不動産の売買契約に際し、売主から重要な情報が開示されなかったために不利な契約をしてしまった場合には、買主は売主に何らかの責任を追及することができないか。

契約当事者間に大きな情報格差があるなど一定の場合には、一方から他方に対して信義則上の情報提供義務や説明義務が課されることがあります。
したがって、一方がこれらの義務に違反した場合には損害賠償請求が認められることがあります。

 

問題点

マンションからの眺望を気に入って購入を決めた買主と、3年後にその目の前に新しいマンションが建つことを知っている売主。

売主はこの情報を隠したまま交渉を続け、無事に売買契約は成立。

そして3年後。予定どおり新しいマンションが建ち、眺望は台無しに。

契約書には眺望を保証する条項などなく、売主の債務不履行があったとはいえない
またマンション自体には欠陥がなく、契約不適合責任(瑕疵担保責任)を問うこともできない

それでも、3年後に目の前に新しいマンションが建つことを知っていながら隠して契約した売主に対し、何らかの責任を追及することができるのか、という問題です。

 

一定の場合には情報提供・説明の義務が生じる

多くの裁判例では、売主が買主予定者(購入希望者)に対して一定の情報提供・説明を行う信義則上の義務を認めています。

もっとも、「どのような場合に」「どのような情報提供・説明を行うべきか」についてはケースバイケースで判断されており、具体的な基準を定式化するのは難しい状況です。

若干抽象的ではありますが、あえて定式化するとすれば、ある事項が次の条件を満たすような場合には情報提供・説明義務が認められるといえるでしょう。

  • 売主が知っていた、あるいは容易に知り得た事項
  • 買主に重大な不利益を及ぼすおそれがある事項
  • 買主がそれを知った場合に契約をするかどうかの判断に影響を及ぼすと予想される事項

ただ最終的には、購入希望者の属性(一般消費者なのか業者なのか)や、交渉の過程で購入希望者がどのような話をしていたのかなど具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。

そのため、取引の実務においては似たような事例の裁判例を参照しつつ、個別に検討する必要があります。

 

義務違反の場合にはどうなるか

この情報提供・説明義務は、契約上の義務ではなく契約交渉過程において信義則上生じる義務だとされています(「契約締結上の過失」理論の派生です)。

そのため、情報提供・説明義務違反があったからといって、ただちに債務不履行となるわけではなく、したがって契約を解除できるというわけではありません。

裁判例においては最終的には損害賠償の問題として判断されることがほとんどです。