あなたの契約書は大丈夫?④ 契約書に入れるべき条項について

前回までに、契約書の体裁、記載方法や記載内容について説明しました。

今回は、契約書にどんな条項を入れるべきかについて説明します。

ただし、ここで説明するのはあくまで契約一般に共通する点です。
契約の類型や当事者の属性などによっては、民法その他の法律によって特別の規定(内容を制限する規定)が適用されることがありますので、注意してください。

契約内容および代金

ほとんどの契約類型は「何かをもらい(してもらい)、その対価として代金を支払う」という内容ですから、まずはそれぞれの権利・義務についてしっかり定めることが必須です。
契約書の中核ですので、何があってもこの点だけはおろそかにしてはなりません。

契約の目的となる権利、依頼する業務の特定

何かをもらう、つまり何らかの権利を移転・設定する契約(売買や賃貸借など)でしたら、移転させる権利の内容や対象となる目的物を特定します。
内容が複雑であったり、事業譲渡のように対象物が多かったりするときは、別紙に記載する方法もあります。

また、権利の移転・設定の時期も特定する必要があります。

何かをしてもらう契約(業務委託や委任など)でしたら、依頼する業務の内容を特定します。
内容が特定できているかどうかは、何を依頼するのかという観点だけでなく、何を行ったら義務を果たしたといえるのかという観点でもチェックするとよいでしょう。

また、もし契約段階でまだ内容が確定していない(詳細を詰め切れていない)場合には、必ずその旨(「その他甲乙間で別途定める業務」など)を契約書に記載しておくようにしてください。
ただし、それでも契約書ではひとまず特定できるところまで特定しましょう。

代金の確定

代金についても、しっかり確定しましょう。

金額が確定しない場合は、計算方法を記載します。
計算方法すら確定していない段階で無理して契約書を作る意味はあまりありませんし、トラブルの元です。
基本契約でない限り「甲乙間で別途協議の上定める」という方式は避けましょう。

※基本契約とは、今後継続して行われる個々の取引などの契約(個別契約といいます)の、基本となる総則的な事項を定めた契約をいいいます。

また、代金の支払日、支払方法(銀行振込の場合には振込手数料をどちらが負担するか)や、支払いについて特殊な条件があればそれも記載します(何らかの書類や物と引き換えに支払う、など)。

 

付随する手続

契約の目的を達成するために、付随する手続を定めることがあります。

特に権利の譲渡を行う契約では、対抗要件(権利を譲り受けたことを第三者にも主張できる条件)を満たすための手続をきちんと定めましょう。

例えば不動産の売買であれば登記手続、自動車の売買であれば登録変更手続、株式の売買であれば株主名簿の名義書換手続に、それぞれ必要となる書類を交付する必要があります。
金銭債権その他の債権の譲渡であれば、譲渡人から債務者への通知(または債務者の承諾)が必要となります。

また、対抗要件以外にも、契約類型によっては契約の効力を有効にさせるための手続(取締役会や株主総会の承認決議など)が必要になる場合もありますので、これも必ず定めましょう。

これらの付随する手続に関する書類の交付などは、契約日に同時に行う場合のほか、事前事後速やかに行う場合があります。

 

契約期間・更新

売買契約のように1回の手続で終わる契約であれば問題ありませんが、関係が継続的に続くような契約であれば、期間について定める必要があります。

賃貸借契約をはじめとして、継続的に行う業務委託契約や委任契約などがよく見られます。

このような契約では必ず契約期間を定めるとともに、更新の有無・方法についても定めましょう。
例えば、契約期間が満了した場合に、

・契約は終了し、更新はしない
・契約は終了するが、合意によって更新することができる
・期間満了の●か月前までに更新しない旨の通知がなされないときは、契約は自動更新される

というパターンがあります。

また、なくても構いませんが念のため、「更新後の契約条件は従前と同一とし、以後も同様とする」というような内容の文言を入れておくとよいでしょう。

 

