣の建物の金網フェンスにつり下げられたキーボックスの中に居室の鍵を置き、居室の利用者に対しAirbnbからの案内メールを通じてキーボックスの所在を知らせるなどして、各利用者に居室の鍵を扱わせた

・居室の鍵は、本件マンションの玄関のオートロックを解除する鍵でもあり、居室の利用者が、鍵を持たない者を内側から招き入れることもあった。

・Yによる営業のため、本件マンションの居住区域に、短期間しか滞在しない旅行者が入れ替わり立ち入る状況にあった。

・旅行者が多人数で利用する場合にはエレベーターが満杯になり他の居住者が利用できない、利用者がエントランスホールにたむろして他の居住者の邪魔になる、部屋を間違えてインターホンを鳴らす、共用部分で大きな声で話す、居室の使用者が夜中まで騒ぐといったことが生じていた。

・大型スーツケースを引いた大勢の旅行者が、本件マンション内の共用部分を通るため、共用部分の床が早く汚れるようになり、清掃及びワックスがけの回数が増えた。

・ごみを指定場所に出さずに放置して帰り、後始末を本件マンション管理の担当者が行わざるを得ず、管理業務に支障が生じていた。また、ゴミの放置により害虫も発生していた。

・居室およびエレベーターの非常ボタンが押される回数が、月10回程度と多くなっていた。

管理組合とYとのやり取り

・管理組合はYに対し、2015年1月16日に「厳重注意連絡」の書面を送付し状況の改善を求めるとともに警告を行った。

・管理組合は同年3月8日に前記のとおり管理規約を改正した。

・Yが民泊営業をやめなかったため、管理組合はYに対し、同年5月18日に民泊営業の即時停止を求める勧告書を送付した。

・同年8月13日に、管理組合の代理人弁護士がYに対し、上記勧告書と同様の趣旨で、本件建物について管理規約に反する使用を停止するよう請求した。

・これらに対し、Yは同年8月26日付けの書面で、①本件建物の各使用者とは賃貸借契約を締結しており違法性はない、②旅館業法に違反しないことは大阪市保健所等に確認済みであり不特定の者を相手とする宿泊には該当しない、③Yは外国人にのみ賃貸しようとしているわけではないし、外国人が賃借すること自体は問題ないはずであるなどと回答した。

・翌2016年になり、管理組合が提訴。

・訴訟中である2016年10月に、Yは居室を売却したため所有者ではなくなった

 

管理組合による請求の内容

この訴訟で、管理組合はYに対し

・区分所有法第57条第1項に基づく民泊営業の停止
・管理組合が支出した弁護士費用のうち50万円の損害賠償

を請求しました。

なお前者の停止請求については以前の記事(マンションの廊下に物を置いてはいけません! 違反者への対処方法)でも取り上げましたので、以下に再掲します。

区分所有法第6条では、所有者または占有者は「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と定めています。

そして、ある所有者(区分所有者)がこの規定に違反した場合、他の所有者全員または管理組合法人は、次の措置をとることができます。

・その行為の停止などの請求(第57条)
・専有部分(居住部分)の使用禁止請求(第58条)
・専有部分(居住部分)の競売請求(第59条)

今回ではこのうち第57条の停止請求が行われました。

 

裁判所の判断

前記の事実を前提に、裁判所は以下のとおり判断して損害賠償請求のみを認容しました。

・停止請求について
「法57条1項は、『区分所有者』である行為者等を請求の相手方とするものであるから、区分所有権を失った者に対し同項に基づく請求をすることはできない。」

・損害賠償請求について
 Yの行っていた賃貸営業は、実質的には、インターネットを通じた募集の時点で不特定の外国人旅行者を対象とするいわゆる民泊営業そのものであり、約1年9か月の営業期間を通じてみると、現実の利用者が多数に上ることも明らかである。これについては、旅館業法の脱法的な営業に当たる恐れがあるほか、改正の前後を通じて本件マンションの管理規約12条1項に明らかに違反するものと言わざるを得ない。
 Yの営業が賃貸借の形式をとっているとしても許容されるものではなく、そのようなYの主張は採用できない。

 すべてが不法行為に当たるとまで言えるかはともかく、Yの行っていた民泊営業のために、上記……に記載したような区分所有者の共同の利益に反する状況(鍵の管理状況、床の汚れ、ゴミの放置、非常ボタンの誤用の多発といった、不当使用や共同生活上の不当行為に当たるものが含まれる。)が現実に発生し、原告としては管理規約12条1項を改正して趣旨を明確にし、Yに対して注意や勧告等をしているにもかかわらず、Yは、あえて居室を旅行者に賃貸する営業を止めなかったため、管理組合の集会でYに対する行為停止請求等を順次行うことを決議し、弁護士である原告訴訟代理人に委任してYに対する本件訴訟を提起せざるを得なかったと言える。
 そうすると、Yによる居室における民泊営業は、区分所有者に対する不法行為に当たると言え、Yは弁護士費用相当額の損害賠償をしなければならない。
 本件の経緯等にかんがみると、Yが居室を売却したことはYに有利な事情とは言えず、弁護士費用としては50万円が相当である。
 Yは、本件管理組合の理事や理事会の好みで区分所有者の経済活動が不当に制限されてはならないと言うが、上記のような事情の下では、Yの居室における民泊営業は、正当な経済活動の範囲を逸脱したものと言わざるを得ず、Yの主張は採用できない。

(※一部表記を修正しています。)

 

結論

長々と判決文を引用しましたが、結論としては「既に所有者ではなくなってしまったので停止請求は認められない」というオチでした。
そのため、Yが仮に所有者であり続けた場合に本件で停止請求が認められたのかどうかは分かりません。

ただし、本件での民泊営業について、他の住民に及ぼした影響や管理組合とのやり取りについて詳細に検討したうえで他の区分所有者に対する不法行為にあたると認定した意義は大きいです。
停止請求を行うための弁護士費用について損害賠償請求が認められたことを考えると、仮にYが所有者であり続けていれば停止請求が認められる可能性は十分にあったでしょう。
(もっとも、第58条の使用禁止請求や第59条の競売請求はさらに厳しい条件をクリアする必要があるため、本件のケースで認められるかは何ともいえないところですが)

管理組合としては、この停止請求が、規約に反する民泊営業をやめさせるための一つの有力な法的手段となります。

他方、民泊営業を行う所有者としては、いかに他の住民への影響を抑えるか、また管理組合との協議を誠実に行うかが重要になります。

2016年には同じ大阪地裁で民泊営業の差止めを認める仮処分命令も出ておりますし、今後も民泊に関する紛争は増加すると考えられます。
マンションの管理や民泊に関係する方は、引き続き、裁判例の動向に注意する必要があります。