自宅の建設工事の振動で隣家に損害を与えた場合の責任

建物の新築工事や解体工事に際しては、騒音や粉じんの問題もさることながら、振動による被害の問題も無視できません。

地盤改良工事で地面を掘削したり杭を打ち込んだりする場合であったり、コンクリート造の建物なら躯体を破壊する場合には大きな振動が生じます。
もちろん、工事中にダンプカーやブルドーザーなどの重機が走行する際にも振動が生じます。

こうした工事の際、付近の地盤の状況や、近隣の建物の状態などによっては、近隣の建物の外壁にひび割れが生じるなどの損害が発生してしまうことがあります。

不幸にもこのような損害が発生してしまった場合、その責任は誰が負うのでしょうか。

施工業者が責任を負うのが原則

この場合、工事による振動と、隣家に生じた損害との間に因果関係があれば、不法行為責任(民法第709条)として損害賠償責任が発生します。

もっとも、民法第716条によりその責任を負うのは原則として施工業者です

民法第716条(注文者の責任)
 注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。

ということで、損害が生じた隣家の持ち主は、施工業者に対して損害賠償請求をすることになります。

と、これで話が終われば簡単ですが現実にはそう簡単ではありません。

最初に「因果関係があれば」と書きましたが、この証明は非常に難しいのです。
そして、損害賠償請求をするためには、隣家側が因果関係を証明しなければならないのです。

因果関係を証明するためには、ざっくりといえば「工事中に発生したこの振動が原因となって、家のこの部分にこういう損害が発生した」ことを証明しなければなりません。

 

なぜこの証明が困難か、その理由は次の点にあります。

まず、①まずそもそもそんなに大きな振動が生じるわけではないため経年劣化(自然損耗)との区別がつきにくい点があります。
(モルタルの古い外壁で既にヒビが入っていたような場合は、工事による振動でヒビが多少大きくなったとしても工事が原因とはいいにくいでしょう)

次に、②実際に発生した振動の大きさが測定できない点です。
工事中に測定器を設置して振動の大きさを記録していたのであれば別ですが、そうでない限り、発生した振動の大きさを裏付ける客観的なデータはありません。
同じ工事をもう一度再現するわけにもいきませんし。

さらに、③工事による振動が建物に及ぼす影響について、まだまだデータが少ないという点です。
地震による揺れの影響については膨大な研究データがありますが、①で説明したように、工事による振動はそこまで大きなものではなく、このような研究データはまだまだ少ないのが現状です。
また、一般的なデータがあったとしても、周囲の地盤の状況や隣家との距離、隣家の状態などによって隣家に及ぼす影響は異なりますので、一般的なデータのみで具体的事例の因果関係を判定することは困難です。

 

もちろん、そうはいっても損害賠償請求が不可能になるわけではありません。

厳密な検証をしなくとも因果関係が認められるケースはあります。
実際の裁判例でも、工事前後の隣家の状態について記録が残っており、経年劣化もみられず、かつ外壁の大きな損傷や建物の傾斜など明らかな損害が生じているケースでは、因果関係が認められる例もあります。

したがって、近隣建物の所有者としては、業者によるあいさつ回りなどの際に、事前に建物を確認してもらい記録を残しておくなどの対策が必要です。
自身で調査業者に依頼してこのような記録を残すという方法も考えられます。

他方、施工業者としては、建設業法や振動防止法に基づく規制(施工方法や振動防止措置など)を順守することはもちろんですが、特に周囲に古い建物が建っている場合には、その所有者への事前確認や振動対策の協議を十分に行っておく必要があります。

発注者が責任を負う場合

さて、先ほどの民法716条によれば、原則として発注者は責任を負わないとするものの、「注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない」と規定されていますね。

つまり、発注者に過失がある場合には、発注者も損害賠償責任を負うことになるのです。

それでは、どのような場合に発注者の過失が認められるのでしょうか。
大ざっぱにいうと、振動による被害が生じていることを認識していた(あるいは被害が生じることがほぼ確実に予想できた)にもかかわらず、そのまま工事を続行させたような場合には過失ありと認定されます。

具体的には、予算・工期などの都合で、ほぼ確実に振動被害が生じるような方法で工事をさせた場合や、工事中に既に振動被害が発生しているの知りつつ、あえて業者と協議するなどして対策をとらずに工事を進めたような場合に、過失が認められています。

なおこの場合、共同不法行為(民法第719条)として、発注者と施工業者は連帯して損害賠償義務を負うことになります。

施工業者としての対応

無茶な注文によって発注者が損害賠償責任を負うのはいいとしても、結局施工業者も責任を負うことには変わりありません

施工業者としては、不合理な注文はキッパリと断るべきですし、振動被害が生じるおそれが発覚した場合には(簡単ではありませんが)工事方法を見直し、発注者に予算の増加や工期の延長を打診する勇気も必要です。

また、賠償責任保険への加入もお忘れなく。