契約解除の条件

解除とは、契約関係を消滅させて契約前の状態に戻すことをいいます。
したがって、契約が解除により終了した場合には、受け取った物や代金を返還することになります。

契約書に何も定められていなくとも、一方が契約上の義務を履行しない場合には、相手方は民法の規定により契約を解除することができます。

第541条(履行遅滞等による解除権)
 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

ほかにも、さまざまな法律において解除権が定められています。

もっとも、実際にはこれ以外の場合にも解除できるよう、契約で解除権を定めることが多くあります。
相手方に信用上の不安が生じたときや、事前に開示された情報に嘘があったとき、相手方が反社会的勢力の一員であることが発覚したときなどがよくあります。
その他、その契約において重要となる事情が変化した場合には、解除できるようにしておくと有利です。

 

契約終了時・終了後の義務

前記「契約期間・更新」の項で述べたような継続的契約の場合には、契約終了時の義務を定めておくとよいでしょう。

預り金品の返還方法や、成果物が生じた場合の引渡義務・引渡方法などを定めます。

また、秘密保持義務や競業禁止義務(後述)を定めた場合に、それらを契約終了後にも存続させたいときはその旨も定めます。

 

違約金

相手方が契約上の義務を履行しない場合には、それによって生じた損害について、相手方に損害賠償責任を追及することができます(債務不履行責任。民法第415条)。

もっとも、具体的にいくらの損害が生じたのかについては損害賠償を請求する側が立証しなければならないため、立証が難しい場合には請求も難しくなってしまいます。

そこで、当事者間であらかじめ「債務不履行の場合の損害額はいくら」と定めておくことができます(民法第420条)。
一般に違約金と呼ばれます。

当事者間の合意ですから、違約金は自由に定めることができます。
不動産の売買契約では「売買代金の20%相当額」などと定められていますね。

ただし、いくら自由とはいっても、契約代金などに比べてあまりに高額な場合は公序良俗違反(民法第90条)として無効となる場合があります。
また、その契約に適用される個別の法律(例えば宅建業法や消費者契約法など)によって、違約金の上限が定められていることもありますので、注意が必要です。

 

暴排条項

現在では、各地の暴力団排除条例によって、この条項を入れることが多くなっています。

内容としては、暴力団等の関係者でないことの表明保証条項(後述)と、解除条項を定めています。

通常は以下のようなテンプレートをそのまま使います。

第●条(反社会的勢力の排除)
1 甲および乙は、本契約時において、暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動等標榜ゴロまたは特殊知能暴力集団その他これらに準ずる者(以下、「反社会的勢力」という。)のいずれでもなく、また、反社会的勢力が経営に実質的に関与している法人等に属する者ではないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約する。

2 甲または乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当する場合、何らの催告をすることなく契約を解除することができる。この場合、相手方に損害が生じてもこれを賠償することを要しない。
 ① 反社会的勢力に該当すると認められるとき
 ② 相手方の経営に反社会的勢力が実質的に関与していると認められるとき
 ③ 相手方が反社会的勢力を利用していると認められるとき
 ④ 相手方が反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供与するなどの関与をしていると認められるとき
 ⑤ 相手方または相手方の役員もしくは相手方の経営に実質的に関与している者が反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しているとき
 ⑥ 自らまたは第三者を利用して、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求行為、脅迫的な言動、暴力および風説の流布・偽計・威力を用いた信用棄損・業務妨害その他これらに準ずる行為に及んだとき

 

その他契約類型によって必要となる条項

ここで説明するのは、事業譲渡契約や株式譲渡契約などのM&A契約や、業務提携契約、共同開発契約など特別な類型の契約に必要となる条項です。

必要に応じて以下のような条項を定めましょう。
(ここに挙げるのは代表的なもので、契約類型によって必要な条項はほかにも多岐にわたりますのでご注意ください)

表明保証条項

前記「暴排条項」の項でも触れましたが、表明保証とは「ある事実が、契約時点で真実であることに間違いない」という旨を保証する条項です。

例えばM&Aの契約では、代金の決定は、売主の会社の各種内部資料(財務・法務その他営業に関する資料)を前提として行います。
そして、そのほとんどは売主が提供する情報です。

そのため、前提となる情報が間違っていたとしても、事前に買主には分かりません。
また、情報の間違っており、実は買収した会社は全く価値がないものであったことが後で発覚すれば、買主は多大な損失を被ることになります。

