賃貸してる建物が競売されると借主はどうなる?
賃貸しているマンションやアパートが競売された場合、借主は法的にどのような立場になるのでしょうか。あるいは、借主としてはどうすればよいのか。
以下では、抵当権の実行による競売を念頭に解説します。
抵当権と賃借権はどちらが優先?
まず、抵当権と賃借権はどちらが優先されるのでしょうか。それは、抵当権(の設定登記)と賃貸借契約(に基づく引渡し)のどちらが先かによります。
一般的には、抵当権の設定登記が先で賃貸借契約はそれより後というパターンが多いでしょう。
この場合は抵当権が優先されます。その結果、抵当権が実行されて競売となり、競落されて所有者が替わった場合は借主は出て行かざるを得ません(後述)。
※なお、そのため賃貸借物件に抵当権の登記がある場合には重要事項説明の対象となります。
逆に、賃貸借契約の方が先の場合には賃借権が優先されるため、競売されても借主は住み続けることが可能です。
抵当権が優先される場合
前述のとおり、抵当権が優先される場合には、競売されて所有者が替わったら借主は(出て行けと言われたら)出て行かざるを得ません。
一般に不動産賃貸借契約の借主は立場が強いというイメージがあるかもしれませんが、この場合の借主は非常に立場が弱くなります。
賃貸借契約は終了する
まず、競売手続で新所有者が競落した場合、新所有者が代金を納付した時点で賃貸借契約は終了します。
したがって、原則としては借主はすぐに退去(明渡し)しなければならないのですが、6か月間は明渡しを猶予されます(民法395条1項1号)。
もっとも、建物を利用する対価(法的には「賃料」ではありませんが同じようなものです)を支払う必要があります。
※賃貸借契約が終了した以上は法的には不法占有となりますので、この「対価」は一種の不当利得ということになります。
ちなみに、借主がその対価の支払いを1か月分以上怠った場合は、新所有者は「引渡命令」(民事執行法188条・83条)を申し立てることができます。これは強力で、判決と同様の効力がある上に早ければ1週間程度で命令が出ます。
つまり最短で申立てから2か月くらいで強制執行まで完了してしまいます。
※これに対し通常の賃貸借の場合、賃料支払いを3か月分以上怠ってから解除、そこから訴訟で最低数か月、さらにそこから数か月で強制執行、となり強制執行の完了まで最低でも1年近くかかるのが普通です。
敷金の行方
なお、元の賃貸借契約は終了してしまうので、敷金が新所有者に承継されることもありません。そこで、敷金は旧所有者から返してもらうことになります(所有者変更までの未払分があれば相殺される)。
ただし、旧所有者は抵当権を実行されるような状態ですから、支払能力がどれほどあるか…
ちなみに「旧所有者に払った敷金があるので相殺する」と言って新所有者への支払いを拒否することはできません。その点では、借主としては厳しい立場に置かれます。
借主としては…
以上見たとおり、残念ながら借主として何か対応できることは特にありません。
一般的には不動産賃貸借においては借主が強いといえますが、この場合には何もできないのが現状です。
もちろん、新所有者との間で、従前どおりの内容の賃貸借契約を改めて締結することもあるでしょう。しかし、そうでなければ出て行かざるを得ません。
めったに無い状況とはいえ、抵当権付きの建物に住む場合にはこのようなことがあり得るという点は、借主としても頭の隅に置いておく必要があります。また、問い合わせを受けた管理会社としては、借主に状況を正確に説明するためにも以上の点を理解しておく必要があります。