そこで、事前に提供した資料が真実であることを、契約に際して売主に保証してもらいます。
そのうえで、万一間違いがあった場合には契約を解除したり、損害賠償を請求したりすることができる旨を定めておく必要があります。

秘密保持義務

M&Aの契約や、業務提携契約、共同開発契約などでは、契約の締結やその履行に際して相手方の機密情報を知ることがあります。

そのため、契約に関連して知り得た機密情報を漏らしてはならないという義務を定める必要があります。
「どのような情報を漏らしてはならないか」という点も重要ですが、「どのような場合であれば情報を漏らしても問題ないか」(例えば、既にある情報が公開されている場合など)という点も定めておきましょう。

なお、本体の契約に加えて、秘密保持契約を別途締結することもあります。

競業禁止義務

競業禁止条項とは、相手方に、自分の事業と競合するような事業を行ってはならない義務を定める条項です。
通常は期間・地理的範囲などを限定します。

M&Aの契約などで定められる条項で、例えばAがBにある事業を譲渡した後に、Bの近くでAが再び同じ事業を始めてしまうと、せっかく買ったBは期待していた利益を上げられなくなってしまう可能性があります。

それを防止するために競業禁止義務を定める必要があります。

なお、一定の事業譲渡契約については、商法や会社法でも競業禁止義務が定められています。

 

その他の条項

契約上の権利義務に直接の影響はありませんが、地味に重要な条項ですので、多くの契約書には記載されています。

契約上の地位・債権の譲渡禁止

相手方の信用性などを前提に契約を締結している場合、むやみに第三者(相手方の債権者など)に契約上の地位や債権を移転されては困ることがあります。

そこで、同意なく契約上の地位や債権を譲渡してはならない、という旨を定めることがあります。

ただし、相手方が善意の第三者に無理やり譲渡してしまった場合には、その第三者にはこの条項を主張できないこともあり、100%無断譲渡を禁止できるわけではないので注意が必要です

なお、賃貸借契約における賃借人の地位のように、法律上譲渡が禁止されている(同意のない譲渡は相手方に主張できない)場合もあります。

誠実協議条項

例えば、「本契約の規定に関する疑義または本契約の規定に定めのない事項については、甲及び乙は誠意をもって協議する」というような内容の条項です。

法的には全く意味はありませんが、契約条項には何かと不備が生じ得るものですので、確認的にこのような条項を入れる例が(少なくとも日本においては)多くあります。
契約条項に定めのない事態が生じた場合は、この条項をもとに、相手方に協議を申し入れましょう。

なお、英文契約書においては、このような条項を入れるということ自体が契約書に不備があることを自認している、という状態を意味することになりかねませんので注意してください。

合意管轄・準拠法

ある法的な問題が生じて裁判となるときは、その問題をどこの裁判所が管轄するか(どこの裁判所に訴えなければならないか)は、民事訴訟法によって決まっています。

ただし、当事者が特定の裁判所を管轄裁判所にすることを合意していれば、その裁判所が管轄となります(「合意管轄」といいます)。
それを定めるのがこの条項です。
例えば「本契約に関する一切の紛争は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する」というように定めます。

詳細は割愛しますが、このように「専属的合意管轄」を定めるのが一般的です。

トラブルになったときに遠くの裁判所に行かざるを得ないのは手間がかかりますし(特に証人尋問などの際など)、何より弁護士に依頼した際の費用にも影響してきます。
そのため、なるべく自社の近くの裁判所にしておくとよいでしょう。

また、準拠法(どこの国の法律を適用するか)の合意についてですが、これは海外の当事者と契約する際に必須の定めとなります。
この定めが無くても契約の効力に影響があるわけではありませんが、紛争になった際に万一日本以外の国の法律が適用されるとなった場合、日本法しか知らない弁護士では対応できません。

外国法が適用されるとなると、全く予想外の結論となることもありますし、そもそもその国の法律に詳しい専門家を探す必要が生じます。

そのため、日本の会社が外国人・外国会社と取引する際には、なるべく準拠法を日本法をするよう交渉しましょう。